米国の気候危機対策、最新食品ロス量9,100万トンは2030年までに半減なるか
*本記事は『SDGs世界レポート』(1)〜(87)の連載が終了するにあたって、2022年9月1日に配信した『食品ロスの削減で気候変動対策(米国編) SDGs世界レポート(82)』を、当時の内容に追記して編集したものです。
わずか4秒のことだったが、米国のカリフォルニア州(人口3,950万人)で、2021年4月24日の午後2時半に驚くべきことが起こった。電力供給量に占める再生可能エネルギーの割合が94.5%に達したのだ。94.5%は瞬間的なものだったが、その日の午後のほとんどの時間帯で、再生可能エネルギーの割合は90%を超えていたと、地元のロサンゼルス・タイムズ紙が報じている(1)。
その日は好天で気温も比較的低い土曜日で電力消費量がそれほど多くなかったため、再生可能エネルギーの割合が高くなったのではないかという。カリフォルニア州では2045年までに再生可能エネルギーの割合を100%にすることを目標にしているが、実現は夢ではないと感じさせてくれるようなできごとだ。
実際、2022年3月には、米国の電力供給量に占める風力発電の割合が、原子力や石炭による発電量を超え、天然ガスに次ぎ2位になったとCNNが報じている(2)。
米エネルギー情報局(EIA)によると、米国の風力発電による年間発電量は、2000年の約60億kWhから、2021年には約3,800億kWhに急増した。2021年には風力発電は米国の発電量の約9.2%を供給しているとのこと(3)。
「不都合な真実」を認めはじめた米国連邦議会
米国連邦議会で暗礁に乗り上げていた気候危機対策についての大規模法案が、2022年7月下旬になってようやく動きはじめた。8月7日の上院につづき、12日に下院でも可決され、ついに米国史上、もっとも野心的な気候危機関連法が成立した(4)。
この法案では、太陽光発電、風力発電、水力発電、その他の再生可能エネルギーに対する税制優遇制度が新設・拡充され、再生可能エネルギーの生産施設を新しく建設する場合、化石燃料の発電所よりも安く建設できるようになる(5,7)。
また、この法案には、中古を含む電気自動車を普及させるための税制優遇制度、家庭用のヒートポンプやソーラーパネルなどを設置するための補助金、メタンの排出を削減した石油・ガス会社に報酬を与え、そうでない会社には罰則を与えるプログラム、農業からの温室効果ガス排出量削減対策なども含まれている。
超党派の連邦予算委員会は、この法案が気候危機対策と米国のエネルギー保障の強化に3,690億ドル(約40兆5千億円)を歳出することで、2030年までに米国の炭素排出量をおよそ40%削減できるとしている(5,6,7)。
注)三菱UFJ銀行の2021年の年間平均為替相場(TTM)USD1=JPY109.80で計算、以下同様
財源には、15%の法人最低税率の導入、公的医療保険「メディケア」への処方薬価格の交渉権付与、企業の自社株買い戻しに対する課税などで、約7,370億ドル(約80兆9千億円)の歳入を見込んでいる(6)。
報道を受け、元副大統領にして環境活動家のアル・ゴア氏は、この法案は「歴史的な転換点」になりうるとツイートしている。
これまで数十年にわたる地球温暖化の否定、対策の遅延、機能不全を経て、ついに米国は気候危機に対処するための政策を手に入れたことになる。
筆者は以前、「食料システムの見直しや食品ロスの削減で、世界の二酸化炭素排出量を年間10.3ギガトン以上削減でき、これは2050年までに削減する必要のある二酸化炭素の総排出量(46.5ギガトン)の約22%に相当する。それだけの削減効果があるとすれば、各国が気候変動対策として、食料システムの見直しや食品ロスの削減に取り組まないなんてことはありえない」と書いた(9)。
注)1ギガトン=10億トン
果たして米国史上もっとも野心的な気候危機関連法は、世界第2位の温室効果ガス排出国である米国をネットゼロへと導く福音となるのだろうか。
まずは米国の食料システムと温室効果ガスの現状から見てみよう。
米国の食料システム
米国は人口3億2,950万人で、中国、インドに次いで世界で3番目に人口の多い国である(2020年7月1日時点)。2050年には、米国の総人口は4億人近くに達すると予想されている。また、米国は世界第2位のエネルギー生産国であり、消費国でもある(10)。
