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災害時に弱いキャッシュレス社会、現金が重要に。セイコーマートの事例より

久保田博幸金融アナリスト
(写真:アフロ)

 我が家の近くにセイコーマートがある。セイコーマートは顧客満足度で毎年1位を取っているとされる北海道を拠点とするコンビニエンスストアチェーンである。道内を中心に約1100店を展開。茨城では84店、埼玉では9店が営業している。その茨城のうちのひとつの店舗に6日に昼食を買いに出かけたところ、レジに手書きの張り紙があった。

 これは交通系のICカードなど電子マネーなどでの決済に加え、公共料金の支払い、ゆうパックの受付が出来ない状態となっていることを知らせるものであった。

 この日の早朝3時に北海道で震度7の地震が発生していた。セイコーマートは北海道が拠点であり、これは地震とそれによる停電の影響と思われた。

 実際に朝日新聞がこれについて取材していたようで、セイコーマートの関東事業本部は取材に対し、「本社のホストコンピューターがダウンしたのが原因。お客さまには、しばらく不便をおかけすることになり、申し訳ない」と話したそうである。

 ただし、このセイコーマート、地震とそれによる停電にもかかわらず北海道では奮闘していたことがツイッターなどで紹介されていた。

 道内のほとんどの地区で停電が発生し、食料品店なども休業をせざるを得ない状況が続いている中、セイコーマートの多くが営業していたのである。しかも普通のガソリン車のシガーソケットから給電するなどして、停電中も温かい食事を提供していたとか。会社側が普段から非常電源キットを各店舗に配布し、今回はそれを使い従業員の車などから電源を取ったとも報じられ、災害時の対応を準備していたようである。

 このようなセイコーマートの営業努力にもかかわらず、電子マネーの利用については道内だけでなく関東地方の店舗でもできなかった。ただし、セイコーマートのレジについてはオフラインでも使用可能で、災害時にも使えるものであったようである。

 レジはオフラインでも使えるというのは非常に大きい。東日本大震災の際、私も食料品を確保するため、かろうじて営業していた近くのコンビニ(この際はセイコーマートではない)に行ったのだが、レジが使えず手作業で決済を行っていた。営業してくれていたことには感謝だが、大混雑のなかの手作業で、かなり時間が掛かってしまっていた。

 この際にも当然ながらクレジットカードや電子マネーなどは使えない。これらは電気の問題だけでなく、ネットワークにアクセスできないと使い物にならないためである。これに対して現金についてはネットワークで確認する必要はないため、このような緊急時においても使うことができる。

 日銀は今回の北海道での地震の際に、「北海道胆振地方中東部を震源とする地震にかかる災害に対する金融上の措置について」というペーパーを発表し、金融機関(銀行、信用金庫、信用組合等)への要請として、預金証書、通帳を紛失した場合でも、災害被災者の被災状況等を踏まえた確認方法をもって預金者であることを確認して払戻しに応ずることとした。もちろんこの払い出しとは、必要となる現金のことである。

 日本ではなかなかキャッシュレス化が進まないとされるが、それは日本人が現金好きだからという面もあるかもしれないが、何かあったときに頼れるのが「現金」ということを、これまでの震災などの経験で学んでいたことも大きいのではなかろうか。

 セイコーマートが停電にもかかわらず通常営業が可能であったのは、非常電源キットの準備などとともに、本社のホストコンピューターがダウンしても、オフラインでも使えるレジを使っていたことも大きいのではなかろうか。

 キャッシュレス社会という現金を持たない生活も良いかもしれない。しかし、災害時のリスクを考えれば一定の現金を保有せざるを得ない。営業店舗にあっては電気がなくても営業は可能となるような仕組みが、特に地震などの災害の多い我が国においては必要なのではないかと思った。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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