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クルードラゴン有人飛行試験へ。最後のスペースシャトルパイロットが再び宇宙船に搭乗

秋山文野サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)
スペースXのクルードラゴン宇宙船。Credit : SPACEX

2020年5月27日米国東部標準時午後4時33分(日本時間5月28日午前5時33分)、アメリカから9年ぶりに有人宇宙船が宇宙飛行士を乗せて飛行する。スペースXが開発した新型宇宙船「Crew Dragon(クルードラゴン)」を同社のFalcon 9(ファルコン9)ロケットに搭載して有人試験飛行Demo-2を実施、NASAのロバート(ボブ)・ベンケン、ダグラス(ダグ)・ハーリー宇宙飛行士の2名が搭乗する。米国発の有人宇宙船が復活するだけでなく、ダグ・ハーリー宇宙飛行士は、スペースシャトルの引退飛行と新型宇宙船の初有人飛行の両方を経験することになる。

打ち上げを待つクルードラゴン宇宙船(5月21日撮影)Credit : SPACEX
打ち上げを待つクルードラゴン宇宙船(5月21日撮影)Credit : SPACEX

飛行までの道のり

クルー・ドラゴンは、2011年のスペースシャトル退役を受けてNASAが民間企業から宇宙飛行士輸送を調達する「コマーシャルクルー計画」の元で開発された新型宇宙船。大型の搭載能力と再利用性を誇ったスペースシャトルだが、飛行回数が伸び悩んだことによる高コスト化という問題を抱えていた。ソ連時代に開発され、現在はロシアが運用を続けるソユーズ宇宙船に比べ、宇宙飛行士1名あたりの輸送コストは2倍になるという推算もあった。

さらに、2003年に起きたコロンビア号の事故により、安全性の問題が再燃したことからブッシュ政権時代の2005年にスペースシャトル退役が決定し、民間開発の宇宙船をNASAが利用するための準備計画が始まった。2010年にオバマ政権下で計画は法制化され、イーロン・マスクCEOが設立したスペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ(スペースX)に加えてボーイング、シエラネバダ・コーポレーションが開発計画に参加。2014年にボーイング、スペースXの2社が宇宙船開発企業として最終的にNASAに選定され、42億ドル(ボーイング)、26億ドル(スペースX)の開発費を受け取った。2024年までに12回、述べ48名の宇宙飛行士をISSに送る目標となっている。

ファルコン9ロケットと統合されたクルードラゴン宇宙船。Credit : SPACEX
ファルコン9ロケットと統合されたクルードラゴン宇宙船。Credit : SPACEX

だが、開発は予定通りに進まず、2017年の初飛行目標からは大幅にずれ込むこととなった。スペースX側の開発で大きな遅延の要因になったのは、2016年9月に発生したイスラエルの通信衛星AMOS-6打ち上げ準備中の爆発事故だとされる。このときの事故原因は、衛星を搭載するFalcon 9ロケットの第2段内部で、ヘリウムの圧力容器の周囲に溜まった液体酸素が容器を破損させたことだと結論付けられている。同様の事故が再度起きる可能性があり、スペースXはFalcon 9ロケット第2段の設計変更と推進剤充填手順の改善を余儀なくされた。宇宙船の開発中に、ロケット側の設計変更まで発生したことが遅延リスクとなった。

2019年3月、クルードラゴンを完成させたスペースXは大きなマイルストーンである無人飛行試験を実施、宇宙船はISSまで無事に飛行し、自動的ドッキング機構もすべて正常に動作した。このまま2019年中に有人飛行試験の実施まで進むことが期待されていたが、翌4月にはクルードラゴンの飛行中断システム試験中に火災が発生するという事故が起きた。原因は推進剤充填の経路にあるとされ、スペースXは改善にさらなる時間を要した。

スペースXと並行して宇宙船「CST-100 スターライナー」の開発を続けていたボーイングだが、2019年12月の無人飛行試験でエンジン燃焼が計画通り行われず、飛行計画を変更してISSへの到着を断念するという事態に見舞われる。ボーイングは開発続行と無人飛行試験の再実施を決めたが、開発遅延とロシアのソユーズ宇宙船への支出がかさむNASAの開発支援体制は、たびたび米会計監査院の指摘を受けていた。

2020年1月、スペースXは新型宇宙船にとって重要な機能である飛行中断機能の試験に成功する。スペースシャトルは打ち上げ中に飛行を中断して宇宙飛行士が脱出する機構を持たないことが安全上の懸念とされており、民間開発の新型宇宙船には不可欠の機能だった。試験に成功したことで、スペースXはボーイングに先駆けて新型宇宙船の有人飛行試験を実施することが決定。ボブ・ベンケン宇宙飛行士とダグ・ハーリー宇宙飛行士は、9年ぶりにアメリカ国土から打ち上げられる宇宙船に初搭乗することになった。

最後のスペースシャトルパイロット、再び宇宙へ

奇しくも、ダグ・ハーリー宇宙飛行士は2011年7月のスペースシャトル・アトランティス号による最後のスペースシャトルミッション(STS-135)でパイロットを務めている。スペースシャトルという巨大宇宙輸送システムのラストフライトを飾った宇宙飛行士が、新型宇宙船の初飛行で再び宇宙へ向かうこととなった。

5月23日、ケネディ宇宙センターでのリハーサルに向かうダグ・ハーリー宇宙飛行士(左)とボブ・ベンケン宇宙飛行士(右)。Photo credit: NASA/Kim Shiflett
5月23日、ケネディ宇宙センターでのリハーサルに向かうダグ・ハーリー宇宙飛行士(左)とボブ・ベンケン宇宙飛行士(右)。Photo credit: NASA/Kim Shiflett

5月23日、ボブ・ベンケン、ダグ・ハーリー両宇宙飛行士はフロリダ州のケネディー宇宙センターで打ち上げ前のリハーサルに参加。クルードラゴンの船内に入り、打ち上げ45分前に行われるロケットの推進剤充填の確認作業までの手順を本番と同様に進めた。23日の時点で、27日が打ち上げに適した天候になる確率は40パーセントと予想されており、荒天の可能性がやや勝っている。打ち上げ延期の場合は、5月30日午後3時22分(日本時間31日午前4時22分)、または5月31日午後3時(日本時間6月1日午前4時)がバックアップ打ち上げウインドウとして設定されている。

打ち上げ後、クルードラゴンは国際宇宙ステーション(ISS)に向かい、ISSに滞在中の第63次長期滞在クルーに加わる予定だ。ISSを離れるミッション終了日は実はまだ決まっておらず、クルードラゴンの次回の飛行「クルー1」ミッションの準備状況によって決定される。クルー1は本格的な宇宙飛行士の輸送開始となり、JAXAの野口聡一宇宙飛行士が搭乗する予定だ。

サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)

1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経てサイエンスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。2023年4月より文部科学省 宇宙開発利用部会臨時委員。

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