農業は米国にとって重要な産業である。農場の面積は100年前とほぼ同じだが、生産性向上の結果、現在では当時の3倍の人口を養い、さらに世界中に農産物を輸出している。2020年に米国の農場から食卓までの食料システムには、1,970万人が従事し、米国の雇用の10.3%を占め、国内総生産(GDP)の5.0%を占めている(11)。
大規模家族経営農場と工業型農場の数は全体の4.8%に過ぎないが、米国の農産物生産高の57.4%を占めている。小規模家族経営農場は、米国の農場の90%近くを占めているが、生産高は21.5%に過ぎない(12)。
米国の農家の25%は新規営農者(創業10年未満)であり、平均年齢は46歳である。米国においては、牛、トウモロコシ、大豆が最も重要な農産物である。特にトウモロコシの収量は1950年と比較して360%以上増加している(13)。
トウモロコシは米国でもっとも栽培されている農作物で、その栽培面積は約9,700万エーカー(カリフォルニア州とほぼ同じ広さ)にも及ぶ。その用途はバイオ燃料(40%)、家畜の飼料(36%)、残りの多くは輸出向けである。米国で収穫されるトウモロコシのうち食用になるのはごく一部で、その多くはコーンシロップとして、清涼飲料水やジュースの甘味料に使われている。
トウモロコシには「生活保護を受ける女王」とやゆされるほどの補助金が割り当てられている。たとえば、1995年から2020年にかけて1,166億ドル(約12兆8千億円)の補助金が投入されているが、これは2番目に補助金の多い小麦(484億ドル)の2.4倍にあたり、文字どおり「けた違い」だ(14,15)。また、2000年にはトウモロコシの栽培量に占める遺伝子組み換え種子の割合は25%であったが、2020年には92%に増加している(12)。
米国では、2013年に大豆が約7,600万エーカー栽培された。その大豆の約70%は家畜の飼料、約15%は食用油、約5%はバイオ燃料に使用されている。大豆は「遺伝子組み換え」、「慣行農法」、「有機大豆」の3つに分類される。有機大豆の作付面積は全体の約0.17%(2011年)とごくわずかで、主に豆腐や豆乳などの食品用と有機肉用の有機飼料に使用されている(16)。2000年には大豆の栽培量に占める遺伝子組み換え種子の割合は54%であったが、2020年には94%に増加している(12)。
日本の農林水産省によると、日本の大豆自給率は25%(食用油を含めると7%)で、輸入大豆の約7割を米国産が占める(18)。ということは、わたしたちが日頃口にしている、しょうゆ、みそ、豆腐、納豆などの大豆製品のおよそ半分は、米国産大豆で作られていることになる。
米国は、大豆、トウモロコシ、ナッツ、豚肉、牛肉の主要輸出国であり(19)、また同時に米国は、国内食料供給量の約15%を輸入に依存しており、特に国内で消費される野菜の約32%、果物の55%は海外から輸入されたものである(20)。
米国の温室効果ガス排出量
米国は中国に次ぐ世界第2位の温室効果ガス排出国である。米国では2016年以降、運輸部門が温室効果ガスの最大の排出源となっており、2020年の温室効果ガス総排出量に占める割合は27%となっている(21)。
2020年に農業から排出された温室効果ガスは、米国全体の排出量の11%を占めた。農業からの排出量は1990年以降6%増加している。これは家畜の糞尿から排出されるメタン(CH4)と一酸化二窒素(N2O)の排出量が62%増加したことが要因である。畜産以外は1990年以降、おおむね横ばいである(22)。
また、米国の農業の半分以上は大規模農場や工業型農場で行われており、その多くは化成肥料と農薬や除草剤の使用に依存した単一栽培で、生物多様性の低下、地下水の枯渇、流失した肥料による水質汚染、土壌の劣化を招いている(12)。
米国では、食事に関連する温室効果ガス排出量の47%を赤身肉が占め、卵、乳製品、魚介類を含めた、すべての動物性食品は全排出量の82%を占める。その肉食の半分を菜食に置き換えることで、食料システムから排出される温室効果ガスの35%を削減できると試算されている(23)。
米国の気候目標
