止まらない「ゴンチャ」の躍進。背景にあったのは“とにかく楽しむ”、“失敗を恐れない”という代表の哲学
ティーカフェ「Gong cha(以下、ゴンチャ)」の出店が加速している。2022年3月に新たに3店舗をオープンし、日本国内の店舗数は115に。これは、国内におけるティーカフェチェーンの店舗数として圧倒的にNo.1の数となる。
コロナ禍、タピオカブームの“終焉”を経てもなお、むしろそんな逆風もどこ吹く風と店舗数を伸ばしているゴンチャ。その理由を知るべく、代表の角田淳さんに話を聞いた。
――コロナ禍かつ、タピオカブーム後の現在もGong cha(以下、ゴンチャ)は店舗数を伸ばし続けており、国内のティーカフェチェーンにおいて店舗数No.1(※)となりました。その成長戦略について教えてください。
【角田淳】タピオカでいうと、第1次、第2次、第3次というブームがありました。ただ、ゴンチャは、日本へ上陸した当初から一貫してアジアのお茶の楽しみ方を知っていただくことに重きを置いています。そもそも日本では、緑茶に砂糖やミルクを入れたり、ほうじ茶にミルクを入れたりするのは一般的ではなかったですよね。そういった楽しみ方も含めた、アジアのお茶文化が日本に入ってきて、その流れの中でタピオカのブームもあり、「ブームから文化」になったということだと思っています。当然、にわかに流行ると終わりを迎えますが、よく調べてみると、継続的にお茶を楽しんでいる方は、第1次より第2次、第2次より第3次後のほうが層は厚くなっていて世代も広がっているので、自由に楽しむ文化を我々がしっかりとつくっていこうと考えています。その理由は、今までの日本にない新しいことだからです。ゴンチャに関わっている人たちは新しい文化をつくることが好きで、それをモチベーションにして楽しんでいる人たちが集まっています。それがゴンチャの一番の強みだと感じています。
【角田淳】成長戦略でいえば、もちろんビジネスですので「店舗数のターゲット」といった話になりがちですが、我々はファンの数、一店舗あたりをご利用いただくお客様の数にこだわって数字を追いかけています。働くクルーがいい環境で楽しく有意義な時間を過ごすことができ、それがお客様に伝わり満足につながる。このファンの数を追いかけていこうというのが戦略の軸です。重要視しているのは、ご利用いただくお客様の満足度とファンの数で、よく話すのは、たとえば一日100人で100店舗だと毎日1万人、一日300人だと3万人になりますよね。一店舗あたり一日500人くらいのお客様がいらっしゃると100店舗だと5万人になる。つまり、「僕たちは東京ドームいっぱいの人が毎日楽しむ場所をつくっているんだ」ということを話しています。ここに365日をかけると、それってものすごい数字になりますよね。かかわるメンバーには、こんな大きな数字にかかわるチャンスだという視点を意識してほしいですし、とてもたくさんの人を楽しませることができる仕事だと自負しています。
――戦略のコアは、基本的なこと。ベースとなるのは、流行から文化へ、新しいものが定着すること。そして、ユーザーの、お客様の「楽しかったね」という空間の提供、体験価値なんですね。
【角田淳】そのとおりです。お客様の体験価値、それが我々の最も大事にしていることです。
――ゴンチャが考える、お茶の魅力、お茶へのこだわりについて教えてください。
【角田淳】お茶っていろいろなところで飲めますよね。ただ、たいていはティーバッグで出てきて、こだわっているお店などでは一緒に砂時計がついてきたりしますが、一番おいしくお茶が飲めるタイミングってなかなかわからない。長くつけすぎると濃くなってぬるくなるし、早く取り出すと薄いし、ティーバッグを取り出すベストのタイミングって意外とわからないんですよ。ゴンチャはそれぞれの茶葉の特性に合わせて、お茶を抽出して蒸らすという、我々が一番おいしいと思う味わい、タイミングで抽出しているので、どの店舗でも同じ味で飲んでいただけます。このクオリティのお茶は意外と飲めないと思います。もちろん、台湾の阿里山茶など厳選した茶葉を使用していることもありますが、お茶の淹れ方、それが一番のゴンチャの強み、こだわりだと考えています。
