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ウクライナ軍がハルキウ州で大突破に成功:戦車と装甲車の機甲部隊が価値を証明

JSF軍事/生き物ライター
開戦1年前の2021年2月24日、ウクライナ軍に引き渡されるT-72AMT戦車(写真:ロイター/アフロ)

 ウクライナ軍が最近の数日でハルキウ州での大規模な突破に成功。バラクリヤ市を奪還し東進を続けてクピャンスク市とオスキル川に到達後に南下を始めて、あっという間に要衝のイジューム市に進入して奪還しました。たった4日間で旋回しながら80~100km(直線距離では50~60km)を進撃する驚異的な速度です。ロシア軍の防衛線は崩壊、大規模な退却が始まりました。

ハルキウ大突破:オスキル川到達まで

  • 戦況アニメーション解説動画 
  • オスキル川の幅が広い部分はダムで堰き止めた「オスキル貯水池」
  • 動画の右上の黄色い楕円が第一目標クピャンスク市(ハルキウ州東部)
  • 動画の中央下の黄色い円が第二目標イジューム市(ハルキウ州南東部)
  • 動画投稿翌日にウクライナ軍は南方向に旋回してイジューム市に到達

※9月12日追記:ウクライナ軍はハルキウ州の東部から南東部にかけての大突破に成功した後、ハルキウ州の北東部にも進撃を行いオスキル川以西を全て奪還しました。これに伴い記事タイトルを「ハルキウ南東で大突破」から「ハルキウ州で大突破」に変更しました。

  • 9月08日・・・突破の入り口を抉じ開ける
  • 9月09日・・・オスキル川まで一気に東進
  • 9月10日・・・南に旋回しイジューム到達
  • 9月11日・・・北東部に進撃し村々を解放

 ウクライナ軍は1日あたり20~30kmもの前進を数日間連続して続けました。これは敵の抵抗を排除しながら進む軍隊の速度としては限界に近い速度で(進撃速度が早過ぎると補給が追い付かなくなる)、驚異的な大反撃が成功しています。 

 もしかすると暫く前(8月29日)から始まっていたウクライナ軍のヘルソン州での大規模な反撃作戦は陽動で、このハルキウ州の攻勢こそが本命だったのでしょうか? 僅か数日でこれほどの面積の領土を奪還し、クピャンスクとイジュームの二つの要衝を手中に収めた成果は大変な驚きです。

 ロシア側にとってクピャンスク(兵站用の鉄道輸送拠点)とイジューム(東部制圧の道路交通拠点)の喪失は、ドネツク州に残ったウクライナ側の重要都市のスラビャンスクとクラマトルスクを攻め落とそうとしていたロシア軍の計画(イジュームから南下して包囲する予定だった)を完全に頓挫させてしまうことになります。

戦車と装甲車を中心とする機甲部隊が証明した価値

 今回の戦史に書き記されるべき驚異的な運動戦を成し得た原動力は、戦車と装甲車を中心とする機甲部隊(機械化された装甲部隊)の存在です。3月に首都キーウ防衛に成功した後に4月にゼレンスキー大統領が「反撃には戦車、装甲車、大砲が必要だ」と各国に供与を訴えて、ポーランドがT-72戦車を大量供与し、アメリカなどがM113装甲車を大量供与した成果が結実しました。

【関連記事】※Oryxは外部参考記事

 戦車の持つ機動力と火力と装甲による突破力、鉄の塊が前進する衝撃力。戦車に追従し支援する装甲車に乗った機械化歩兵。遠距離火力支援を行う自走榴弾砲と多連装ロケットの砲兵。

 戦局の大転換を成し得た真の力こそは「ゲームチェンジャー」と持て囃されるような新兵器ではなく、伝統的な重兵器群だったのです。機甲部隊と砲兵部隊が主役でした。

 やや旧式となる東側製T-72戦車改修型の補充でここまでのことができるのであれば、もし西側製の主力戦車のレオパルト2やM1エイブラムスをウクライナに大量供与すれば、戦局の更なる大転換を成し得るでしょう。しかし西側製戦車の供与は未だに決定していません。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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