まず、これまでの米国とパリ協定との関係をおさえておこう。2016年に米国(オバマ政権)はパリ協定に署名し、「気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC)」に「国が決める貢献(NDC)」を提出した。しかし、2019年にはトランプ政権がパリ協定を離脱し、NDCは無効となるものの、2021年にバイデン政権がパリ協定に復帰し、新たなNDC(今回の対象)を提出している。
米国は「アメリカファースト」と「協調・気候変動対策重視」の間で激しくゆれ動いている。4年おきに行われる大統領選挙の結果は米国の気候危機対策を大きく左右する。
バイデン政権によって再提出された「国が決める貢献(NDC)」において、米国は、世界平均気温の上昇を産業革命以前の水準から2度以下に抑え、1.5度に抑制するために、温室効果ガスの排出量を2030年までに(排出量のピークだった)2005年比で50%から52%削減することを気候目標とした(10)。
ちなみに日本の気候目標は温室効果ガスの排出量を2030年までに(排出量のピークだった)2013年比で46%削減、EUは2030年までに1990年比で55%削減、英国は2035年までに1990年比で78%削減となっている。
米国は、トランプ政権によるパリ協定離脱期間があったものの、温室効果ガスの排出量を2020年までに2005年比で17%削減するという目標を達成し、2025年には2005年比で26~28%の排出量削減する目標も達成できる見通しだという(ただし、ロシアのウクライナ侵略戦争以前の見通しである)。2030年の目標は、技術の進歩を見込んだ、より高い野心に基づくものであるとしている。
冒頭に米国の気候危機対策の法案について書いた。連邦予算委員会は、気候変動対策と米国のエネルギー生産の強化に3,690億ドルを投入することで、2030年までに米国の排出量をおよそ40%削減できるとしている。
しかし、米国の気候目標は2030年までに米国の排出量を2005年比で50%から52%削減することである。気候危機対策に3,690億ドルもの予算を投入する「米国史上もっとも野心的な気候危機対策」をもってしても、米国の気候目標を達成するのは難しいのだろうか。
米国が気候目標を公表したころには、バイデン政権は、その後お蔵入りとなった予算3兆ドル超(!)の「ビルド・バック・ベター」法案を提案していたので、単純に予算規模による達成度の違いなのか、または「排出量40%減」がコロナ禍、ロシアのウクライナ侵略戦争、気候危機、物価高騰を経た米国の現実路線ということなのか。それとも新しい法案を持ち出さなくても10〜12%は削減可能ということなのか、米国メディア各社の報道からは見えてこない。
気を取り直して、「気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC)」に2021年に提出された米国の「国が決める貢献(NDC)」の中で、米国は気候変動対策として食料システムについてどのように触れているのかを見てみよう。
米国の「国家の決める貢献(NDC)」にみる食料システムの記述
米国の農家と畜産家は、国内消費と輸出のために、食品と繊維、飼料用穀物、植物油、果物、野菜、その他の農産物を生産している。農業から排出される温室効果ガスにはさまざまな要因がある。肥料の散布など農場の土壌管理は、2019年に発生した一酸化二窒素(N2O)排出の最大の発生源(75%)であり、また家畜の腸内発酵や糞尿もメタン(CH4)の大きな排出源となっている(10)。
米国の温室効果ガスの排出量を削減するための、食料システムの取り組みは以下のとおり。
・米国は、気候変動に対応した農法(たとえば、カバープランツなど)、森林再生(気候変動による山火事で被害を受けた森林の再生を含む)、輪作放牧、栄養管理法などの拡大を支援する。「ブルーカーボン」の追求による水路や海での炭素吸収力を高める取り組みを支援する。
・米国は、冷媒のハイドロフルオロカーボン(HFC)の使用を段階的に削減する。
・米国は、メタン排出量を削減するため、基準の更新、天然ガス配給インフラからの漏れを塞ぎ、家畜の糞尿管理の改善や農地の土壌管理の改善など、メタンと一酸化二窒素の排出も削減する実践と技術を通じて、農業の生産性を向上させるプログラムと税制優遇措置を提供する。
