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女優の片桐はいりさん、実はエッセイの才能もあった…!?『グアテマラの弟』

ティカル遺跡

共感したり、感動する作品は数多くあれど、「笑いながら読む本」って少ないですよね。ところが、『グアテマラの弟』(片桐はいり、幻冬舎文庫、2011)はユーモアたっぷりで、本当に笑いながら読めるエッセイです。

しかも、これを書いたのが、女優の片桐はいりさんだというのだから驚きです。さすが、というべきなのか、天は二物を与えることもあるようです。

(1)そもそも、ネタが面白すぎる…!

火山もある
火山もある

『グアテマラの弟』・・タイトルのまんまです。「グアテマラとは何ぞや?」となりますが、地球のほぼ裏側、カリブ海に面する国のひとつ。

「グアテマラ」に仕事と家族を見つけ、ほぼ音信不通となってしまった弟さん。そんな実の弟さんに会うためにグアテマラを訪ね、義家族や現地の人々との交流を描いたエッセイです。

弟より歳も体も大きい奥さんの後ろから、小さな子どもまで走り出てきてわたしを驚かせた。髪は黒いが、目鼻立ちの濃いころころしたこの男の子には、どう見ても日本の血は混じっていない。グアテマラ人の奥さんの連れ子だった。

(2)登場人物が魅力的でほっこりする

出てくる登場人物がみんな個性的で、イキイキと描かれています。異国の地ににあっさり馴染んでしまう鷹揚な弟さん。

そんな弟さんを心配しつつも、異国の新しい家族を戸惑いながらも受け入れていくご両親。そして地球の裏側に住み、見た目から文化まで何もかも違うラテン系の義家族・・・。

全体的にどことなくラテン系のおおらかさや素朴な温かさが漂っているので、読んでいてほっこりします。

福笑いのおかめみたいなひとなつこい童顔はそのままのくせに、図体だけは巨大になっている。子どもなのか大人なのか。こんな屈託ない笑顔をする二十歳は、日本にはいないだろう

(3) 全体的にユーモアたっぷり。そしてあらゆることを前向きにに捉えていく

民族衣装
民族衣装

とはいえ、生身の人間と人間。家族という距離の近さや、無知や偏見からくる異文化との衝突と隣合わせの状況でもあります。

実際にはシリアスな場面もあるのですが、それをユーモアに変えてしまったり、ポジティブに解釈してしまうのが著者のすごいところです。

(4)人物にしろ風景にしろ目の前にありありと光景が浮かぶ

ティカル遺跡
ティカル遺跡

何よりも魅力的なのが、人や風景がありありと目に浮かぶような表現力。さすが役者さん、というべきなのでしょうか...!?

雨にけぶる地平線まで、すべてがぶあつい森、森、森である。圧巻だった。わたしはしばらく口を開けたまま、密林の王者になったようなその眺めを味わった。

とにかく、笑いたい時におすすめの一冊です。

弟が、『世界の車窓から』のアテンドをした時、毎晩目を皿のようにして観ていた父親が、画面に向かって、「気が利かないやつだ。ちょっとは画面に映れ!」と突っ込んでいたのを思い出す

『グアテマラの弟』(片桐はいり、幻冬舎文庫、2011)
『グアテマラの弟』(片桐はいり、幻冬舎文庫、2011)

『わたしのマトカ』(片桐はいり、幻冬舎文庫、2010)こちらは映画の撮影のために、フィンランドに滞在した時のおはなし。
『わたしのマトカ』(片桐はいり、幻冬舎文庫、2010)こちらは映画の撮影のために、フィンランドに滞在した時のおはなし。

映画『かもめ食堂』2006
映画『かもめ食堂』2006

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