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コロナ禍の花粉症の疑問に答えるQ&A

前田陽平耳鼻咽喉科専門医、アレルギー学会認定専門医
スギ花粉の本格シーズンの到来。どう過ごす?(写真:アフロ)

スギ花粉症でお困りの方は本当に多いです。そろそろ症状が出てきた方も多いと思います。

先日、花粉症についての記事を書きました

その後、いくつか質問を頂きましたので、Q&A方式でまとめてみました。

1.花粉症があるとコロナにかかりやすいとか、重症化するとかいうことはありますか?また、花粉症と新型コロナは症状で見分けることはできますか?

アレルギー性鼻炎と新型コロナの関連についてはまだ十分とはいえませんが、研究があり、数は少ないながら重症化しにくいのではないか(※1)とするデータがあります。アレルギー性疾患というくくりで言えば、喘息についても重症化しやすいとはいえない(※2)とされており、現状では花粉症を含むアレルギー性鼻炎によって新型コロナが重症化しやすくなるということはないと考えるのが妥当だと思います(※3)。

以前の記事でも述べましたが、花粉症の症状の中には、新型コロナとわかりにくかったりする場合もあります。また、くしゃみなどによって新型コロナを広げたりするリスクがあるので、その意味できちんと治療しておく方が良いと思います。

新型コロナと花粉症、多くの場合は症状だけで見分けることは難しいですね。しかし、ある程度の傾向はあります。

具体的に言うと、鼻閉、鼻汁などは花粉症でも新型コロナでも見られることがあります。一方で目や鼻のかゆみなどは、花粉症で見られるものの、比較的新型コロナでは少ないようです。逆に発熱、ひどい咳、吐き気、筋肉痛などは新型コロナで見られるものの、花粉症ではまれです。嗅覚障害もよほど鼻づまりがひどくならないかぎり、花粉症では見られないですね(※3)。

※1 Hai Wang et al. Allergy. (2020) Aug 27: 10. 1111/all. 14569.

※2 David M G Halpin et al. The LANCET Respiratory Medicine 8(5), pp436-438

※3 Scadding Glenis K. et al. World Allergy Organization Journal (2020) 13:100124

2.コロナでマスクし始めてからマスクをすると逆にくしゃみが出るのですが…。また、コロナ対策と花粉症対策でマスクの違いはありますか?

特に不織布マスクによってアレルギー性鼻炎のような症状が出るような方はいらっしゃるようです(※4)。そういう方は、布マスクでもいいと思います。

一般的にウイルスが含まれる唾液などの飛沫は5マイクロメートル程度と考えられていますが、花粉は約30マイクロメートルとかなり大きいためです。新型コロナ対策でマスクをしているのであれば、それは十分、花粉症対策になるといえます。

坂本史衣先生のこちらの記事などを参考にしていただけるといいですが、マスクによる新型コロナの予防効果としては、不織布マスクは布マスクよりも優れていますが、不織布マスクだと辛い方は無理せずに布マスクでよいと思います。なお、ウレタンマスクは布マスクよりもさらにコロナの感染予防効果が低く、さらに、マウスシールドは感染予防効果がほぼないと考えられます。もちろん、個人レベルではなんらかの理由でマスクを着用できない方というのはいらっしゃるので、そういう方はフェイスシールドで代用せざるを得ないケースなどもあります。

※4 L Klimek et al. World Allergy Organization Journal (2020) 13:100474

コロナ対策でマスクをしているのであれば、それは十分、花粉症対策になる
コロナ対策でマスクをしているのであれば、それは十分、花粉症対策になる写真:アフロ

3.ステロイドは免疫を抑えると思うのですが、アレルギー性鼻炎に用いられる鼻噴霧ステロイドはコロナの流行のある現在でも普通に使用してよいのでしょうか。

鼻噴霧ステロイドについては、コロナ禍でも使用してよいというのが現在の専門家のおおよその見解です(※5)。全身性の免疫抑制を起こすといは考えにくいということもありますし、鼻の粘膜が荒れていると感染に関しては不利になりますから、その意味でも使用を継続する方が良いと考えられています。※5の文献では新型コロナに感染しても継続して使用してよいのではないかとされていますが、実際に感染した場合に継続使用するかは主治医に相談してください。

一方で、飲み薬のステロイドについては慎重に考える必要があります。アレルギー性鼻炎や花粉症に対して飲み薬のステロイドを使用するのは、(一般論としては)今はできるだけ控えた方がよさそうです。

ただし、他の疾患でステロイドを内服している場合、ステロイドをやめるリスクのほうが高い疾患も多いので、医師に相談せずに自分で判断してやめてはいけません。

※5 J Bousquet et al. Allergy. 2020; 75: 2440-2444

4.舌下免疫療法をしていますが、コロナの流行中でも引き続き継続してもよいのでしょうか。

舌下免疫療法はアレルギー性鼻炎に対する根本治療として重要です。舌の下にスギ花粉症ならスギのエキスの入ったタブレットを毎日置くことで、スギ花粉症の体質自体を改善します。シーズン中は始められませんが、シーズン終了後に始めることで来シーズンの改善が期待できます。