気候危機に対応した農法、輪作放牧のような土地利用、冷凍・冷蔵倉庫に使用される冷媒であるハイドロフルオロカーボン(HFC)など食料システムの一部の要素が、気候変動対策としてNDCに記載されていることは評価できる。しかし、持続可能な食料システムへの移行や食品ロスの削減、農業補助金の見直しなど、特に米国で大きな問題になっていることについては、残念ながらNDCに記載がない。
それでは、可決されたばかりの米国史上最大の気候危機投資となる「インフレ抑制法案」はどうだろう。
「農家と林業家に気候変動対策における中心的な役割を果たしてもらうため、気候変動に対応した農業、森林再生、土地保全、また、農村部におけるクリーンエネルギー開発に多額の投資を行う」とある(7,8)。
具体的な施策は以下のとおり。
1)肥料使用の最適化、炭素を地中に固定してくれるカバープランツ(被覆作物)を活用する再生農業の実践を税制優遇するなど、農家や牧場主が気候危機に対処するために必要な手段を準備する支援(200億ドル以上)
2)農村部のエネルギー効率向上、再生可能エネルギー関連の雇用支援、また、燃料費を下げるために国産バイオ燃料のインフラに最大級の投資(140億ドル)
3)気候変動に耐性のある林業、都市部の緑化、地域社会を山火事から守るための助成金(50億ドル)
上記1は、まさに持続可能な食料システムへの移行や農業補助金の見直しが気候危機対策となるといういい例である。だが、上記2の「バイオ燃料のインフラに最大級の投資」というのが気になる。食品廃棄物を発酵させてバイオ燃料にするというのなら理解できるが、もし大豆やトウモロコシなどの穀物からのバイオエタノール生産を増産させるのであれば、本来食料となる穀物が先物投資の対象としてますます価格高騰し、米国産の穀物に依存する日本をはじめ諸外国の食料安全保障に影響が出るのではないだろうか。
バイデン政権がNDCを提出した後に発表された、米国環境保護庁の「農場から台所へ(From Farm to Kitchen)」(2021年11月)と米国農務省の新しい食料システムの枠組み(2022年6月)からも、米国のNDCに盛り込めそうな気候変動対策を探してみよう。
地産地消で物流・冷蔵保管からの排出量削減
米国農務省は「米国のめざす新しい食料システムの枠組み」で、自国の食料システムをより回復力のあるものにするために地域に根ざしたものにしようとしている。地産地消によって物流や冷蔵保管などによる温室効果ガスの排出量は削減され、地球温暖化対策にもつながる(24)。
ミシガン大学の研究チームは、地域支援農業(CSA)やファーマーズマーケットのような地産地消を進めることで、食料システムで使用される総エネルギーの約14%を占める、「物流による環境負荷」を軽減できるとしている(12)。
食品ロス削減で排出量削減
米国環境保護庁の報告書「農場から台所へ」(25)によると、米国の食品ロスは年間7,300万トン〜1億5,200万トンと推定され、米国人は一人当たり年間223〜468kgの食品ロスを出している。この食品ロスを金額にすると4,080億ドル(約44兆8千億円!)にあたり、これは米国の食料供給量の3分の1、GDPの2%に相当する。
米国環境保護庁は、この膨大な食品ロスからは、埋立地から排出されるメタンを除いても、農場から台所にいたるまでの食品サプライチェーン(供給網)からの排出を含め、石炭火力発電所42基分以上の温室効果ガスが排出されていると指摘している。
米国で食品ロス問題に取り組む非営利団体のReFED(リフェッド)は、2023年4月19日、2021年には米国で9,100万トンの「余剰食品(売れ残ったり食べられなかったりするすべての食品と定義)」が発生したと発表した(26)。これは米国の食料供給量の38%に相当し、同国の年間温室効果ガス排出量の6%近く、つまり8,300万台の乗用車を1年間運転したのと同じ量に相当する。この余剰食料の50%近くは家庭で発生し、さらに20%は消費者向けビジネスで発生したものだ。また、余剰食料の80%は食べられる部分だが、寄付されたのは2%未満である。
ReFEDは、2030年までに米国の食品ロスを50%削減するための投資は5倍の配当が見込まれ、4兆ガロン(約15兆リットル)の水を節約し、必要としている人たちのために40億食分の食事を回収し、10年後には51,000人の雇用を創出し、さらに毎年7,500万トンの温室効果ガスを削減できると試算している(26')。
持続可能な農業補助金とは?