【角田淳】アルバイトで働いてくれているスタッフの中には、もともと「タピオカが好きで入りました」という方も多いのですが、その後、話を聞くと「今はお茶が好きです。ゴンチャのお茶がおいしい!」という人がすごく多くて、うれしいですね。お茶の品質、ここが一番のこだわりで、抽出して、品質を保てる時間でご提供しています。
――品質管理はかなり徹底されているんですね。
【角田淳】たとえば、工場で抽出してつくられるペットボトルのお茶は品質管理ができていますよね。ただ、保存という問題があるので、淹れ立てのお茶の味わいという点では課題がどうしても生じると思います。
――たしかに、購入者が飲むタイミング…これは難しいですね。
【角田淳】そう、鮮度という課題ですね。僕は温泉も好きなので、鮮度にはこだわりたいと思っています。
――?鮮度ですね。全然、予想していなかったです(笑)。
【角田淳】すみません、急にそっちかってなりますよね(笑)。
――いえいえ、和みました(笑)。ありがとうございます。では次に、ゴンチャの今後の展望について教えてください。
【角田淳】コーヒーを飲むシチュエーションって、少し疲れているときというか、眠いときというか、ちょっとした“きつけ”的に飲むことが多いですよね。お茶は、もちろん濃くてカフェインが強めのものは“きつけ”的に飲めますし、リラックスできるノンカフェインやハーブを使用するものもあり、その味わいや香りの幅広さから気分によって楽しみ方を変えられます。お茶は、その日その時の気分で楽しめるもの。ゴンチャをご利用いただいているお客様にそれぞれのティースタイルをつくっていただく、それが我々の目指しているところです。お茶は、茶葉をベースに発酵の違いもありますし、そもそも茶葉以外からつくられるものもある。実に幅広いのと、その多くはアジアが産地で、日本人の文化にも直結しています。ゴンチャは台湾で生まれたアジアが中心のブランドですが、我々日本のチームはそこに日本の文化を加えながら、グローバルで成長していくゴンチャに僕らの意思も込めたいと考えています。
――コーヒーとの違いはたしかにありますね。
【角田淳】たとえば、寝る前にはあまり飲まないですよね。でも、お茶は寝る直前にも飲めるものがあるし、そういったところがお茶の懐の深さというか、そのときの気分に合わせられる。もちろんコーヒーも気分に合わせて飲むものかもしれませんが、やはりどちらかというと気分をあげるために飲むイメージがあるので、そこが違いかなと感じています。もっと自由に、甘さを調節したり、何かと混ぜて飲んだりと、お茶はそうしたベースとしても活用できるので、その持ち味を最大限に、バラエティーに富んだ形で紹介して楽しんでもらう。それこそ、タピオカが入っていたり、ナタデココが入っていたり、そういったアレンジを含めてかなり自由にできるので、それがお茶の魅力だと考えています。
――それこそ十人十色、人の数だけバリエーションがありそうですね。
【角田淳】それこそ無限大の可能性があると思います。一方で、自分流を自分で好きに選ぶという文化は日本ではまだまだ馴染みのないものでもあると思うので、ある程度、こちらからご提案をして、そこから自分で決めて好みのものを見つけてもらえるような形をつくれればと考えています。
――次に、角田さんのキャリアについてお伺いさせてください。自動車メーカー、スポーツマネジメント、マーケティング、そして飲食業界と、実に幅広いジャンルでのキャリアをお持ちですが、キャリア観、仕事観について教えてもらえますか?
