巨人と阪神に韓国でプレーの助っ人が入団 日韓の環境は違う?同じ?
今オフ、巨人がエンジェル・サンチェス投手(30=前SK)、阪神はジェリー・サンズ外野手(32=前キウム)と契約を結んだ。両者は今季まで韓国KBOリーグでプレーしていた選手だ。
同リーグの韓国人選手がNPBで活動する事例は2015年のイ・デホ(ソフトバンク)、オ・スンファン(阪神)を最後にこの4シーズン遠ざかっているが、外国人選手として両リーグを往来するケースは毎年数例ある。「助っ人」にとってのアジアのプロリーグ、日本と韓国の違いとは。
韓国での実績で日本では年俸が倍増
1リーグ10球団制の韓国。1球団あたりの外国人枠は3人までで3枠すべてを投手、野手に使うことはできない。
今季までは外国人選手の出場登録(1軍登録)は3人、出場は2人まで可能だったが、20年からは3人が同時に出場できるルールに変更。それに伴い1軍登録人数が27人から28人に、出場人数も25人から26人にそれぞれ増員される。
新たに獲得する外国人選手の年俸は19年から、契約金などを含めた総額が最大100万ドル(約1億1,000万円)に制限されている。
ただし再契約の場合は制限がなく、韓国2年目の今季14勝7敗の投手、タイラー・ウィルソン(LG)は160万ドル(約1億7,600万円。出来高払い含む)で来季の契約を結んだ。現在のところこの額が来季の外国人選手の最高年俸となっている。
今季韓国で17勝を挙げ巨人入りしたサンチェスの来季の年俸は3億4,000万円(推定)。今季の95万ドル(約1億450万円)と比べると大幅アップだ。
韓国では外国人選手の複数年契約は2年目以降から可能だが、日本にはその制限はなくサンチェスの巨人との契約期間は2年と報じられている。
一方、打点王のタイトルを引っ下げて阪神にやってくるサンズは1年契約で年俸1億2,100万円(推定)。韓国の相場とそう大差ないが、サンズのキウムでの年俸総額は50万ドル(約5,500万円)と抑えられていたため、本人にとっては倍増となった。
「受け入れる姿勢、学ぶ姿勢」がカギ
韓国で外国人選手として活躍し、日本でも成功を収めた選手として名前が挙がるのが古くはタイロン・ウッズ(元横浜-中日)、近年ではリック・バンデンハーク(ソフトバンク)がいる。
バンデンハークが来日した15年当時、彼をサムスンで指導した門倉健・現中日コーチはこう話していた。「バンデン(ハーク)は他の人のアドバイスを受け入れようとする姿勢がある選手です」
バンデンハークは韓国1年目の13年、後半戦に向けて、当時サムスンで投手インストラクターをしていた門倉とミニキャンプを行った。
「クイックモーションを習ったことがない」というバンデンハークに門倉がアドバイス。またバンデンハークは自身のベストフォームの動画を門倉に見せ、「こうやって投げたいがどうしたらいいか」と教えを請い、バンデンハークは下半身を使ったスムーズな投球動作を会得していった。
一方で日本では花開かなかったが、韓国に渡ってからは3年間で103本のホームランを放ち、活躍を見せている選手がいる。元DeNAのジェイミー・ロマック(SK)だ。
ロマックは韓国で結果を残している理由を「成功しようというイメージを強く持つこと、オープンマインドで韓国の野球から学ぼうという姿勢で取り組んだこと」と話した。
筆者を見つけると「オハヨウゴザイマース!」と明るく声を掛けるロマック。日本で十分な機会は得られなかったが、日本に嫌な印象は持っていない。
以前はメジャーリーグ経験がある選手の場合、自らのスタイルを貫き、対応できずに退団に至るケースが少なくなかった。しかし最近は韓国での成功をきっかけに日本のみならず、メジャーに復帰する選手も現れたことで、貪欲に取り組む外国人選手が増えていった。
加えてバンデンハークのように不調時に的確なアドバイスをくれる存在と出会えるかが、成否の要因の一つとしてある。
環境面は日韓で大差なし
かつてはビジターチームのロッカールームが狭く、バス車内で着替えをするなど環境面に問題があった韓国だが、今はそうではない。この5年で4つの新球場が完成し、古くなった球場でも施設の改修が進んでいるところもある。
先月のプレミア12で記者から東京ドームのロッカールームについて聞かれたある韓国代表選手は、「最近できた韓国の球場のロッカーの方が、個々のスペースや通路が広くて快適」と話していた。
また韓国の外国人選手の住環境は高級レジデンスが与えられ、家賃は基本球団持ち。再契約する選手の多くは「家族も韓国での生活を気にいっている」と話す。とりわけ球団の本拠地が首都ソウルの場合、外国人向けの良質な物件が充実しているため、快適な生活が送れているという。
