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老化細胞を除去する新薬セノリティクスとは?最新の研究動向

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【老化細胞の特徴と働き】

私たちの体には、加齢とともに老化細胞が蓄積していきます。老化細胞は、もはや分裂することができず、炎症性物質を放出して周囲の細胞に悪影響を及ぼします。これらの炎症性物質は、SASP(senescence-associated secretory phenotype)と呼ばれ、様々な疾患の発症や進行に関与していると考えられています。

また、老化細胞はSA-β-ガラクトシダーゼという酵素を過剰に発現しています。この酵素は老化細胞のマーカーとして用いられ、老化細胞を検出する際に利用されます。さらに、老化細胞では細胞周期の停止が起こっており、これにはp53/p21経路やp16/Rb経路の活性化が関与しています。このように、老化細胞は特有の性質を持っており、これらを標的とした治療法の開発が期待されています。

【セノリティクスによる疾患治療の可能性】

セノリティクスは、老化細胞を選択的に除去する働きを持つ化合物群です。これまでに、ケルセチン、ダサチニブ、フィセチンなど様々なセノリティクスが開発されてきました。セノリティクスを用いることで、アルツハイマー病、糖尿病、動脈硬化症など、加齢に伴う疾患の予防や治療に役立つ可能性があります。

例えば、アルツハイマー病モデルマウスにおいて、セノリティクスの投与により老化細胞が除去され、認知機能の改善が見られたという報告があります。また、糖尿病モデルマウスでは、セノリティクスによって膵臓のβ細胞の老化が抑制され、インスリン分泌能の改善が示されました。

皮膚の老化に関しても、セノリティクスの効果が期待されます。加齢とともに皮膚の老化細胞が増加し、コラーゲンの減少やシワの形成につながります。セノリティクスを用いて皮膚の老化細胞を除去することで、若々しい肌を維持できる可能性があります。

セノリティクスが含まれたサプリメントは徐々に増えてきています。また、セノリティクスであるケルセチンは玉ねぎやブロッコリーなどに含まれており、一方、フィセチンはイチゴなどに含まれています。皮膚のアンチエイジングとして、食生活を意識してみるのも一つでしょう。

【臓器移植への応用と課題】

セノリティクスは、臓器移植の分野でも注目されています。高齢ドナーからの臓器は、老化細胞の蓄積により移植後の生着率が低下する傾向にあります。セノリティクスを用いて、移植前にドナー臓器の老化細胞を除去することで、移植成績の向上が期待できます。

また、移植後のレシピエントにおいても、虚血再灌流障害による臓器障害が問題となります。セノリティクスには抗炎症作用があることから、移植後の臓器障害を軽減できる可能性があります。

ただし、セノリティクスの安全性や長期的な効果については、まだ十分なデータが得られていません。今後、臨床試験を通じて、セノリティクスの有効性と安全性を確認していく必要があるでしょう。

以上、セノリティクスについて概説しました。老化細胞を標的とした治療法は、高齢化社会における様々な疾患の予防や治療に貢献できる可能性を秘めています。皮膚の老化対策としても期待されるセノリティクスですが、その実用化にはさらなる研究が必要不可欠です。今後のセノリティクス研究の進展に注目していきたいと思います。

参考文献:

1. Zhu, Y., Tchkonia, T., Pirtskhalava, T., Gower, A. C., Ding, H., Giorgadze, N., ... & Kirkland, J. L. (2015). The Achilles' heel of senescent cells: from transcriptome to senolytic drugs. Aging cell, 14(4), 644-658.

2. Ogrodnik, M., Evans, S. A., Fielder, E., Victorelli, S., Kruger, P., Salmonowicz, H., ... & Jurk, D. (2021). Whole‐body senescent cell clearance alleviates age‐related brain inflammation and cognitive impairment in mice. Aging cell, 20(2), e13296.

3. Palmer, A. K., Xu, M., Zhu, Y., Pirtskhalava, T., Weivoda, M. M., Hachfeld, C. M., ... & Kirkland, J. L. (2019). Targeting senescent cells alleviates obesity‐induced metabolic dysfunction. Aging cell, 18(3), e12950.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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