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大谷翔平 打撃不振への雑音を封じるにはむしろ圧巻の投球が近道かも

豊浦彰太郎Baseball Writer
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

アリゾナに現地2日半滞在の弾丸スプリングトレーニング観戦に行って来た。前回は2013年のサンフランシスコでのWBC決勝ラウンド前の1日だけの訪問だから5年ぶりだ。その間にも結構変わっってしまった部分もある。

今回は大谷翔平のアメリカでのプレーぶりを見届けるのが主たる目的のひとつだったが、結局5球場で5試合を観戦し、それ以外にも「朝練」の視察で2カ所訪れた。2日半としては相当中身が濃いというか無茶なスケジュールだった。

MLBのスプリングトレーニングとしては、フロリダのいわゆるグレープフルールリーグとアリゾナのカクタスリーグがある(ともにリーグ名は愛称であって、そういう組織が形成されている訳ではない)が、後者の方が日本から行ってみようというファンには適している。天候が安定し、比較的狭い地域に各球団のキャンプ施設が密集しているからだ。また、西海岸に近く便数や飛行時間の点でもこちらの方が恵まれている。

今回も移動にはレンタカーを使った。実はアリゾナはアメリカの中では比較的バス網が充実しているが、1日に複数箇所を巡ろうとするとやはりクルマ移動には及ばない。

一昔前までは、ぼくもナビなしのレンタカーを使っていた。タテヨコの主要幹線を把握しておけば、個人宅を訪ねるのではないので遠くからでも目的地を見つけることが出来るからだ。しかし、それでも「そろそろだよな」と思いつつも中々目的地にたどり着かない時の不安感や、ようやく遠くにお目当の球場の照明灯が見えた時の安堵感はナビなし時代(こっちが古かっただけ?)ならではの旅の醍醐味だった。

今はもっぱら日本から持ち込んだスマホのナビアプリを使っている。レンタカーに装備されているナビより操作が容易だし極めて正確だ。しかも日本語でガイドしてくれる。試合後などは、交通渋滞を緩和するために地元ポリスが本来乗りたいフリーウェイまでの方向の道を封鎖し、しばらく反対方向に走らざるを得ないケースもある。こんな時は日本語でリルート案内してくれるスマホナビのありがたさを痛感する。ナビなし時代は大いに不安感に襲われたものだ。

時代の移り変わりは早い。かつてはスプリングトレーニングならではののどかさを象徴していたこじんまりとした球場(あくまでメインの球場の収容人数や設備の簡素さの話だ。キャンプ施設全体では何面もグラウンドがあるなど、NPBのそれの追随を許さない)は、今やカブスのスローンパーク(リグレーフィールドを模したデザインや外野のルーフトップバーなどのアメニティがふんだんに取り入れられている)や、ダイヤモンドバックスとロッキーズが共用するソルトリバーフィールズ(Statcastなどの最新鋭の計測装備を備えている)公式戦の球場さながらの豪華さやキャパシティを有するものもある。

それらは確かに素晴らしいのだけれど、その分選手の導線もキッチリ一般のファンとは別れており、練習場とメイン球場を移動する選手との触れ合いのチャンスは減っているのは残念だ。

また、立派になった球場はその人気も反映し観客の経済的負担も結構な水準になった。前回訪れた時などはスプリングトレーニングのチケットプライスはまだマイナーリーグ並みで、内野のバックネット裏あたりでもせいぜい20ドルくらいだったのに、その場所だといまや公式戦並みの70ドル台という球場も珍しくなかった。それこそ20ドルでは外野の芝生席がせいぜいだったりした。

「スプリングトレーニングは希望の一語に尽きる」とは、元「ニューヨーカー」誌のエディターで野球関係の名著も多いロジャー・エンジェルの名言だ。確かに、長かった冬が終わったこの季節は、前年低迷した選手や球団そしてそのファンのだれもが夢を見ることが許される季節だ。そして、そのエンジェルは今より遥かに牧歌的だった70年代にすでに「スプリングトレーニングは今やそれ自体が目的になっており、実は公式戦の準備という観点からは1ヶ月以上も行う必要はない」と語っている。確かにそうだ。大昔はオフの間に選手は完全に体が鈍っていため、シェイプアップするために文字通りトレーニング期間が必要だったようだ(したがって、ゲームよりも練習が重要だった)。しかし、現代ではオフの間も選手はしっかりトレーニングを積みほぼベストなコンディションでフロリダなりアリゾナに現れる。したがって、1ヶ月以上も延々と続くスプリングトレーニングゲームは、今やその興行のために行なっているのが目的の半分と言って良いだろう。

冒頭で記した通り、今回の渡米目的のひとつが人並みだが大谷翔平のプレーをアメリカの地でも見ることだった。日本ハム時代のライブ観戦ではそれ程自覚したことはなかったのだが、彼の立派な体躯の存在感は中々のものだった。逆説的だが、大男揃いのメジャーの中だからこそその存在感がかえって際立って来たと言えるかもしれない。きゃりーぱみゅぱみゅの歌とともに登場するのは、前回の東京五輪前の生まれのぼくには困惑でしかないが、現地のファンはそのぱみゅぱみゅに合わせ?大きな喝采を送っていた。「現地の」と記したが、予想通り観客の中には多くの日本人が含まれていた。スタンドやコンコースでごく普通に日本語の会話が聞こえてくる。他の4球場では日本人ファンはほぼ皆無だっただけに、大谷のマーケティング効果を改めて認識させられた。

しかし、その多くの日本人ファンの期待に彼が応えたとは言い難かった。ぼくが観戦した11日のレンジャーズ戦では、第1打席でこそ一二塁間を抜く12打席ぶりの安打を放ち場内を沸かせたが、その後は三振と一塁ゴロと精彩を欠いた。3の1という結果程には内容は宜しくなかった。動くボールに対応できず打球が上がらない、緩急に脆い、追い込まれるとボールに手が出るなど多くの課題を露呈した。まだ長打は一本も出ておらず、早くも現地メディアからは、「彼の打撃は高校生級」「メジャーでやって行くにはマイナーで500打席の経験が必要」などとの厳しい見方も出てきた。彼の行く手にはこれから多くの関門が待ち受けていると思うが、これがまずは最初の壁だろう。正直なところ、「高校生級」は言い過ぎだが、メジャーの投球への順応にはすこし時間を要しそうだ。雑音をシャットアウトするにはむしろ圧巻の投球を見せる方が近道かもしれない。

アリゾナを去る機内には元日本人メジャーリーガーや、明らかに大谷目当てと思われるそれなりの数の日本人ファンが居た。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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