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乾癬の適切な全身療法を阻む壁とは?皮膚科医が解説するガイドライン活用法

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【乾癬治療ガイドラインの認知度と活用状況】

乾癬は皮膚に炎症を引き起こす慢性の皮膚疾患で、欧米では人口の2~3%が罹患しているとされています。近年、生物学的製剤の登場により中等度から重度の乾癬の治療は大きく変化しました。各国の皮膚科学会は乾癬の全身療法に関するガイドラインを策定し、エビデンスに基づいた治療の実践を推奨しています。

しかし、ガイドラインの認知度は国によって差があります。英国、ドイツ、スペインでは皮膚科医のガイドライン認知率が90%以上と高い一方、オランダでは75%にとどまっています。また、ガイドラインを日常診療で活用している医師の割合はさらに低く、オランダの調査では46%でした。ガイドラインが十分に活用されていない現状があるようです。

【ガイドライン順守を阻む様々な障壁】

では、なぜガイドラインが守られないのでしょうか?先行研究から、患者側、医師側、医療制度など様々なレベルの障壁が明らかになっています。

医師側の障壁としては、皮膚科以外の診療科医師のガイドライン認知度の低さが指摘されています。実際、ドイツの調査では乾癬に対する全身ステロイド薬の処方医師の52%が一般医、35%が内科医で、皮膚科医はわずか11%でした。日本でも、かかりつけ医から紹介されて皮膚科を受診する乾癬患者さんは少なくありません。皮膚科以外の医師にもガイドラインの周知が必要と言えるでしょう。

また、ガイドラインの適用可能性の低さも問題視されています。国際的な2つの研究では、ガイドラインの臨床現場への適用可能性の乏しさが最も一般的な弱点として挙げられました。

一方、医療制度に関連した障壁も無視できません。ドイツの研究では、生物学的製剤の使用は医学的理由よりも経済的理由(薬剤費の高さ、皮膚科医への報酬不足、開業医での全身療法を開始するための診察時間不足など)に基づいていることが示唆されています。各国の医療制度の違いを考慮し、それぞれの状況に合わせたガイドラインの作成と普及啓発が求められると考えます。

【ガイドライン順守による医療の質の向上】

ガイドライン順守は乾癬患者のQOL向上とも直結します。ドイツの研究では、国内ガイドラインの導入後、全身療法を受ける患者の割合が32.9%から57.6%に増加し、高い疾患活動性を示す患者の割合が減少したことが報告されています。米国の調査でも、ガイドラインが診療に大きな影響を与えたと回答した皮膚科医が67.7%に上りました。

日本でも、ガイドラインに沿った乾癬の適切な治療が求められます。そのためには、皮膚科医だけでなく、プライマリケア医を含む全ての関係者への啓発活動が重要です。乾癬患者のQOL改善のため、ガイドラインを有効活用できる環境づくりが望まれます。

参考文献:

Augustin M, et al. J Dtsch Dermatol Ges. 2011;9(10):833-838.

Langenbruch A, et al. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2021;35(7):1536-1542.

Ann Dermatol Venereol. 2024 May 21;151(2):103280. doi: 10.1016/j.annder.2024.103280.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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