【角田淳】最初の自動車メーカーでは、社会人としての“しつけ”を学びました。契約社員として入社して、環境としておもしろかったのが、外資が入っていたこともあり、ブラジルとアメリカ、日本の共同プロジェクトとして開発を進めるチームに所属しました。また、当時は副業で音楽イベントの仕事をやっていました。自分の中で常に軸として持っているのは、「楽しいを仕事にしたい」「ハッピーを広げる仕事をしたい」という想いです。音楽もスポーツも飲食も、すべてそれに当てはまると考えていて、キャリアの軸に置いているのはここですね。やっぱり、“楽しい”をメインにしたい。僕の中では、“楽しい”がない仕事はワクワクしない、それが理由です。
――ありがとうございます。業界が変わるとき、違いなどはやはり感じましたか?
【角田淳】サブウェイでファストフードの世界に初めて身を置いたとき、最初はちょっとしたカルチャーショックがありました。毎日、「サンドイッチが何個売れた」と、それまでの世界とは単価感も違いますし、そのスピード感に追いつくのに3年程かかりました。
――たしかに、違いは大きいですね。
【角田淳】キャリアをさかのぼると、20代後半のときは個人事業主のような形で音楽イベントの運営などもやっていたのですが、これがなかなかお金にならなかったですね(苦笑)。その後、もう少ししっかりとした形のスポーツイベントなども取り組み始めて、その流れでスポーツマーケティング、イベントマーケティングやPRの仕事を行うようになり、レアル・マドリードに関わる仕事もしていました。レアル・マドリードの日本での権利を取り扱うレアルマドリード・マーケティング・ジャパンという会社をニチメンとプラティアとフロムワンとの合弁でつくった際に、僕も声をかけてもらい、所属して三日後くらいにはマドリードにいました(笑)。そこから2年ほどマドリードに滞在。エンターテインメントのど真ん中みたいな仕事の時代でした。
――レアル・マドリードが「銀河系軍団」と呼ばれていた頃ですね。
【角田淳】連続で来日ツアーがあった頃ですね。(ジネディーヌ)ジダンとか(デイヴィッド)ベッカムとかラウール(ゴンサレス)とか、スター選手が勢ぞろいでした。近くで見ていて、すごく勉強になりましたね。ただ、音楽もスポーツも僕自身はファンではないんですよ。
――ファンではない?
【角田淳】もちろん、サッカーをやるのも、音楽イベントで踊るのも好きです。だけど、どちらかというと、そういう“楽しむ場所”をつくることが一番好きなことで、常に裏方側に入っているという感じです。マドリード時代もひとりでの駐在だったので、選手の取材対応に同席したり、来日のときもマドリードからのチャータ便に選手と一緒に乗ったりするなど常に行動を共にしていましたが、選手との関係はフラットに対等に接するので、選手側もやりやすかったみたいです。
――貴重な経験ですね。そして、その後、サブウェイに。
【角田淳】スポーツの仕事でトライアスロン協会関連の仕事をしていたとき、当時の日本サブウェイが協賛についていたことがあって、いろいろ調べてみると、すごく魅力のある会社だなと思い、当時の社長に声をかけていただき入社しました。外食業は関わっている人がとても多く、今のゴンチャもそうですが、お客様に直接対応する現場の人たちが実践できてなんぼというところがあります。今この取材を受けているこの会議室のような場所で僕やそれぞれの部署の人間が朝から晩までいろいろなことを考えているのですが、結果として、それを受け取るのは店舗にいる一人の店長しかいないわけです。どんなに素晴らしいプランを立てても、受け手のことを考えないと机上の空論になるし、もっといえば、店舗ではたくさんのアルバイトの方が働いているので、彼女たち彼らが楽しく実践できるような企画にしないとお客様に伝わらない、届かない。そこが難しいところでもあり、逆におもしろいところでもあります。
――難しいからおもしろい?
