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国交省からの電話 思い知る「現場との温度差」

橋本愛喜フリーライター
イメージ(写真:西村尚己/アフロ)

2月1日公開した記事では、緊急事態宣言で飲食店が一律時短営業をする中、高速道路のサービスエリア・パーキングエリア(SAPA)を利用するトラックドライバーが「食堂難民」になっている実態を紹介した。

先行記事:

トラックドライバーの「SAPA飲食店を開けてくれ」に「コンビニ利用」を促す国交相のズレ感

https://news.yahoo.co.jp/byline/hashimotoaiki/20210201-00220140/

各地域で緊急事態宣言が発令されたのは1月8日。

同宣言を受け、該当地域の飲食店には20時までの一律時短営業が要請されることになったが、それによりSAPAの飲食店までもがその時短営業を実施。翌月2日には、10都府県で1か月の宣言延期が決まったが、同記事では、これまでひとり“黙食”を続けてきたトラックドライバーたちが、長い間「食堂難民」になっている実態を書いている。

この記事を公開した日の夜、突然見知らぬ電話番号から着信があった。

国交省からだった。

電話で抱いた違和感や、開かれた会議の内容、SAPAのその後、そして一連の流れから痛感した「国と現場の温度差」についてレポートする。

夜に掛かってきた国交省からの電話

前回記事は、公開された直後から大きな反響があった。

「杓子定規のルールの弊害」

「赤羽国交大臣のコンビニ発言はあまりにも無情」

「結局エッセンシャルワーカーなんてカッコいい名前付けておきながら、現場いじめにしかなっていない」

記事公開同日の夜8時半ごろ、多くの読者から寄せられるこれらコメントやメールにゆっくり返信していた時、突然見覚えのない番号から電話が掛かってきた。

国交省の職員を名乗る男性A氏からだった。

連絡先は、以前筆者と名刺交換をしたことのあるB氏から聞いたという。

本来ならば、名刺交換した本人から「連絡先を教えていいか」の断りの連絡が先にあってしかるべきだが、掛かってきた時間は8時過ぎ。裏を返せば、よほどの緊急性を要しているのだと判断し、どういう要件なのか問うと、

「今日公開された記事に関して、我々の認識と若干の齟齬があるので話を聞かせてもらいたい。大臣があの記事を気にされていて、『橋本さん(筆者)によく聞いとけ』ということで。一部の部署も『腑に落ちない部分がある』と言っているため、お話を伺いたくこちらにお越しいただきたい」

という内容だった。

口調は終始穏やかで、「意見を聞かせてほしい」を前面に出した来庁要請ではあった。

ただ、記事公開日の夜に面識のない国交省の職員から「腑に落ちない点がある」、「リモートではなく直接来るように」と言われれば、こちらは心中穏やかではいられない。

数度「この時世、リモート会議じゃダメなのか」としても足を運ぶようにとのことだったため、同省への訪問を了承し、電話を切った。

翌朝一番にあった再びの電話

電話を切った後、色々な意味でこの事実は自身だけに留めておくべきことではないと判断し、周囲のジャーナリストに相談。その後、SNSで国交省から呼び出しがあった旨を報告した。

翌朝、再び電話が鳴った。

今度は、前夜に連絡してきたA氏が「筆者の連絡先を聞いた」としたB氏からだった。

B氏とは、後述する「東京料金所視察」で顔を合わせており、その際に名刺交換をしていたが、筆者の連絡先を無断で第三者に教えたことに対しては、何の言及も謝罪もなかった。

「ある部署から『国交省が積極的に取り組んでいないんじゃないか』という内容の記事を書かれたと聞いた。どういうふうな取材をされてああいう記事を書かれたのか、お話を伺いたい」

「うちの職員が昨晩ご来庁いただくようお電話でお願いしたようだが、このご時世なのでリモートで構わない」

昨晩の電話では、筆者との会議を設置するよう指示したのは大臣本人で、会議出席者の在庁日時も確認していたため、A氏が勝手に筆者の来庁を決めたようには思えないし、何より、電話番号を教えた本人が昨晩の電話を掛ける経緯を知らないわけがない。

話を聞いていると、ある感情が湧いてくる。

昨晩の電話といい朝方の電話といい、こうした対応は早いのに、どうして現場に対するケアは毎度毎度遅いのか。

そんなもどかしさと怒りが混じった思いがこみ上げ、呼び出しの前にB氏に心のうちを話した。

「リモートワークだ外出自粛だと叫ばれている中で、社会インフラを守るべく1日中運転し、ようやくたどり着いたSAPA。たとえ飲食店を使わなかったとしても、時短しているレストランを見たり、毎晩冷たい食事をとっていると、社会から取り残された気分になるんです」

