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横田めぐみさんを空爆で破壊された壁に描いた理由 シリア人画家に思いを聞く(動画+写真11枚)

玉本英子アジアプレス・映像ジャーナリスト
瓦礫の壁に描かれた横田めぐみさんと父・滋さん(11月・シリアでムハンマド撮影)

◆内戦続くシリア・イドリブで描かれた日本の拉致被害者

反体制諸派による「暫定政府」が実効統治するシリア北西部イドリブでは、シリア政府軍(アサド政権)やロシア軍からの攻撃が続く。空爆で破壊され、瓦礫となった建物の壁に11月14日、北朝鮮拉致被害者の横田めぐみさんと父、滋さんの肖像が描かれた。描いたのは地元画家のアジズ・アル・アスマールさん(48歳)と友人のアニス・ハムドゥーンさん(48歳)だ。地元市民記者を介し、ネット回線を通してアジズさんにめぐみさんを描いた経緯や思いを聞いた。(取材・構成:玉本英子/アジアプレス、取材協力:ムハンマド・アル・アスマール)

【動画↓↓↓】横田めぐみさんの肖像を描いた思いを語るアジズさん(2020年11月21日撮影)]

アジズさんは4年前から壁に絵を描き続けている。(2020年11月・撮影:ムハンマド・アル・アスマール)
アジズさんは4年前から壁に絵を描き続けている。(2020年11月・撮影:ムハンマド・アル・アスマール)
「希望」の文字の傍らに子供の姿をデザインした絵。(2020年11月・撮影:ムハンマド・アル・アスマール)
「希望」の文字の傍らに子供の姿をデザインした絵。(2020年11月・撮影:ムハンマド・アル・アスマール)

◆「シリアでは娘を拉致された家族が数多くいる。めぐみさん拉致も人ごとでないと感じた」

アジズ・アル・アスマールさん:

25年前にレバノンに移住しましたが、私は反アサド政権派として知られていたため、レバノン在住のアサド支持者たちから多くの嫌がらせを受けました。そのため5年前、故郷のイドリブへ戻りました。ここでは店の広告や看板などを手掛けていますが、わずかな収入です。妻が学校で教師をしているので、なんとか暮らしていけます。4年前から表現活動として、壁をキャンバスにして絵を描くようになりました。

参考記事: 安田純平さんだけではない シリアであいつぐ拉致

戦火が続くシリア北西部イドリブ近郊の空爆で破壊された瓦礫の壁に横田めぐみさんと父・滋さんの肖像を描いたアジズさん(2020年11月・撮影:ムハンマド・アル・アスマール)
戦火が続くシリア北西部イドリブ近郊の空爆で破壊された瓦礫の壁に横田めぐみさんと父・滋さんの肖像を描いたアジズさん(2020年11月・撮影:ムハンマド・アル・アスマール)
めぐみさんの肖像とともに「自由」の文字と桜も。この壁画は、イドリブ近郊の町、ビンニシュで描かれた。(2020年11月・撮影:ムハンマド・アル・アスマール)
めぐみさんの肖像とともに「自由」の文字と桜も。この壁画は、イドリブ近郊の町、ビンニシュで描かれた。(2020年11月・撮影:ムハンマド・アル・アスマール)

瓦礫の壁に描くのは、絵を見た人が、同時に破壊されたイドリブの風景も見ることで、メッセージが強力に伝わるのではないかと考えたからです。世界の様々な人権侵害も描くことで、彼らの苦しみを分かち合いたいとも思っています。警察官に首をおさえられて亡くなったアメリカの黒人男性の肖像も描きました。

米軍の砲撃で足切断の少女「家族が殺されたのは『しかたない』の?」(写真12枚)

最近の作品では、米ミネアポリスで警官に殺害された黒人男性、ジョージ・フロイドさんの肖像も手がけた。(2020年・撮影:ムハンマド・ジャマロ)
最近の作品では、米ミネアポリスで警官に殺害された黒人男性、ジョージ・フロイドさんの肖像も手がけた。(2020年・撮影:ムハンマド・ジャマロ)

先月、日本人青年がベルリンのロシア大使館の前でシリアでの拘禁者と連帯するためのハンガーストライキをしていることを知りました。

日本の情報に接する中、1977年に日本人の少女、横田めぐみさんが北朝鮮に拉致され、娘の帰国を訴え続けていた父親が、願いかなわずして亡くなったニュースを読み、めぐみさん拉致も人ごとではないと感じました。そこで連帯の意味も込めて、この父娘を描くことにしました。