【角田淳】僕は8歳の子供と、よく一緒にスケボーをするんですね。彼の目的は「楽しむ」ことで、50歳の僕の目的は「転ばないこと」なんです。転ばないことを目的にやっている僕は、絶対にうまくならないですよね。目的が転ばないことだから、よけいなこともしないし(苦笑)。仕事も一緒かなと考えていて、失敗しないことを目的にすると全く広がらない。ある程度のリスクを取ることが大切だと考えています。我々の目的はお客様に楽しんでいただくことであり、クルーに充実感を持って取り組んでもらうこと。目的を間違えて、転ばないための作戦になると、どこにもたどり着かないと思います。僕自身、すべてのキャリアの中でたくさんの失敗をしていますが、たくさん失敗できるってラッキーだなと考えています。スポーツでも、再起不能になるようなケガは避けなきゃいけないけど、次につながるようなチャレンジに伴う軽いケガはしたほうがいいと思うし、逆に、しないと成長できない。このことを忘れないようにしようと思っています。年齢を重ねると守りに入りがちですから(笑)。
――僕も40代半ばですから、ケガのリスクは避けたいと思いつつ(笑)、「失敗の定義」の問題でもありますよね。仮に、右に進んでみて壁にぶつかったとすると、左に進めばいいということがわかる。この場合、右に進んだことは果たして失敗なのかという。
【角田淳】進めない道を知った、覚えたということですよね。プラスに転換していかないと、どこにも行けなくなってしまう。ゴンチャ ジャパンの社長に就任して5カ月ほどですが、早々にいろいろな失敗をし始めています(苦笑)。もちろん、お客様があっての商売なのでいい加減なことはできませんが、我々のチャレンジを感じていただいて、前向きなゴンチャを見ていただきたいという想いがあります。お店をご利用いただいているお客様には若い世代の方が多いですし、いろいろなことにチャレンジしているゴンチャの姿をぜひ楽しんでいただければと思います。
――最後に、角田社長の今後の野望を教えてください。
【角田淳】ゴンチャの話でいえば、アジアのブランドで、日本チームのパワーを見せたいと考えています。今、ゴンチャはグローバルで約1700店舗に到達しようとしているのですが、そのうち日本が3月末時点で115店舗と、店舗規模では全体の約7パーセント。一方、売上規模で見ると全体の20パーセント超になります。ゴンチャの成長を我々が牽引することができれば、さらにいろいろなことが自分たち主導でできるようになるのでそれを実現したいですね。いわゆる外食チェーン系の業界で世界的に成功しているブランドって、ほとんどがアメリカなんですよ。理由は、アメリカは世界の縮図というか、様々な人種の方がいる環境なので、誰が働いても効率的にできる仕組みづくりの部分や、お客様にもいろいろな人種の方がいるので、世界に進出したときの優位性があるからです。
――自国でグローバルのマーケティングができる、そういう優位性があるんですね。
【角田淳】そうなんです。ただ、アジア人としては、アジアのブランドをグローバルに広げていく試みをやってみたいと考えています。
【角田淳】それから、個人の話としては、常にチャレンジし続けたいと考えています。それは仕事に限った話ではなく、たとえば今も、後輩が音楽フェスを運営しているところに顔を出したりしていますし、いろいろな“元気をつくるところ”に携わりたいと思っています。みんなが気づき始めていることだと思いますが、お金やモノも大事かもしれないけど、それだけではない、と。店舗で働いている店長も僕も持っている24時間は同じく24時間です。そのうちの8時間くらいを仕事に割いているとすると、二度と帰ってこない貴重な時間をゴンチャに投資している。そういう意味では、それぞれの自分の時間に対する責任は自分にあるわけです。自分の時間をどう使っていくか、これはとても大事なテーマで、自分の時間をどう使いたいかについては常に意識していたいと思っています。「この人と一緒にいたい」とか「あの場所を見てみたい」とか、お金や対価といったものだけではなく、そういう視点で自分にとっての価値を追求し続けていきたいと考えています。
※日本国内13チェーンを対象にしたデスクリサーチ(株式会社ショッパーズアイ)より/2022年2月時点