外国人選手の場合、母国でのインタビューによる発言が韓国、時に日本でも翻訳され、中にはネガティブな内容に焦点を当てて紹介されることもある。しかし退団後も前所属球団と交流を続ける選手が多い近年の現況を見ると、待遇に不満を持って韓国を離れたというケースはごく一部と言えるだろう。
食と言葉は心をつなぐ
日本では「寿司ポーズ」のブランドン・レアード(千葉ロッテ)に代表されるように日本食を好むことを公言し、ヒーローインタビューで日本語を話すことで好感度が上がる選手たちがいる。それは韓国でも同じだ。
新外国人選手の「辛い物も口にし、韓国の食生活に馴染んでいる」という話題は春先の定番となっている。
そしてソウルの球団の場合、地下鉄を利用して自宅と球場間を往復する選手がいるが、その時のファン対応で人気がアップするというのも日本と似ている。
さらに通訳と球団広報の情報発信が上手いチームの外国人選手は、ファンがより親しみをもつ傾向にある。
またサンチェスが所属したSKでは外国人監督、選手の名前とイラストをパッケージに配したフードメニューをホーム球場で販売。「サンチェス・ブリトー」(約450円)は「ヒルマン(前監督)ステーキバーガー」や「ロマック・キングバケットバーガー」とともに人気となった。
通訳の支えが選手の力に
韓国の外国人選手の通訳は日本同様に、グラウンド内外問わず、生活面までサポートする。
阪神でもプレーしたウィリン・ロサリオや来季もハンファでプレーするジャレド・ホイングといった、複数年に渡って活躍した選手の通訳を務めるキム・ジファン氏(31)は、選手が常にリラックスして過ごせるように気を配っている。
「ロサリオの場合、1年目は辛いものが苦手で辛くないカルビタン(牛のばら肉を煮込んだあっさり味のスープ)が気に入っていたので、遠征の度においしいカルビタンの店を事前に探して、2人で食べ歩きました」
またキム通訳は食によるゲン担ぎのサポートもした。
「2年目のスウォン遠征では蒸しズワイガニ(テゲチム)を食べたら4打席連続ホームランを打ったので、それ以来、カニ料理のお店も探すようになりました。技術のアドバイスはできないので、それ以外の方法でバックアップを心掛けています」
外国人選手にとって日韓での環境面での差はそう大きくない。あるとすれば高い注目度によるプレッシャーの差だろう。特に巨人、阪神といった人気球団ではキャンプから連日、衆目を集めることになる。サンチェス、サンズはそれを克服し、日本でも実力を発揮することができるか。
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◇2020年にKBOリーグでプレーする外国人選手(2019年12月24日現在)
トゥサン
投手 ○ クリス・フレクセン(CHRIS FLEXEN)
投手 △ ラウル・アルカンタラ(RAUL ALCANTARA)
キウム
投手 ジェイク・ブリガム(JAKE BRIGHAM=元楽天)
投手 エリック・ヨキッシュ(ERIC JOKISCH)
内野 ○ テイラー・モッター(TAYLOR MOTTER)
SK
投手 ○ ニック・キンガム(NICK KINGHAM)
投手 ○ リカルド・ピント(RICARDO PINTO)
内野 ジェイミー・ロマック(JAMIE ROMAK=元DeNA)
LG
投手 タイラー・ウィルソン(TYLER WILSON)
投手 ケイシー・ケリー(CASEY KELLY)
NC
投手 ○ マイク・ライト(MIKE WRIGHT)
外野 ○ アーロン・アルテール(AARON ALTHERR)
KT
投手 ウイリアム・クエバス(WILLIAM CUEVAS)
投手 ○ オドリサメル・デスパイネ(ODRISAMER DESPAIGNE)
KIA
投手 ○ ドリュー・ギャニオン(DREW GAGNON)
投手 ○ アーロン・ブルックス(AARON BROOKS)
外野 プレストン・タッカー(PRESTON TUCKER)
サムスン
投手 ベン・ライブリー(BEN LIVELY)
内野 ○ タイラー・サラディノ(TYLER SALADINO)
ハンファ
投手 ワーウィック・サーポルト(WARWICK SAUPOLD)
投手 チャド・ベル(CHAD BELL)
外野 ジャレド・ホイング(JARED HOYING)
ロッテ
投手 ○ エイドリアン・サンプソン(ADRIAN SAMPSON)
投手 ○ ダン・ストレイリー(DANIEL STRAILY)
内野 ○ ディクソン・マチャド(DIXON MACHADO)
※○は新入団、△はリーグ内の移籍