「ものすごい疑問」女性見殺し、隠ぺいに批判集中―呆れた入管の答弁
体重が20キロも激減、吐血と嘔吐を繰り返し、まともに食事を取ることすらできない―名古屋入管に収容されていたスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさん(享年33歳)は著しい健康状態の悪化を訴えていたにもかかわらず、治療らしい治療も受けられないまま、先月、死亡した。折しも、今国会で入管法「改正」案が審議される中、この事件について、今月23日、衆院法務委員会で野党の議員達が上川陽子法務大臣と出入国在留管理庁(入管)を鋭く追及。入管の隠ぺい体質があぶり出されるかたちとなった。
○「プライバシー」を口実に隠ぺい
スリランカ人のウィシュマ・サンダマリさんは「日本の子ども達に英語を教えたい」という夢と共に、2017年に留学生として来日。だが、その後、ウィシュマさんは学費を払えなくなり、通っていた日本語学校の学籍を失ったことで在留資格も失い、昨年8月、名古屋出入国在留管理局(名古屋入管)の収容施設に収容された。収容当時、コロナ禍で母国への定期便はなく、チャーター便は高価で自力での帰国は困難だった。そのため、名古屋入管での収容は続いたが、今年1月以降、健康状態が著しく悪化。先月6日に亡くなった*。
*親日家女性の痛ましすぎる死―「日本は安全な国だと思ってた」母親らが会見で涙
https://news.yahoo.co.jp/byline/shivarei/20210419-00233451/
今月23日の衆院法務委員会では、ウィシュマさん死亡に関する入管の調査の中間報告をめぐる追及が行われた。立憲民主党の寺田学衆議院議員は、TBSの報道で報じられた、今年3月4日にウィシュマさんを診察した外部病院の精神科医が「仮放免*してあげれば良くなることが期待できる」と入管側に伝えていたことについて、入管の中間報告に記述がないことを問題視。「ものすごい疑問を持ちますよ、これ」と、なぜこの部分だけが中間報告に引用されなかったのかを問いただした。
*就労しない等の一定の条件の下、収容施設から出ることを許可されること。
これに対し、松本裕・入管庁次長は「(ウィシュマさんの)プライバシーの関係から提示するのは適切ではないと判断した」と答弁。他の医師の診察内容等は中間報告に引用されていることを寺田議員が指摘し幾度も問いただしても、あくまで「プライバシー等を考慮した」と繰り返すばかりであった。
松本次長に対し、共産党の藤野保史衆議院議員も追及。中間報告には、ウィシュマさん死亡の経緯について、国会審議や報道、在日スリランカ大使館への説明が求められていることから、プライバシーに関する情報も含め、明らかにすることが相当と記述されていると指摘。「プライバシーは全く理由にならない」(同)と、松本次長の欺瞞を喝破した。
中間報告に仮放免に関わる精神科医の意見が引用されなかったことについて、問われた上川陽子法務大臣も、寺田議員、藤野議員からの追及に、「(中間報告に)書くべきであった」と認めざるを得なかった。
○「詐病」と決めつけ入院を許さず?
また、同日午後に配信された共同通信の記事で、入管側が前述の精神科医へ送った「診察依頼書」に、ウィシュマさんの症状について「詐病の疑い」との記述があったと報じられていることを、藤野議員は追及。「入管が描いているシナリオは(ウィシュマさんが)嘘をついているということ」「そのシナリオにはまる記述のみ、中間報告に採用したのではないか」と問いただした。
TBSと共同通信の報道、寺田議員と藤野議員の追及から浮き彫りになったのは、名古屋入管は、ウィシュマさんの症状について「詐病」だと決めつけ、体調悪化にもかかわらず入院させなかったことが、彼女を死に至らしめたという重大な疑惑だ。そして、この疑惑に関する情報を、入管側は中間報告から意図的に排除している可能性があるということだ。
○死因も未だ断定できず
また、ウィシュマさんの死因についても、入管側は司法解剖の結果報告として、法務委員会の当日に議員達にA4一枚、数行の短い報告を届けた。そこには「甲状腺炎による多臓器不全が加わり死亡した」等と書かれており、それは中間報告にはないものだった。名古屋入管がウィシュマさんの症状について把握していなかったことについて、立憲民主党の池田真紀衆議院議員は「それまでの医療を見直すべきでは」と指摘。しかも、上川法相も「(甲状腺炎が死因かについて)医療の専門家の皆さんからセカンド、サード(オピニオン)も要るかも知れない」と未だ死因を断定できていない有様だ。
○都合悪い情報も全部出せ
衆院法務委員会の筆頭理事で、立憲民主党所属の階猛衆議院議員は、「こんないい加減な中間報告では、(入管法「改正」案の)審議の環境が整わない」と指摘。またウィシュマさん死亡に関する情報の中で、調査に関わる入管外の第三者に渡されていないものがあることも指摘した。その上で、「(入管の監視カメラでのウィシュマさん死亡前の)ビデオや死体検案書、診療情報提供書など都合の悪い情報も全部出すべきだ」と求めた。
難民認定申請者を強制送還できないとする難民条約や現行法上の規定に例外を設けること、送還を拒む人に対し刑事罰を加えるなど、入管法「改正」案は入管にこれまで以上に強大な権限を与える内容だ。上川法相は「人権に配慮していく」と述べているが、入管行政のあり方が根本的に変わらなければ、重大な人権侵害が行われ続けることを、ウィシュマさんの事件は、如実に表しているのだろう。遺族の求めに応じることは勿論、これ以上の犠牲者を出さないためにも、ウィシュマさん事件の徹底的な追及が必要だ。
(了)