鉄平や松中はオファーを待つのではなく、代理人が所属先を見つけてくるべき
昨日ある会議に出席した。そこで拝聴したある方のスピーチに感銘を受けた。社会学者でもあるその方は、「世間の常識は時代とともに移り変わるものであり、ある事象を異なる角度から見ると今まで気づかなかった問題点が浮き彫りになる」という主旨のことを語っておられた。そして、例として天気を挙げた。屋外イベントを開催するにあたって空模様はとても大事にことなのだけれど、長い間それは「どうしようもないこと」と考えられていた。しかし、2008年の北京五輪ではミサイルを撃ち込むことにより、開会式と閉会式に雨が降らぬようコントロールされたことはまだ記憶に新しい。この時、天気という制御外のものが担当者にとって責任範囲の必須制御項目になったのだ。まさにパラダイムの転換だったのだ。
これと似ているなあ、と思うことがプロ野球界にある。ここ数日目にしたニュースに、2009年の首位打者でオリックスを戦力外になった鉄平や、最後の三冠王(2004年)でソフトバンクを退団した松中信彦といったかつてのスターが、来季の所属先を求めオファーが来るのを待ちながら孤独なトレーニングに励んでいるというものがあった。
これを、プロ野球の世界の厳しさを示すエピソードやアスリートのヒューマンドラマの一部分としてのみ捉えているファンがほとんどだろう。だけど、ぼくはちょっと異なる問題としてこのニュースを解釈した。
「どうして彼らはひたすら待つ、という受け身の立場に置かれなければならないのだろうか」
野球選手はアスリートであって本質的にはビジネスマンではない。ここは、鉄平も松中も自らはコンディション作りに専念し、彼らの利益を代弁する代理人が来季の所属先を見つけるべく奔走する、というのがあるべき姿だろう。その結果、NPB球団は無理そうであれば、ひとまずは独立リーグ籍を置いて当面は実力が衰えていないことを証明するのがベストという提案が来るかもしれない(松中はNPB以外が拒否の姿勢を見せているようだが)。
ところがここに述べたあるべき姿は、現時点では絵に描いた餅でしかない(ひょっとしたら、鉄平や松中にも代理人がいるのかもしれないが、表面だってその存在が見えてこないし、その成果も感じられない)。残念ながら、球界には代理人制度が根付いていないのだ。その背景としては、球団側は代理人を日本弁護士連合会所属の日本人弁護士に限定し、1人の代理人は複数の選手と契約してはならないなどとしていることも挙げられる。これにより、契約に関与するという代理人にとって美味しい部分が骨抜きにされている。したがって、代理人業はオフのテレビ出演のマネジメントなどの野球以外の部分に限定されがちなのが現状だ。アメリカなどでも、代理人は選手の私生活のサポートやサイドビジネスまで担当するケースが一般的だが、それも本業として契約をまとめ上げ、成功報酬を受け取ることがあってのことだ。
この事態の改善は、むしろ選手組合側の大きな課題と言えるだろう。