アジズさんはイドリブで建物の壁にペイントしたり、子どもたちに絵を教える活動にも取り組んでいる。(2020年11月・撮影:ムハンマド・アル・アスマール)
アジズさんはイドリブで建物の壁にペイントしたり、子どもたちに絵を教える活動にも取り組んでいる。(2020年11月・撮影:ムハンマド・アル・アスマール)

描いているあいだ、私は5年前にダマスカスの検問所で治安部隊に逮捕された叔母と彼女の娘たちのことを考えていました。彼女たちはその後、行方不明です。他に友人夫婦も拘束された後、行方が分かっていません。かれらはテロリストなんかではありません。ここでは娘や息子の行方が分からず苦しむ親の姿は人ごとではないのです。

アジズさんが子どもたちに絵を教えるのは、戦争の暗い空気から抜け出し、心を癒やしてもらうためでもあるという。(2020年・アジズさん提供)
アジズさんが子どもたちに絵を教えるのは、戦争の暗い空気から抜け出し、心を癒やしてもらうためでもあるという。(2020年・アジズさん提供)

◆シリアで続く拉致・拘禁の現実知って

私の家は4回攻撃に遭いました。破壊され、隣人の5人が亡くなりました。この寒さの中、家を失った何百万もの人たちがテントに身を寄せているのを見るのは辛すぎます。

私は学校や避難民キャンプなどで、無償で絵を描く活動をしています。子どもたちに絵を教えたりもします。子どもたちが、さまざまな色を使って絵を描くことで、戦争の重苦しい空気から解放され、笑顔になってほしいと願っています。

空爆や砲撃で激しく破壊された住宅地の壁の作品の前で。左がアジズ・アル・アスマールさん(48歳)。(2020年11月・撮影:ムハンマド・アル・アスマール)
空爆や砲撃で激しく破壊された住宅地の壁の作品の前で。左がアジズ・アル・アスマールさん(48歳)。(2020年11月・撮影:ムハンマド・アル・アスマール)
瓦礫のなかの壁画。家族がアサド政権によって拉致されたアジズさんは、悲しみと怒り、そして自由と希望への願いを込めて表現活動を続けている。(2020年11月・撮影:ムハンマド・アル・アスマール)
瓦礫のなかの壁画。家族がアサド政権によって拉致されたアジズさんは、悲しみと怒り、そして自由と希望への願いを込めて表現活動を続けている。(2020年11月・撮影:ムハンマド・アル・アスマール)

私たちは自由を愛する善良な市民です。アサド政権に拘禁されている人たちについて、知ってほしいと思います。私たちも日本や他の国で拉致や誘拐された人たちのことに心を寄せたいと思っています。

【関連写真を見る】シリア内戦で家を追われた女性と家族の暮らし

新型コロナウイルスとアサド政権の「危険性」を掛け合わせて風刺壁画アートに。(2020年・撮影:ムハンマド・ジャマロ)
新型コロナウイルスとアサド政権の「危険性」を掛け合わせて風刺壁画アートに。(2020年・撮影:ムハンマド・ジャマロ)
シリアではアサド政権による拉致、拘禁が続いてきた。他方、内戦の混乱の中で武装諸派や犯罪集団が政治目的や身代金目当てで拉致、誘拐を繰り返している。行方不明者は数万にのぼるといわれる。(地図・坂本卓/アジアプレス)
シリアではアサド政権による拉致、拘禁が続いてきた。他方、内戦の混乱の中で武装諸派や犯罪集団が政治目的や身代金目当てで拉致、誘拐を繰り返している。行方不明者は数万にのぼるといわれる。(地図・坂本卓/アジアプレス)
アジアプレス・映像ジャーナリスト

東京生まれ。デザイン事務所勤務をへて94年よりアジアプレス所属。中東地域を中心に取材。アフガニスタンではタリバン政権下で公開銃殺刑を受けた女性を追い、04年ドキュメンタリー映画「ザルミーナ・公開処刑されたアフガニスタン女性」監督。イラク・シリア取材では、NEWS23(TBS)、報道ステーション(テレビ朝日)、報道特集(TBS)、テレメンタリー(朝日放送)などで報告。「戦火に苦しむ女性や子どもの視点に立った一貫した姿勢」が評価され、第54回ギャラクシー賞報道活動部門優秀賞。「ヤズディ教徒をはじめとするイラク・シリア報告」で第26回坂田記念ジャーナリズム賞特別賞。各地で平和を伝える講演会を続ける。

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