NFTを活用したファッション展示会が開催中 デザイナーの収益多様化へ 東大発IT企業が経産省から受託
メタバースやNFTを事業化しようとする企業やブランドが増えている。そんな中、東京・日本橋馬喰町で、NFTを活用したファッション展示会「SIZELESS TWIN(サイズレス・ツイン)」が開催中だ(3月4~13日まで)。経産省が公募・採択した委託事業として、スタートバーン社が行うもの。新しいデジタル技術やサービスによって展示会を高度化させるとともに、クリエイターやデザイナーの収益源の多様化につながるビジネスモデルを実証実験していく。
スタートバーンは、アートの民主化をキーワードに、ブロックチェーンインフラ「Startrail(スタートレイル)」を開発・運営するIT企業。施井泰平代表が東京大学在学中の2014年3月に創業。UTEC(東京大学エッジキャピタル)や電通などが出資している。
「現状ファッションブランドの収益源は、多くの場合、実物の作品の販売に限られている。特にオートクチュール形式で販売される作品の場合は、その購買層も限定的だ。この展示会では、ブロックチェーンやNFTをはじめとした最新技術を活用することで、販売内容の多様化および二次流通・利用の管理と還元金の実現を提案する。正規のブランドやデザイナーから販売された作品であるという長期的な価値担保も可能になる。制作過程に関わる情報までも一元管理できるというブロックチェーン技術のポテンシャルを活かし、サステナブルな作品提供のインセンティブになり得るものとして、NFTの活用方法を提案し続けていく」と同社。
【展示会を理解する10のポイント】
1)参加ブランドは、海外でも活躍する「アンリアレイジ」「トモ コイズミ」「ユイマ ナカザト」と、ゴシックなムードの靴を得意とする「シンヤクシノ」、日本の伝統工芸とファッションを融合した「ヒルメ」の5ブランド。
2)NFT付きの実物(ユニーク・ピース)を展示。NFT=デジタルアイテム、というイメージがあるが、「Startrail」を活用して、実物に対してNFT(ブロックチェーン証明書)を発行。二次流通での収益がクリエイターに還元する仕組みを構築。
3)ユニーク・ピースをもとに生成した、メタバース用の3DCGデータをNFTで発行。大量生産を行わないクリエイター・デザイナーの収益源を多様化する。
4)展示会場では、メタバース空間での3DCGフィッティングを試すことができる。
5)販売は、NFTマーケットプレイスの最大手のOpenSea(オープンシー)で行う。オークションと、定価販売あり。
6)プロフィール用の合成写真データ(フィジタル・ポートレート)も用意。会場で撮影、または、後日撮影したものに、3DCGをバーチャルフィットさせた合成写真を送付する。
7)外部企業・クリエイターと協業し、3DCGを作成。スタートバーンと同じ東大発の3DアルゴリズムベンチャーSapeet(サピート)が開発に参画。
8)サイバーエージェントが昨年スタートした「デジタルツインレーベル」(タレントやアーティストなどの公式3DCGモデルを制作し、デジタルモデルとしてキャスティングするサービス)の先駆けとして、冨永愛モデルを先行展示。
9)海外でも実証実験を開催。4月9日〜5月2日には、香港のK11アートモールでも展示会を予定。
10)商務・サービスグループ ファッション政策室 クールジャパン政策課が2021年に行った「これからのファッションを考える研究会 ~ファッション未来研究会~」のアウトプットの一つ。
施井泰平スタートバーン代表取締役のコメント
これまでスタートバーンは、アートという領域に特化してブロックチェーン、そしてNFTの技術を提供してきました。アート作品の価値は、たった一度消費されて終わりではなく、長期的な流通の過程で何度も問われ続けるものです。今回取り扱われる作品のように、将来的に何度も価値を問われるクリエイティブであれば、その価値はそれが生まれた瞬間から守られるべきです。そういった価値継承を支えるために、ブロックチェーン技術は最善策だと考えています。また、流通の管理や還元金などの仕組みを通して収益源を複線化し、クリエイターを支えつづけることができるという点にも期待が寄せられています。
