世間が知らない「最強寒波でも走り続けるトラックドライバーたち」
昨日から今年一番の寒波が日本各地を襲い、関西地方を中心に高速道路が通行止めになったり、大手運送会社が配送・集荷を停止したりするなど、物流に大きな影響が出ている。
昨今、台風や大雪などにおける物流の遅延の可能性を報じるニュースに、SNS上などでは「無理して運ばなくてもいい」や「ドライバーには安全を第一にしてほしい」と寛容な声が目立つ。
「現地の家族に何かあったら責任取れるのか」
都内で宅配業に従事する男性も、「以前に比べれば有事の際における配送の遅延に、世間は寛容にはなった」と話す。
しかし、その一方でいまだに「どんな時でも時間通りに運ぶのがプロだろう」という声も聞こえてくるとも。
「家族の住んでいるところが大雪になったため、荷物を送ってあげたいと配送をご依頼される方がいらっしゃるんですが、現地は大雪なので希望されている翌日配達ができない旨をお伝えしたところ『家族に何かあったら責任とれるのか』と激高されました」
さらにはこんな声も。
「ネットには優しい言葉が溢れているんですがね。実際対応する現場には、そういう優しいお客さまばかりではない」(大手宅配企業電話オペレーター)
また、ある別の大手宅配企業の男性作業員も、雪が降っている地域をあたかも自分の住んでいる雪のない地域と同じ環境だと考えている客や、配送や集荷を停止しているにもかかわらず、その地域に住んでいる知人が困ってるからといって荷物を持ってくる客が多いと嘆く。
「高速道路が通行止めになっているのに遅延したら怒られる。ほんと好き放題言われます」
大雪でも家に帰らず車中泊
一方、日本の道路にはこうして我々が日ごろ接する機会の多い個配のドライバー以外にも、一度運行に出たらしばらく家に戻らず、寒波の中でも車中泊をしながら荷物を運ぶトラックドライバーたちがいる。
「大型車で群馬から大阪に向かって輸送中です。現在利用できる有料道路が名神しかなく(名阪国道も通行止め)、その名神も部分的に通行止め&渋滞中なので、中央道を途中で降りて一般道で頑張ってます」(大型長距離ドライバー)
※情報は昨晩現在
「自分は離島便なので、寒波の影響で日本海の波が高くて船が欠航、交代で島へ渡っている先輩は帰れなくなっています。普段は4tで運行ですが、欠航の翌日は10tです。港までの峠越えの高速が怖い。平地でも5,60cm積もったので、そこらじゅうでトラックが立ち往生しています」(30代4トン地場・離島便)
トラックはその車体の大きさからどんな道でも走れるわけではない。
1台でもトラックが道で立ち往生すると、たちまち周囲に影響を及ぼすため、走るルートには気を遣う。
「坂道、狭い道、片側一車線を避けて走るようにしています。自分が立ち往生した時に、他のドライバーに迷惑かけないために」(30代大型近距離飼料原料輸送)
そんなトラックドライバーたちに、今回の大寒波でどんな対策をしているのか聞くと、やはり食料や防寒具などをいつもより多めに積んでいると答える人が多かった。
「寝る時、あまりに寒かったらジャージ重ね着します。水とお茶もいつもより余分に買いました」(40代長距離フリー)
「数年前に関越で42時間立ち往生にハマりました。今回は飲料水1ケースに3日分の食料、カイロ、布団、使い捨てゴム手袋を狭い車内の中、助手席に山のようにして積んでます。会社は守ってくれないので、自分の身は自分で守るしかないというのがその時の教訓」(30代中距離トレーラー)
「今シーズンは既に1回ハマってるので、水や米などの食料と車で使える炊飯器、簡易トイレを常備してます」(40代中距離トレーラー)
またこうした悪天候の際、これら食料品や防寒具と同じくらい必要になるのが「情報」だという。
「燃料と通行止めや天気予報の情報は大事ですね」(40代中距離トレーラー)
「一番重要視しているのは情報収集ですかね。どこの道が通れなくて、どこが通れそうか。どこの渋滞が少なさそうか。交通情報とかライブカメラを探して検討してます」(50代大型中距離フリー)
「情報源はTwitterが主です。全国を走るトラックドライバー同士のつぶやきで、リアルタイムな道路状況や天候を把握しています。天気予報やラジオの交通情報より早くて正確です」(40代長距離大型雑貨)
大寒波でも「アイドリングストップ」
こうした悪天候のなかの運行では、法律やモラルを守れないという声も多い。
「悪天候の時は、走れる時に走って距離を稼がないといけないので、法律で決められている休み時間が守れなくなる。これ以上走ると危険だと思った時に、無理して走らなくていい環境をあらかじめつくっておくほうが大事だと思う」(30代長距離食品系)
しかし、そんな状況下においてもドライバーに対するモラルやコンプライアンス遵守の声は聞こえる。
「真夏でも問題になりますが、こんな大寒波の時でも『アイドリングストップ』を求められるのはきつい。地域によって車内は氷点下まで下がります。まあ結局エンジン掛けてても寒いことに変わりはないんですが、暖房の利いた部屋で『環境に悪いからエンジン止めろ』とクレームを言ってくる人たちには、一度真冬に車中泊してみてほしい」(50代中距離精密機械)
「物流=血液」簡単には止められない
また、世間からは「無理して運ばなくてもいい」という声もあるが、それでもトラックドライバーには、運ばなければならない事情も。
「宅配や混載便などは、荷受した後に道路が通行止めになると、集荷拠点(各所から受けた荷物を一度集める中継場所)に荷物がどんどん溜まっていく。集荷拠点は倉庫ではないので二日分を持ちきれず、次の拠点に発送・運行して吐き出さざるを得ない。集荷の時点で止めないと、トラックはもう止められないのです」
24時間止められない物流が「血液」と例えらえる所以はここにある。
一方、「不要不急の外出の自粛」が要請されるなかで、「自分が今運んでいる荷物は果たして不要不急のものなのか」、「荷物よりも大事なものがあるのでは」、「危険を冒してまで運ぶ荷物なのか」と疑問を抱くドライバーもSNSには数多く見られた。
「送料無料」「物流コスト」という表現のせいで、まるで「必要のないもの」として扱われることも少なくないトラックドライバーたち。
こうした寒波の中でも、車中泊をしながら全国に荷物を運ぶ彼らがいるからこそ、私たちは当然のように日常生活・経済活動ができていることを、こうした機会に是非意識してみてほしい。
※ブルーカラーの皆様へ
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