当時、永田町界隈では「国会議員の会食感染騒動」が相次いでおり、現場を走るトラックドライバーたちからは、その「差」に対する不満の声も多く挙がっていた。

会議までの10日間

会議はオンラインで約10日後となったが、その間もSAPA飲食店の時短営業は変わらなかった。

ただ、その後大手メディアなどが取り上げるようになったことで、同問題に対する認知度は、世間に少しずつ広がっているような感はあった。

会議までの間、出来る限りトラックドライバーや読者の反応を拾っておこうと、取材やコメントの見返しをしていった。

多くのトラックドライバーが「ずっとコンビニ飯が続いていてさすがに飽きた」、「温かい食べ物が取れる環境を作ってほしい」とする一方、古い商習慣に慣れている一部のトラックドライバーや経営者からは、「全然困っていない」、「飲食店が閉まったくらいで文句言っているから底辺と呼ばれるんだ」などという意見もあった。

先行記事にも紹介した「プレジデントオンライン」の過去記事(※1)でも言及しているように、杓子定規に決められたあらゆるルールは、トラックドライバーだけでなく、すでに様々な現場に影響を及ぼし始めている。

以前取材したある保健師からも、「記事を読んだ。あらゆる面からコロナと対峙する身としても、自殺者の増加(※2)は看過できず、遠因になっているであろう今の一律時短営業による対策は正しいとは言えないと感じている」という声が届いた。

後日、再び取材で海老名SAに赴いた際、シャッターが閉まっているフードコートで若い女性2人が「トラックドライバーさんたちかわいそうだよね。ここまで閉めなくていいじゃんね」と話しながら筆者の後ろを通り過ぎていったのが、非常に印象的だった。

※1

「SAやPAの飲食も20時閉店」一律時短でトラック運転手が食堂難民になっている

(プレジデントオンライン)

https://president.jp/articles/-/42766

※2

20年の自殺者2万919人 11年ぶり増加、コロナ影響か(日本経済新聞)

https://www.nikkei.com/article/DGXZQODG05BX30V00C21A1000000/

こうして迎えた会議当日、リモート会議では国交省の各部署の職員や自動車局長など、計7人が出席(モニター上で確認できる範囲内)。

結果から述べると、行われた会議は、あの夜の電話で聞いていた内容とは明らかに違っていた。

この10日間に受けていた国交省からのメールでも、会議の主旨が少しずつ変わっているのを感じたが、当日出席してみると、先行記事がどんな取材をして書かれたのか筆者が質問を受けるはずだった会議は、筆者のほうが国交省側の対策を聞き、それに対して質問や意見をする、という場に変わっていたのだ。

誰からも一向に質問が出ないため、こちらから「記事に腑に落ちない部分があるということだが、どの点か」と問うてみたが、部署の職員は皆口を揃えて「我々はそんな話は全くしていない」とし、結局その日、筆者への質問は何一つとして出なかった。

そのため現在においても、記事公開日に国交省が慌てて電話してきた理由は全く分からない。

会議の内容

こうして慌てて電話をしてきてまで筆者に伝えたかった「国交省側の対策」は、以下の2点だった。

1.SAPA飲食店時短営業における対策として、東名高速道路海老名サービスエリア(下り)にキッチンカーを設置

2.高速道路の「深夜割」の時間変更案(後日改めて記事化する)

どうしてこのタイミングで「深夜割」の対策について意見を求められたのかは不明だが、本題の「時短営業対策」については、キッチンカー設置の策を講じてくれたことは、素直に嬉しいと思えるところだ。

※現場の店員に話を聞いたところ、実際のところは「設置」ではなく「営業時間延長」とのこと。キッチンカーは日中、元から同じ場所で営業していたが、11日から深夜対応のキッチンカーが日中組と交代するようになったという

海老名SA(下り)に貼られていた、キッチンカー営業の知らせ(筆者撮影)
海老名SA(下り)に貼られていた、キッチンカー営業の知らせ(筆者撮影)

ただ、東名高速道路で20時以降、トラックがマスに停められないほど混むのは、「下り」ではなく「上り」である。

海老名SAは、「下り」のほうが施設が小さく、フードコートが閉まると、「上り」以上に食料が手に入らなくなる。キッチンカーを「下り」に設置したのはそのためだと思われるが、上りや下り、もっといえば海老名SAに限らず、冷たい弁当飯ではなく、やはり温かい出来立ての食べ物を提供してほしいところ。