米国連邦政府が提供する農業補助金は、天候不順、市場価格変動などにより、農業生産と収益性が年ごとに変動するのを管理し、食料の安定供給の確保と農家を支援するためにある(27)。
米国農務省の「農作物保険プログラム」は、農作物の収量や農家の収入が通常の状態よりも減少した場合に、農家に支払われるものである。農家もこの保険料の一部を負担してはいるが、半分以上(約62%)は米国の納税者が負担している。
スタンフォード大学の研究チームの調査により、地球温暖化の影響で、1991年から2017年の間に「農作物保険プログラム」を通して農家へ支払われた金額が270億ドル(約2兆9,650億円)に達したことが判明した。その期間に支払われた1,405億ドル(約15兆4,300億円)のうち、約2割が地球温暖化の影響によるものだったということだ。地球温暖化によって、ますます気温が上昇し、農作物の被害が拡大すれば、米国の納税者の負担も増加することになる。
ノースカロライナ州立大学の研究チームは、この「農作物保険制度」が農家の気候変動対策を阻害している可能性があると指摘している。農家は、熱波や干ばつなどで農作物に損失が出ても保険金が出るため、気候変動対策を怠る傾向がある。たとえば、猛暑によるトウモロコシと大豆の損害は、作物保険に加入している郡の方が、加入していない郡よりも大きいことが判明している(28)。
一方で、気候変動に対応した農家への補助金もある。たとえば、土壌や水の流出や地温の上昇を防ぎ、二酸化炭素を地中に蓄えてくれる働きのあるカバークロップ(被覆作物)を農場で育てる農家には、「連邦農作物保険」に加入すれば1エーカーあたり5ドル(約550円)の払い戻しがされる(29)。このような条件付補助金を拡大させることで、持続可能で健康的な食料システムへの移行を促進することができる。これは「インフレ抑制法案」に盛り込まれている。
米国のNDCは、ホワイトハウスの国内気候政策室が主導する気候タスクフォースによって策定された。策定にあたっては、連邦政府、州政府、地方政府、そして民間企業、市民社会、学術界と広範囲な協議が行われたという。米国には、ハーバード大学法科大学院、ReFED、NRDC、WWFなど食料システムや食品ロスを含めた環境問題に取り組む優れた組織がたくさんあるし、研究者も多い。もし、そういう人たちが気候タスクフォースに入っていなかったのなら、NDC改訂版を策定するタスクフォースにはぜひ参画してもらいたいものだ。
母なる大地の女神(ガイア)の復讐
ガイア理論の生みの親として知られる英国のジェームズ・ラブロック博士(生物物理学博士、医学博士)が、2022年7月26日の103歳の誕生日に亡くなった(30)。
ラブロック博士は、自身の「ガイア理論」について、2006年の英インデペンデント紙にこう書いている(31)。
「私のガイア理論は、地球はあたかも生きているかのように振る舞い、健康であることを愉しむことも、病気に苦しむことも、生きているものができることは何でもできる、というものだ。私は地球の臨床医として、この職業に真剣に取り組んできた。そして、いま私は悪い知らせを伝えなくてはならない。地球は10万年つづく恐れのある熱病にかかっており、重症なのだと」
地球温暖化は、人間が自分たちがどれほど地球を変えたか気づかず、借り物の時間を返さなければならないことにも気づかず、それをいいことに現状維持がつづけられてきた結果である、というのがラブロック博士の持論だった(32)。
暗礁に乗り上げていた米国の気候変動関連の大規模法案が一気に動き出したのは、ジェームズ・ラブロック博士の亡くなった翌日(7月27日)のことだった。
参考文献
https://www.latimes.com/environment/newsletter/2021-04-29/solar-power-water-canals-california-climate-change-boiling-point
2)米国の風力発電量、初めて2位に浮上 原子力と石炭上回る(CNNニュース、2022/4/7)
https://www.cnn.co.jp/usa/35185983.html
3)Electricity generation from wind(EIA、2022/3/30)
https://www.eia.gov/energyexplained/wind/electricity-generation-from-wind.php
4)Manchin, in Reversal, Agrees to Quick Action on Climate and Tax Plan(The New York Times、2022/7/27)
https://www.nytimes.com/2022/07/27/us/politics/manchin-climate-tax-bill.html
https://www.washingtonpost.com/us-policy/2022/07/28/manchin-schumer-climate-deal/
6)SUMMARY: THE INFLATION REDUCTION ACT OF 2022(Senate Democrats、2022/8/11)
https://www.democrats.senate.gov/imo/media/doc/inflation_reduction_act_one_page_summary.pdf
https://www.democrats.senate.gov/imo/media/doc/summary_of_the_energy_security_and_climate_change_investments_in_the_inflation_reduction_act_of_2022.pdf
https://www.agriculture.senate.gov/imo/media/doc/ag_reconciliation_one-pager.pdf
9)ほころびた食料システムの処方箋 SDGs世界レポート(79)(Yahoo!ニュース個人、2022/6/1)
https://news.yahoo.co.jp/byline/iderumi/20220601-00297774
https://unfccc.int/sites/default/files/NDC/2022-06/United%20States%20NDC%20April%2021%202021%20Final.pdf
11)Ag and Food Sectors and the Economy (USDA Economic Research Service、2022/2/24)
https://www.ers.usda.gov/data-products/ag-and-food-statistics-charting-the-essentials/ag-and-food-sectors-and-the-economy/