また、本展のタイトルである「SIZELESS TWIN」の「size」という言葉には、「服のサイズ」だけでなく、実態や真相といった「実存」という意味があります。デジタルツインの存在を複数のアプローチで視覚化することにより、「size」から解放される未来を描きつつ、実態のない儚さに潜む現代的な問いを喚起できればと考えています。
今回のプロジェクトを牽引した、スタートバーン事業開発部の渡辺有紗さんは、取組みを通じて感じた気付きや課題を次のように述べた。
渡辺有紗スタートバーン事業開発部へのインタビュー
今回、経済産業省のクールジャパン政策課と話させていただき、ファッション業界のサステナビリティやデジタル化を主題とした研究会の延長線上で、ブロックチェーンやNFTを活用した、新しい表現やビジネスモデルの構築に取り組ませていただきました。
デザイナーの中でも、とくにオートクチュールの方々は、服を売ることが本分でありながらも、収益化が難しく、コロナの影響もあってその機会が減少している現状がありました。今回は、みなさんが作られたオートクチュールを、NFTを付けた作品そのものと、こちらで作成した3DCG化させたNFTとして販売します。一つの服・作品を作ることによって、収益が複線化するところが大きなメリットになります。
ユーザーにとっては、メタバース空間の3DCGデータが将来的に“着られる”ようになること、自分自身であって自身とは異なるもう一つの存在に自分のお気に入りの服を着せることで、新しい表現の形を手に入れることができるようになります。
「ユイマ ナカザト」の中里唯馬さんは、デジタルファッションについて、「ジェンダーレス」「社会的な恥ずかしさがないこと」「重力がないこと」の3つのレスを挙げていました。男性も女性も性別を意識せずに好きな格好ができるようになりますし、メタバース空間上では無重力なので、羽を付けて空を飛ばせたり、重たい装飾を付けるなど、今までになかった表現にも挑戦できます。今回は実物からデジタルに落とし込みましたが、今後はデザイナーのクリエイティビティや発想を、デジタルから物理・実物に落とし込んだり、デジタルがオリジナルになったファッション展開など、新しいクリエイション活動ができると期待されています。
われわれはこれまで、ファッションも扱ってきましたが、アートを中心に手掛けてきました。これだけ本格的にファッションに取り組んだのは初めてのこと。とくに難しかったのは、3DCG化をする技術と感性の部分でした。一定の技術があれば3DCG化できるのかと思っていましたが、技術者の主観性やクリエイティビティが必要だということが分かったことが新しい発見です。絶妙な質感や、立体性、注力した箇所などに、その技術者のスキルやこだわりが表れます。
また、今はメタバースと呼ばれるものの範疇がとても広くて、「あつまれ どうぶつの森」から、その筋の第一人者の技術者がいかにリアルかを追い求めて作り上げたメタバース空間まで、さまざまなタイプがあります。それぞれのメタバース空間によって、二頭身にしたり、超リアルにしたり、サイズを変えなければならないのですが、全部のフォーマットに合わせることは不可能に近い。どこのメタバース空間に向けたものなのかを決めて3DCGを展開することが、今回の妥協点でもあり、プラットフォームの統一がメタバース側の課題であることに気付きました。
開催概要:「SIZELESS TWIN(サイズレス・ツイン)」
【会期】2022年3月4日(金)〜3月13日(日)
【時間】14:00〜19:00(月曜、火曜休)
【会場】①DDD HOTEL内PARCEL(東京都中央区日本橋馬喰町2-2-1)、②まるかビル(同2-2-14)
【主催】スタートバーン
【企画監修】アートダイナミクス
【出展】ANREALAGE、HIRUME、Masaya Kushino、TOMO KOIZUMI、YUIMA NAKAZATO
【協力】ARSPHERE、UNrealize、エージーディレクションズ、Psychic VR Lab、サイバーエージェント、Sapeet、Dentsu Lab Tokyo、Dentsu Craft Tokyo、NEORT、idiomorph(番匠カンナ)、ログズ
【宣伝美術】セミトランスペアレント・デザイン
【特設ウェブサイト】https://sizelesstwin.startbahn.io