猫のアログルーミングは本当に仲良しの証?舐め合いながら攻撃することもある理由
猫が他の猫の体を舐める行動を「アログルーミング」と言います。2匹の猫がくっついてアログルーミングしているようすは何とも微笑ましく、つい「仲良しなんだな」と思ってしまいますよね。
しかし、サウサンプトン大学の研究グループによるアログルーミングの調査では「仲良し」とは異なる意外な真実が判明しました。アログルーミング中の猫の3割以上が攻撃行動を行っているというのです。
一見仲良く見えるアログルーミングですが、一体何のために行われているのでしょうか?サイエンスライターの筆者がわかりやすく解説します。
猫社会のヒエラルキーが高い猫が低い猫を舐める
アログルーミングの観察は25匹の避妊・去勢手術を受けた成猫を対象に行われました。その結果、社会的な地位が高い猫が、地位の低い猫を舐めることが多いことが明らかになりました。
また、アログルーミングをする際の姿勢にも特徴があったといいます。舐めている猫は立っているか上体を起こしていることが多く、舐められる猫は座っているか横になっていることが多いのです。つまり、アログルーミングをしている猫の方がされている猫より姿勢が高いことになります。
猫はケンカのときなども、優勢な猫の姿勢が高く、劣勢な猫の姿勢が低くなる傾向にあります。このことからも、アログルーミング中の猫に序列が存在し、舐める方の猫が上位であることが見て取れるのです。
ただし、アログルーミングは厳密なルールに基づいて行われているわけではなく、状況によって行う猫と受ける猫が入れ替わることもあります。この変化は、猫の気分や環境による関係性の変化によって引き起こされると考えられています。
逆に、猫の関係性がアログルーミングによって変化している可能性もあります。アログルーミングは猫の社会的な関係性を反映しているだけでなく、猫の流動的な関係性を調整する役割も果たしているのです。
アログルーミング中に35%の猫が攻撃行動
猫同士で毛づくろいをする姿は微笑ましく「仲良し」に見えますが、意外にも研究チームが観察したアログルーミングの35%で、猫同士の攻撃行動が見られました。
攻撃行動を示すのは主に舐める側の猫で、アログルーミングをした後に攻撃的な行動を取ることが多く、舐められる猫が攻撃することはあまりありませんでした。
この観察結果は、アログルーミングが単なる毛づくろいや友好的な行動ではなく、猫の社会的な関係性を調整するための重要な役割を果たしている可能性を示唆しています。つまり、猫は「優位性を示すために直接攻撃すること」を避けようとしてアログルーミングを行っているのではないかというのです。
猫は単独で狩りを行う生き物であり、怪我をして狩りができなくなることは致命的であるため、猫同士の争いを避ける傾向にあります。とはいえ、食べ物、寝る場所、飼い主の注目など争いたい場面も多くあるのでしょう。研究者たちは、こういった「争うべきではないが争いたい」という猫同士の葛藤を調整するための方法の一つがアログルーミングなのではないかと指摘しています。
オスの方がメスよりアログルーミングに積極的
猫のアログルーミングを観察した結果、もう一つ興味深い事実が明らかになりました。メスの猫よりもオスの猫の方が、アログルーミングを行う頻度が高く、異性でのアログルーミングはほとんど見られなかったのです。
一般的に猫は単独行動を好み、特にオスは縄張り意識が強く他の猫とはほとんど交流しないと言われています。しかし今回の研究結果から、飼育環境ではオスの猫もアログルーミングを通じて活発に社会的交流を行っていることが示されました。
また、猫は同性同士でケンカをすることが多く、異性間でのケンカは比較的少ないと報告されています。このことから、アログルーミングが「争いたいけど争うべきではない」という猫の葛藤を調整するために行われている可能性がより高まりました。
猫たちは、同性同士の交流を避けられない多頭飼育環境においてはアログルーミングを通じて互いの緊張関係を緩和し、グループ内の安定性を維持しているのかもしれません。
アログルーミングは猫同士の関係を調整するもの
この論文は、アログルーミングは単なる毛づくろいや友好的な行動ではなく、猫の社会的な関係性を調整し、群れ内の調和を保つ上で重要な役割を果たしていることを明らかにしています。
アログルーミングをしている猫は必ずしも「仲良し」ではないかもしれませんが、争いに発展しないようにしているのです。すなわちお互いが「仲が悪くならないように」するための行動であることは間違いありません。
猫のアログルーミングを見かけたときには、ぜひどちらが舐めているか観察し、猫たちの関係性や葛藤に思いを馳せてみてくださいね。