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ユマ・サーマン、10代で中絶していた事実を告白。テキサスの新州法を批判するため

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:REX/アフロ)

「女優の意見になんか、誰も興味はないかもしれません。でも、今起こっていることを受けて、私は彼女たちのために立ち上がらなければと思ったのです」。

 妊娠6週間を経過した女性が中絶手術を受けることを禁じるテキサスの新たな州法に、全米の多くの女性が怒りの声を上げている。そんな中、ユマ・サーマンが、「The Washington Post」に意見記事を寄稿し、個人的な視点からこの法律を強く批判した。彼女は、10代後半で自分よりずっと年上の男性の子供を妊娠し、中絶していたというのである。

 妊娠がわかった時は生もうかとも考えたと、サーマンは書く。しかし、両親からその男性との関係がどれだけ真剣なのかを尋ねられ、10代で母親になるということがどれだけ大変なのかを聞かされるうちに、現実が見えてきた。彼女はまだキャリアを始めたばかりで、自分自身を支えるのも精一杯という状況だったのだ。

「これは本当に辛い出来事。私の一番暗い秘密でした。ですが、51歳になった今、私は、3人の子供を育てた家で、この話について書こうと思ったのです」と、サーマン。若すぎる妊娠を諦めたおかげで、もっと大人になり、望むような母親になれるようになってから子供を持つことができたのだと、彼女は述べている。

「私はとても素敵な人生を送ってきました。ほかの多くの女性たちのように、時には悲しいこと、困難、怖いことにも直面しました。ですが、やはりほかの多くの女性たちと同じく、勇気や思いやりも与えられてきています。私は、自分が愛し、信頼する男性との間に美しい子供たちを授かりました。自分がたどってきた道に、後悔はありません。私とは違う決断(注:生むという選択)をした女性たちのことも、称賛しますし、サポートします。中絶は、人生で一番苦しい決断でした。その時は怒りを覚えましたし、今でも悲しいです。ですが、それは、喜びと愛に満ちた人生を手にする過程だったのです」。

 テキサスの新しい州法は、女性たちがサーマンと同じような選択をするのを遮るものだ。しかも、この州法のもとでは、一般市民が、妊娠6週間を経過した女性に中絶手術を行うクリニックや、患者をそこまで連れて行ったタクシーの運転手などを訴訟することが許されるのである。訴訟を起こした市民には、最低1万ドルの報奨金が与えられる。レイプで妊娠した女性も例外扱いはしない。そのことにもサーマンは絶望を隠さない。

「この州法は、市民と市民を戦わせるもの。これによって女性を食い物にする自警団員が出てくるでしょう。そして女性は、子供を育てる環境になくても、そうするしかなくなる。もっと後に、こんな家族を持ちたいという夢を、揉み消されてしまうのです」というサーマンは、自分の体のことを州に決められ、子宮を持っているせいで非難されることになるかもしれないテキサスの女性たちに、強い同情を送る。「この秘密を明かしたことで、私は何も得をしません。むしろ損をするでしょう。でも、私の心の穴を通じて差し込む光を、自分の身を守れないと感じている女性たちに届けられたらと思うのです」とも、サーマンは書いている。

コメント欄やツイッターには多数の意見が

 この記事のコメント欄には、西海岸時間午後4時現在までに300以上のコメントが寄せられている。「自分で選択する権利を奪われ、他人が決めたとおり生きるよう強いられることについて、うまく書いてくれてありがとう」「ミス・サーマン、よくぞ書いてくれました。誇りを持って、中絶の権利について声を上げてください」「ブラボー、ユマ!」「あなたが自分の体と人生のために自分で決断できてよかった」「ユマ、あなたは見た目も中身も美しい人です」「ハリウッド女優が書いているから読むのをやめようと思ったが、読んでよかった」など、サーマンを讃えるコメントが圧倒的に多いが、中には「The Washington Post」がセレブリティに記事を書かせることを皮肉るものもある。

 しかし、深刻な事柄だけに、サーマンについてより、この問題自体についての論議のほうがさかんだ。コメント欄でも、ツイッターでも、「2021年だというのに、なぜまだ男女は平等でないのか?我々も、カナダ、スウェーデン、アイルランド、ベルギー、フランス、アイスランドなどに見習うべきだ」「共和党は女性を人間と見ていない」「テキサスでは銃のほうが女性より権利を持つ」「白黒付けにくいトピックではあるが、決定を下すべきなのはお腹に子供を抱える女性。もちろん、愛する人やお医者さんの意見も参考にした上で」など中絶の権利を支持する意見がたくさんあった。もちろん、「都合が悪いからと罪のない命を殺さないで」というようなものも、ちらほらながら、見られる。

 そんな中にはまた、「テキサスの女性たち、戦って!投票しよう」「企業がもっと(抗議の)声を上げるべき。パワーを持つ働く女性たちよ、お願い」「このテキサスの法律は覆されるべきだ」といった、行動を呼びかけるものもあった。そのとおり、状況を変えるには行動しかない。サーマンの記事を読んで、もっと何かしなければと思った人たちは少なくないのではないか。女優が書いた記事と揶揄する声もあるものの、女優である前に、サーマンは女性。彼女はあくまで女性としてこの記事を書いている。だからこそ、この記事は重みを持つのだ。昨日のエミー賞授賞式でもスピーチでちらりと触れられることがあったが、それでは足りない。今後、ハリウッドからも多くの女性がこのことについて声を上げてくれることを願うばかりである。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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