12)U.S. Food System Factsheet(University of Michigan、2021/9)
https://css.umich.edu/sites/default/files/food%20system_css01-06_e2021.pdf
13)Fast Facts About Agriculture & Food (American Farm Bureau Federation、日付不明)
https://www.fb.org/newsroom/fast-facts
14)Top programs in the United States, 1995-2020 (EWG's Farm Subsidy Database、日付不明)
https://farm.ewg.org/region.php?fips=00000&statename=UnitedStates
15)マイケル・ポーラン著、ラッセル秀子訳『雑食動物のジレンマ(上・下)』(東洋経済新報社、2009/11/5)
16)USDA Coexistence Fact Sheets Soy Beans (USDA、2015/2)
https://www.usda.gov/sites/default/files/documents/coexistence-soybeans-factsheet.pdf
17)Soybean 2020 Export Highlights(USDA、日付不明)
https://www.fas.usda.gov/soybean-2020-export-highlights
https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/daizu/d_tisiki/index.html#Q18
19)2020 U.S. Agricultural Exports (Foreign Agricultural Service、USDA、2021/5/1)
https://www.fas.usda.gov/data/2020-us-agricultural-exports
20)FDA Strategy for the Safety of Imported Food (FDA、2019/5/22)
https://www.fda.gov/media/120585/download
21)Sources of Greenhouse Gas Emissions(US EPA)
https://www.epa.gov/ghgemissions/sources-greenhouse-gas-emissions
22)Sources of Greenhouse Gas Emissions(US EPA)
https://www.epa.gov/ghgemissions/sources-greenhouse-gas-emissions#agriculture
https://css.umich.edu/sites/default/files/publication/CSS20-01.pdf
24)Transforming the U.S. Food System Making It Better for Farmers and Families(USDA、2022/6/23)
https://usda.exposure.co/transforming-the-us-food-system
25)From Farm to Kitchen: The Environmental Impacts of U.S. Food Waste(EPA、2021/11/30)
https://www.epa.gov/system/files/documents/2021-11/from-farm-to-kitchen-the-environmental-impacts-of-u.s.-food-waste_508-tagged.pdf
https://refed.org/articles/refed-releases-new-food-waste-estimates-and-calls-for-increased-action-by-food-system/
26')Food waste is a solvable problem – here’s how to do it(ReFED、日付不明)
https://refed.org/food-waste/the-solutions
27)Farm Subsidy Primer(EWG's Farm Subsidy Database、日付不明)
https://farm.ewg.org/subsidyprimer.php
https://www.ewg.org/news-insights/news/2021/08/federal-crop-insurance-reform-vital-incentivizing-climate-adaptation?_ga=2.92399645.1283483197.1659817938-749287733.1659817937
29)Pandemic Cover Crop Program(USDA、2022/3)
https://www.rma.usda.gov/en/Fact-Sheets/National-Fact-Sheets/Pandemic-Cover-Crop-Program
30)James Lovelock, creator of Gaia hypothesis, dies on 103rd birthday(The Guardian、2022/7/27)
https://www.theguardian.com/environment/2022/jul/27/james-lovelock-creator-of-gaia-hypothesis-dies-on-103rd-birthday?CMP=share_btn_tw
https://web.archive.org/web/20060408121826/http://comment.independent.co.uk/commentators/article338830.ece
32)ジェームズ・ラブロック著、竹村健一訳『ガイアの復讐』(中央公論新社、2006/10/10)
以下の評価書を全体の構成の骨組みに利用させていただいた。
https://futureoffood.org/wp-content/uploads/2022/03/GA_NDC_CountryAssessments-7-US_EN.pdf
為替相場については以下を参考にした。
前年の年末・年間平均2021(三菱UFJ銀行・外国為替相場情報)
http://www.murc-kawasesouba.jp/fx/year_average.php