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【熊本地震】「“震災ポルノ”ではなく潜在的課題を報じて」 農村社会学者が感じた震災報道の “違和感”

田中森士ライター・元新聞記者
熊本大名誉教授(農村社会学)の徳野貞雄氏=4月12日撮影

熊本地震では、農山村部も大きな被害を受けた。しかし、こうした地域の報道量は極めて少なく、被害状況の認知度は低い。農山村部の復興に携わる、熊本大名誉教授の徳野貞雄氏は「マスコミは “震災ポルノ” ではなく潜在化した課題を報じてほしい」と訴えている。徳野氏に、被災地が抱える課題などについて聞いた。

「マチ型震災」と「ムラ型震災」の複合型震災

ーー今回の熊本地震の特徴とは。

徳野氏:大規模な直下型地震だったため、被害が広範囲に及んでいる。それにより、「マチ型震災」と「ムラ型震災」の複合型震災となった。

ところが、マスコミの報道が限定された地域のみでなされ、「マチ型震災」ばかりがクローズアップされてしまった。農山村部を指す「ムラ」においては、土砂崩れや6月に発生した豪雨の影響もあり、今も元の暮らしが取り戻せていない場所が多い。

ーー農山村部の被害状況について教えてください。

徳野氏:活断層の亀裂により、広範囲の田畑や用水路、道路が使用できなくなっている。結果、集落が孤立するなどし、地域構造が大きく変容した。

「熊本城」「益城町の市街地」「阿蘇大橋」「車中泊」「仮設住宅」など、目に見える分かりやすい「マチ型震災」に報道が集中したことも、問題だ。一方で、御船町、山都町、美里町など、農山村部の被害状況については、ほとんど報道されていない。

「目に見えにくい被害を伝えて」と訴える徳野氏=4月12日撮影
「目に見えにくい被害を伝えて」と訴える徳野氏=4月12日撮影

ーーなぜ報道が「マチ型震災」に集中したのでしょうか。

徳野氏:一つは二次被害の発生を恐れたマスコミ自身による、農山村部への取材の自粛。農山村部につながる道路が寸断されたことも影響した。また、応援取材に来る記者が若く、農業・農村への問題意識が低いことも、理由として挙げられる。報道の偏りは、過去の災害時でも見られたものだ。

度が過ぎた報道は“震災ポルノ化”のリスク

ーー報道に求めることは?

徳野氏:「ムラ型震災」に限ったことではないが、目に見えにくい被害を、もっと多く伝えてほしいと強く願う。例えばトイレ問題。人間、排泄を長い時間我慢することは難しい。特に女性や高齢者は、発災直後、どこで排泄するかという問題に直面した。こうした課題を報じることで、地震の経験が日本全体で共有・蓄積されていく。

目に見えにくい被害に共通するものは「日常生活の解体」だ。これを早期に復旧させるために、報道や研究者はこのテーマにもっと注目してほしい。

今回の熊本地震で特に感じたことだが、テレビや新聞は「心の交流」などと、心温まるエピソードを紹介しすぎだ。もちろん、こうした報道には、人々を勇気付けるという素晴らしい目的がある。しかし、それも度が過ぎると“震災ポルノ”となってしまう。被害のあった建物や橋などの映像も、明らかに多すぎる。何でもバランスが大事。マスコミは“震災ポルノ”ではなく、目に見えにくい潜在化した課題について、しっかり報じるべきだ。

ーー“震災ポルノ”とは?