さて、結論から言いますと、一般論としては、コロナ禍でも舌下免疫療法を含むアレルゲン特異的免疫療法は継続することができます

先日の記事でもお伝えした通り、コロナ禍ではアレルギー性鼻炎の治療をしっかりした方が良いです。

ただし、新型コロナに実際に感染が判明した場合に継続するかは主治医にご相談ください(※3)。

5.市販薬で対応する場合の注意点はあるでしょうか。

病院に受診する時間がなかなかないという方や、軽症の方の中には市販薬で治療するという選択肢を取る方もいると思います。

最近は、もともと処方薬であったものが市販薬となったもの(「スイッチOTC」といいます)もあり、こういったものなどで治療開始するというのも悪くないですね。薬局の薬剤師さんとよく相談して頂くと良いと思います。

市販薬で症状が抑えられないようになれば受診して医師に相談するようにしてください。

病院に一度受診していても良くならないときは…。
病院に一度受診していても良くならないときは…。写真:アフロ

6.ある医院に花粉症で受診していましたが、なかなか良くならなくて、次の病院に受診するとすごく良くなりました。最初の医院の診療内容は不適切だったのでしょうか。

例えば、「最初の段階では花粉症のように見えるけど実は違う病気だとわかる」ということは十分ありうることです。「花粉症のように見える患者さん」全員にまれな病気を疑って特殊な検査などを行うより、まずは花粉症として治療して、改善がない場合には他の病気の可能性を考えたり、あるいは花粉症の薬の種類を変えて対応したりします。

ここで改善がない場合に、他の病院に受診したとします。そうすると、「もともとの花粉症としての治療が効いていない」ことがわかるので、他の病気の可能性を考えたり、他の薬を試したりします。

こうすると、「最初の医師は適切に診療できなかったが、次の医師はちゃんと診療できた」と考えます。こういう現象を「後医は名医」といいます。

この説明でお分かりだと思いますが、病院を変えなくても同じ結果だった可能性も十分あるのです。ですから、なかなか良くならないときにも、まずは、もともと受診していた病院に受診するのがいいと思います。

点鼻薬が眼に効果があることも。なぜでしょうか?
点鼻薬が眼に効果があることも。なぜでしょうか?写真:アフロ

7.「点鼻ステロイドが眼にも効果がある」というのがとても不思議なのですが、なぜなのでしょうか。

たしかに、花粉症の患者さんなどで点鼻ステロイドが眼にも効果があるということはかなり知られてきました(※6)。

なぜ効くのかはとても不思議ですよね。まだはっきりしていませんが、一つの仮説を紹介します(※7)。

たとえば、アレルギー性鼻炎の人に片方の鼻だけにアレルゲンを作用させると、もちろんアレルゲンを作用させた側の鼻から鼻水が出ますが、逆の鼻の鼻水も増えます。あるいは鼻だけにアレルゲンを作用させても、9割の方に眼のかゆみが出るという研究もあります。これは鼻の刺激が神経の反射で眼の方にも作用しているということですね。だから逆に鼻の治療が眼の症状を抑えるということも説明できるではないか、と考えられています。

※6 L Bielory et al. Allergy. 66 (2011) pp 686-693

※7 L Bielory et al. MedGenMed. 2007; 9(3): 35.

8.花粉症の方に手術をするのはどんなときでしょうか。

先日の記事でも書いたように、花粉症のシーズンが始まってから症状を軽くするために手術が行われるということは原則としてはありません

たとえば、レーザー手術などの鼻粘膜変性手術は花粉症のシーズン前に行われます

また、鼻アレルギーガイドライン(※8)では「鼻閉型で鼻腔形態異常を伴う症例では手術」となっています。解剖学的な構造の問題で鼻の中が狭くなっている(左右の鼻の仕切りである鼻中隔の曲がりや下鼻甲介の腫脹など)場合はそれらに対する手術(鼻中隔矯正術や下鼻甲介に対する手術)も考慮する、というのが一般的な考え方だと思います。これらの手術は待機的に行われるもので、花粉症のシーズン中に症状を和らげる目的で行われることは通常はありません。

※8 鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会. 鼻アレルギー診療ガイドライン―通年性鼻炎と花粉症― 2020年版(改訂第9版)

9.新しい薬であるオマリズマブはどのような患者さんに使うのでしょうか。

オマリズマブ以外の標準的な治療をしっかり行っているのにも関わらず、症状が治まらないという花粉症です。効果は非常に高いですが、やや高価な薬剤であり、他にも様々な条件を満たす患者さんに投与が検討されます(※8)。標準的な治療を受けてもなかなか満足のある成果が得られないという方は、一度耳鼻咽喉科で相談してみてください。

耳鼻咽喉科専門医、アレルギー学会認定専門医

2005年大阪大学医学部医学科卒業。日本耳鼻咽喉科学会認定専門医・指導医。日本アレルギー学会認定専門医・指導医。医学博士。市中病院勤務、大阪大学医学系研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学助教を経て現在JCHO大阪病院院長補佐・耳鼻咽喉科部長。雑誌取材・メディア出演多数。臨床・研究の専門領域は鼻副鼻腔疾患・アレルギー疾患・経鼻内視鏡手術など。一般耳鼻咽喉科についても幅広く診療している。耳鼻咽喉科領域や診療に関わる医療情報全般の情報について広くTwitter(フォロワー4万人)などで発信している。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。

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