会議では、どうして「下り」に設置したのかを問うても答えは返ってこず、筆者が「その時間、混んでいるのは下りではなく上りだ」と告げた途端、職員が一斉にメモを取り始めた光景には、正直驚いた。

職員の話を聞いている最中、最初の夜の電話でA氏が述べたある言葉が頭をよぎった。

「こちら側の主張としては、必ずしも食料が全然買えないわけではない」

筆者は先行記事で「食料が全然買えない状態だ」とは一切書いていないのだが、恐らく国交省が「腑に落ちない」としていたのはここだと思われる。

が、この「必ずしも食料が全然買えないわけではない」という考え方は、赤羽大臣のコンビニ利用を促す理論と変わらず、「このキッチンカーも、食料の足りない『下り』だけに設置しておけばいい」とする考えにも繋がるところだろう。

これこそ、”上”と現場の温度差である。

海老名SA(上り)にいたトラックドライバーの話を思い出した。

「ほしいですね、温かいメシ。ペッチャンコになった弁当のコメはこれ以上つらいです」

会議を終え、部屋に静けさが戻った瞬間、「『キッチンカーを置いてくれた』という行動1つで、多くのドライバーはいくらでもポジティブになれることを、彼ら知らないのだろう」と思うに至ったのである。

海老名SA(下り)のキッチンカー(2月15日午後8時半ごろ筆者撮影)
海老名SA(下り)のキッチンカー(2月15日午後8時半ごろ筆者撮影)

「ルールを作る側」に今必要なもの

実は前回記事よりも前に、ある記事を公開する予定があった。

「高速道路視察」に関する記事だ。

詳細は後日紹介するが、この視察を提案・実行したある国会議員は、元々積極的に現場の声を拾おうとするタイプの議員で、筆者が同氏と知り合ったのも、同氏が現場の声を知ろうとして手に取った拙著を読み、連絡くださったことがきっかけだった。

実際、昨年末大きなバスをチャーターし、関西方面から各SAPAを視察。その後、東京料金所で「深夜割」がもたらす弊害を見学。その「東京料金所」の視察には、今回会議に出席していたB氏や自動車局長、そして筆者も合流していた。

同記事を執筆すべく、議員からのコメントを待っている間、ある団体からB氏経由でその視察全体の様子を映した動画を見せてもらうことになったのだが、それを見て、唖然としてしまった。

ほとんどのサービスエリアでバスから降りることなく、ただ通り過ぎただけだったのだ。実際降りたサービスエリアでも、時間にしてわずか十数分。

これは「視察」ではなく、文字通り「通過」である。

こうしてここ数か月、これら”上”の人たちの動きを目の当たりにした結果、ある思いに達した。

”上”は、現場視察の方法を知らない。

あの先行記事を受けて、国交省が本当に「現場の状況を知りたい」とするならば、筆者に来庁を求める前に、まずは実際自ら現場に赴くのが先なのではないのか。

赤羽大臣がA氏に伝えた、「橋本さんによく聞いとけ」という言葉にも、現場を直接知ろうとせず、いくつもの「伝聞」で済まそうとする姿勢が垣間見える。

ルールを作るために日々努力していることは、話を聞いていてもよく分かる。電話口や会議においても、情熱をもって業務にあたっていることはひしひしと感じる。「ドライバーさんの労働環境をよくしていかないといけない」としていた会議での言葉に、嘘偽りはないだろう。

が、彼らは現場の「知り方」を知らない。

そんな現場の状況を知らない人たちによって作られるルールに踊らされるのは、結局現場の人間たちだ。

知ったうえで対策できないのならば仕方ない。が、これまで見る限り、”上”は「知っている」でも「知らない」でもなく、「知ろうとしない」、「『知り方』を知らない」現状にある。

あるトラックドライバーの言葉がよみがえる。

「是非、現場視察を。何なら自分のクルマの助手席に乗ってほしいくらい。ただ、お願いだから、視察には背広を着てこないでほしい」

“現場目線”。

どうか現場の声が反映される「風通しのいい国」と、それに必要な「有効なルール」を作ってほしい。そう心の底から願っている。

フリーライター

フリーライター。大阪府生まれ。元工場経営者、トラックドライバー、日本語教師。ブルーカラーの労働環境、災害対策、文化差異、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆・講演などを行っている。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)。メディア研究

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