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北朝鮮の巡航ミサイルの発射はなかった?それとも韓国が探知できなかった?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
北朝鮮が2月23日未明に発射したと発表した戦略巡航ミサイル(労働新聞から)

 北朝鮮は2月24日に「23日未明に戦略巡航ミサイルを4発発射した」と発表したが、韓国軍は「米韓偵察監視資産が把握したものと差がある」(合同参謀本部)として、発射そのものを認めていない。

 簡単な話が、いかに海面から50~100mの低空で飛行したとしても、4基も発射されれば、1基ぐらいは韓国の最新レーダーでキャッチできるはずなのに捕捉できなかったというのは「実際に飛ばしていないから」(国防部)というのが理由のようだ。

 北朝鮮の発表では、日本海(東海)に設定された2000km界線の距離を模擬した楕円および8字形飛行軌道を1万208秒(2時間50分)~1万224秒間飛行して「標的を命中打撃した」ことになっている。

 発射地点は咸鏡北道の工業都市、金策からで「発射は東部地区の戦略巡航ミサイル部隊の当該火力区分隊が動員され、実施された」とのことだ。北朝鮮はこれまで何度も巡航ミサイルを発射しているが、今回初めてこの戦略巡航ミサイルを「ファサル(矢)2」と命名していた。このニュースは労働党の機関紙「労働新聞」や朝鮮中央テレビなどで「ファサル2」が発射された模様の写真付きで伝えていた。

 しかし、韓国のメディアの多くは韓国国防部の判断や分析に基づき、北朝鮮のミサイル発射には懐疑的で、「北朝鮮の欺瞞戦術である」との見方で一致していた。中には「もしかしたら実際に発射されたのでは?」と半信半疑で書いていたメディアもあったが、圧倒的に少数であった。発射されたのが事実ならば、韓国軍の偵察、探知能力の欠陥を晒しかねないどころか、韓国軍の恥さらしになりかねないだけにどのメディアも慎重なスタンスだった。

 韓国軍も、韓国のメディアも北朝鮮の欺瞞戦術とみなしているのにはそれなりの理由がある。

 昨年、北朝鮮は巡航ミサイルを1月25日、8月17日、10月12日、そして11月2日と計4回発射したとされているが、韓国は11月2日に発射された2発については今もって認めていない。

 北朝鮮が「590km先の(韓国南東部の)蔚山沖の公海上に着弾した」と発表したことについて韓国は「探知しておらず、事実でない」(国防部)と真っ向否定していた。北朝鮮は蔚山沖に着弾させた理由については韓国軍が海上の北方限界線(NLL)北朝鮮側の公海上に空対地ミサイルを着弾させたことへの「対抗措置である」と主張していた。

 ややこしい話になるが、確かに韓国軍は北朝鮮が日本海に面した元山から11月2日午前8時51分頃に発射した3発の短距離弾道ミサイルのうち1発がNLL以南26km、束草東方57kmの韓国の領海付近に着弾したことへの懲罰として午前中に戦闘機を出撃させ、空対地ミサイル3発をNLLの北側に向け発射していた。

 北朝鮮が「蔚山市の水域に打ち込んだ」とされる2発はこの3発に対する対抗手段で、人民軍総参謀部の発表では「午後に巡航ミサイルを2発発射した」ことになっていた。やったらやり返したということだが、韓国軍は「そうした事実はない」として、北朝鮮の発表は「嘘」と反論していた。

 当時「巡航ミサイルは発射されていない」とする根拠として韓国軍は▲米韓が空中訓練を行っており、ミサイル挑発に厳戒態勢を敷いている状況下にあり、発射されたならば軍事衛星、空中早期警報器、イージス艦レーダーなど米韓の監視、探知システムによって捕捉されたはずである▲落下したとされる「蔚山市の水域」で操業中の漁船や船舶からの目撃情報もないことなどを挙げ、結論として北朝鮮が「国内向けに軍事力を誇示する必要性からまた、韓国情報当局の分析を攪乱するため意図的に虚偽の情報を流した」とみなしていた。

 しかし、その一方で、「発射された」と見る向きは▲北朝鮮の発表が「咸鏡北道地域から590.5km射程の南朝鮮地域の蔚山市の前方80km付近の水域(緯度3529′51.6″、経度13019′39.6″)の公海上」と具体的であること▲巡航ミサイルは低空飛行が可能で、レーダーをかいくぐることができる▲過去に長距離巡航ミサイル2発を韓国は発射時間も地点も、方向も事前探知できなかった前例があったことなどを上げていたが、今もって真相は藪の中だ。

 韓国が事前探知できなかった直近の前例としては昨年1月25日の長距離巡航ミサイルを指しているが、この時、韓国合同参謀本部は事前探知できず、発射後の25日に行ったブリーフィングで「発射時間は午前8時から9時の間」と推定したものの発射地点、高度及び飛行距離については説明がなかった。北朝鮮は韓国の情報能力を嘲笑うかのように発射から3日経って、「2時間35分17秒を飛行し、1800km先の東海(日本海)上の目標島(卵島)に命中した」と発表していた。

 ちなみに昨年10月12日に発射され、今回と同じく「楕円及び8字型飛行軌道に従い、1万234秒を飛行し、2000km先の西側(黄海)の海上に設定された標的に命中した」とされる長距離戦略巡航ミサイル2発については弾道ミサイルではないからとの理由で韓国は直ちに公開しなかった。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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