再度の緊急事態宣言、都が発令を求め、国が発令をためらう理由とは
先手どころか後手後手の緊急事態宣言
今日2日、東京都と埼玉県が緊急事態宣言の発出を政府に要請するとの報道がなされました。午後2時から小池東京都知事と大野埼玉県知事が西村経済再生担当大臣と面会して、要請するということです。
この緊急事態宣言の発出要請については、既に年末から東京都の中で検討されていたことでもありましたが、大晦日31日の東京都新規感染者数や年末年始の医療供給体制の逼迫から発出を正式に要請することになったもので、今後同様に感染者の増加傾向が続く近隣の千葉県や神奈川県も追随して要請する見込みとの報道もあります。
菅総理は変異株の存在が明るみに出た昨年末に「国民の命と暮らしを守るために先手、先手で対応するために土曜日(26日)に方針を指示し、全世界から外国人の新規入国者の停止を発表した」とコメントをしていましたが、多くの国民は「後手後手」の印象を受けていることは間違いありません。12月の内閣支持率は各紙各社ともに急激な低下を記録しており、1月もこの傾向が続くことは間違いないでしょう。
新型コロナウイルス感染症の対策で鍵となるのは、適用法である新型インフルエンザ等対策特別措置法のあり方です。昨年4月の第1波の際からも実効性を含めた課題が指摘されていましたが、感染拡大の状況が続く中で、事業者に対する休業要請や都道府県知事の権限などといった課題がますます浮き彫りになっています。
特措法改正を見送ったのは与党政府の責任
特措法改正はこれまで議論に上がっていなかったのでしょうか。去年の臨時国会では立憲民主党、共産党、国民民主党、社民党の野党4党が、12月2日に特措法改正案を国会に提出しています。その内容としては、都道府県知事が緊急事態宣言発出を政府に要請できるようにするほか、臨時医療施設を開設したり、休業要請対象施設への立入検査を実施できるようにするものでした。
また日本維新の会も、12月2日に片山虎之助共同代表らが菅総理大臣に対して、「新型コロナウイルス対策に関する提言」という名の提言書を手渡しています。野党共同提出の法案とは内容が異なるものの、事業者に罰則付きの営業停止命令を出せるようにする一方、営業停止に従った事業者に対しては国が相当額の営業補償金を交付することを明記しているという点で、拘束力が強いものです。
確かにいずれの法案や提言も臨時国会最終盤である12月頭に出されていたという点で「取りあえず出しただけ」「野党のパフォーマンス」という指摘があったことも事実です。一方、臨時国会の延長や、通常国会開会の前倒しといった形でこれらの提言や法案に対する実質審議を行うことは可能だったはずであり、状況を注視した結果、政府与党が臨時国会の延長をせず、また通常国会の開会を18日に決めたことが無為無策のままいたずらに感染者を増やしたと指摘されても、結果的には致し方ないような状況になっています。
なお与党議員の中でも特措法改正を急ぐべきとの声は増えてきており、もはや特措法改正が不要と考える議員はほぼいないでしょう。与野党の折り合いが必要な調整項目は休業支援の枠組みと範囲、また命令に従わなかった場合の行政罰の内容などといった罰則規定に留まります。そのことからもわかる通り、改正そのものは時間の問題となっているだけに、先手を打って早い段階で検討すべきだったのではないのでしょうか、政策決定過程での検証が必要です。
爆発的感染拡大にもはや打つ手なしの東京都
東京都は、大晦日に1337人の新規感染確認という状況に陥り、まさに未曾有の状況となっています。筆者はこれまで「都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ」を更新していく中で、様々な関係者の方々と意見交換をしていましたが、やはり東京都の1日の新規感染確認1000人が大きな心理的節目であり、1000人を超える感染拡大に対しては打つ手が少なくなるということを何度も聞いています。
小池東京都知事による連日の記者会見が「フリップ芸」「パネルを出すだけ」と揶揄されることも多いのですが、現行法制において強制力を持った指示命令を出すことはできないほか、営業自粛を事業者にお願いするための財源にも限界があります。東京都はすでに地方公共団体として初めて新型コロナウイルス対応を目的とした東京都債の発行(発行限度額600億円)を決めています。一方、この東京都債は全額、東京都内の中小企業に向けた制度融資の預託金に使われるとしているほか、東京都という小国の予算規模にも匹敵するようなマンモス自治体だからこそできる施策でもあり、他の自治体が容易に真似できることではありません。最大限できる自粛要請・啓発を行ってきたにもかかわらず、感染拡大の状況に変わりがないことを踏まえ、打つ手なしというのが現状でしょう。
緊急事態宣言と特別定額給付金のセットに焦る政府
一方、特措法改正の焦点となる事業者への営業停止命令や営業補償金といった課題は大きな問題です。第1波における緊急事態宣言は経済的に大影響を与えたことは確実ですが、一方で政府の中には持続化給付金をはじめ、雇用調整助成金、新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金といった財政出動をこれまでも実施してきたことから、再度の給付金には否定的です。
何より焦点となるのは、1人10万円の特別定額給付金をどうするのか、ということです。特別定額給付金は、「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」(令和2年4月20日閣議決定)において施策の目的を定義していますが、そこでは特措法における緊急事態宣言と特別定額給付金はワンセットであるように記載されています。
また、財政規律に厳しい麻生太郎財務大臣・副総理も10月16日の記者会見で再度の給付金の可能性に問われた際に、このように答えています。
そのため、緊急事態宣言の発出は(特措法の改正をせずとも)1人10万円の特別定額給付金を再度給付する根拠になりえます。そうすると、事業費12兆円を超える特別定額給付金を再度支給するということは、現在ほぼ完成している3次補正予算や令和3年度本予算を再度組み直すか、4次補正予算を成立させる必要があります。いずれにせよ、財政規律の問題と経済対策との調整は3次補正予算でも自民党内でかなり白熱した議論がありましたが、同様の議論を行いつつ再度予算を組み直すということは、年度内予算成立にもかかわる重大局面であり、政府としては相当慎重になっているということです。ただ、確かに予算を組み直す苦労や財政規律の問題は残りますが、本質的には緊急事態宣言による経済活動のストップに対する給付施策が必要なことは誰の目からみても明らかです。
いずれにせよ、GoToキャンペーンの再開可否などといった政策の次元ではありませんし、よもや無為無策のままコロナの感染拡大を指をくわえて見ているわけにもいきません。既にアメリカ合衆国では(金額で与野党に差があるものの)再度の給付金支給がほぼ決定しているほか、イギリス発とも言われている変異株が国内でも確認されており、このまま何も施策を打たなければ爆発的感染拡大が止まる見込みはないでしょう。感染者との接触から発症・感染確定から隔離までのタイムラグなどを考えれば、実効性のある政策を打ち出したところで、感染拡大のブレーキが効き始めるまでには一定の時間がかかります。コロナ対策を政局や政争の具にせず、政府与野党連絡協議会と閉会中審査を活用するなり通常国会の開会を早めるなどして、もはや一日といわず一分一秒でも早い対策が求められています。