徳野氏:目に見える感動しやすい部分を、安易に取材して記事化したものを指す。報じたとしても、課題が解決されることはない。

ーー東京など都市部に住む人々が「ムラ型震災」に目を向ける意義はどこにあるのでしょうか。

徳野氏:人間が「マチ」で生活していく上で、「ムラ」はなくてはならない存在だ。水、食料、エネルギー。これらの大部分が「ムラ」で生み出されている。

そもそも、もともと日本には「ムラ」しか存在しなかった。人間は、「ムラ」で生活の方法を身につけていった。「マチ」はいわば突然変異なのだ。

「マチ」は貨幣経済。お金があるから「マチ」で生きていける。ほとんどの人が錯覚しているが、お金は実態のないものだ。つまり「信用」だけで成り立っている。社会が正常な状態では機能するが、一度混乱が起きれば、お金だけでは生活していくことはできない。人間が生活していくためには現実、すなわち「ムラ」が必要なのだ。

「まずは人々の『暮らし』から」と指摘する徳野氏=4月12日撮影
「まずは人々の『暮らし』から」と指摘する徳野氏=4月12日撮影

「人の気持ち」を元どおりにすることが本当の復興

ーー「ムラ」より先に「マチ」から復旧・復興が進んでいるように感じます。

徳野氏:誤解を恐れずに言えば、私は熊本城の完全復旧は最後でいいと考えている。城が完全に元に戻るまでには、20年かかるという。「とにかく早く復旧しよう」という声も大きいが、仮に人的・金銭的資源を結集させ、急いで元どおりにしたところで、果たして本当に復興したと言えるのか。私はそうは思わない。まずは人々の「暮らし」からだ。

とはいえ、熊本城は熊本で最もシンボリック(象徴的)な建造物。将来的には、復旧させなければならない。城の何を元に戻すべきなのか、じっくり議論すべきだ。復興と復旧を混同してはいけない。「見た目」を元どおりにするのが「復旧」で、「人の気持ち」を元どおりにするのが「復興」。「人の気持ち」を元に戻すとの観点に立ち、熊本における城の役割、材料、工法など議論を深めてほしい。

ーー「人の気持ち」を元どおりにさせるために、具体的にどういったことが必要なのでしょうか。

徳野氏:例えば、熊本県御船町水越の事例は示唆に富んでいる。この地域では、熊本地震で山から崩落し作業道を塞いでいた巨石を、ネットオークションに出品したことで、話題を集めた。落札額は2400円。落札者は、これを敷石に使うそうだ。

この地域は、ほかの「ムラ」同様、高齢者が多く、メディアに取り上げられることも少ない、孤立した地域だった。しかし、このニュースが多くのメディアに取り上げられたことで、地域住民らは「見捨てられていない」「自分たちはまだ頑張れる」と、前向きな気持ちになれた。

このように、「ワクワク感」を生み出す取り組みに、地域内外の人間が参加すべきだ。地震が起きてしまった以上、くよくよしても仕方がない。地震を逆手に取り、仕掛ける。住民らに「ワクワク」を感じてもらうことで、気持ちは元どおりになるばかりか、よりポジティブになれる。これこそが「創造的復興」なのだ。

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<プロフィール>

徳野貞雄(とくの・さだお)

熊本大名誉教授、一般社団法人「トクノスクール・農村研究所」理事長。2015年3月まで同大教授を務めた。農村社会学が専門で、「道の駅」の発案・命名者としても知られる。

※【4月13日21:57更新】「“震災ポルノ”の説明がなく分かりにくい」とのご指摘をいただき、該当の一問一答部分を追加しました。徳野氏は取材時に“震災ポルノ”について筆者に説明しておりました。必要な要素であったと反省し、お詫びいたします。

ライター・元新聞記者

株式会社クマベイス代表取締役CEO/ライター。熊本市出身、熊本市在住。熊本県立水俣高校で常勤講師として勤務した後、産経新聞社に入社。神戸総局、松山支局、大阪本社社会部を経て退職し、コンテンツマーケティングの会社「クマベイス」を創業した。熊本地震発生後は、執筆やイベント出演などを通し、被災地の課題を県内外に発信する。本業のマーケティング分野でもForbes JAPAN Web版、日経クロストレンドで執筆するなど積極的に情報発信しており、単著に『カルトブランディング 顧客を熱狂させる技法』(祥伝社新書)、共著に『マーケティングZEN』(日本経済新聞出版)がある。

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