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ウッズ父子は2位。「2つの目標達成」「グッド・スタートではなかった今年を、いい形で終えられる」

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
(写真:ロイター/アフロ)

 メジャー・チャンピオンたちが親子で競い合うPNCチャンピオンシップは、12月18日と19日の2日間、フロリダ州オーランドのリッツ・カールトンGCで開催され、勝利を掴んだのは通算27アンダーで回ったジョン・デーリー父子だった。

 今年2月に交通事故で右足に重傷を負ったタイガー・ウッズは12歳の長男チャーリーくんとともに、事故後、初めて試合に出場。

 最終日は出だしの3ホールで4つスコアを伸ばすと、7番から17番まで11連続バーディーを奪って首位に並んだが、最終ホールはパーにとどまり、デーリー父子に2打及ばず、2位に甘んじた。勝利は逃したものの、固く抱き合ったウッズ父子は笑顔を輝かせた。

「楽しかった。僕らの目標は2つあり、1つは楽しむこと、もう1つはノーボギーで回ることだった。どちらも達成できた」

 ウッズにとっては、交通事故以来、初めて公の場で挑んだ試合形式のゴルフとなり、世間では「ウッズの復帰戦」と呼ばれて、開幕前から、まるでメジャー大会のごとく大きな注目を集めていた。

 しかし、今大会はウッズ自身が試合の場に早々に復帰したくて出たわけではなく、「息子のために出た」「息子と一緒にプレーしたいから出た」と表現したほうが適切である。

 通常のツアー競技であれば、乗用カートを使用して出場することは「決してない。それは僕らしくない」と言い切るウッズだが、そう思いながらも乗用カートを利用して今大会に出たワケは、ひとえにチャーリーくんを喜ばせるため。そして、父子でゴルフを楽しみ、親と子の絆を深めるためだった。

 ウッズの右足はラウンドするたびに腫れあがり、そのたびにアイシングが求められる状況だった。プロアマ戦でも試合でも全18ホールでティショットを打つことができず、ラウンド終盤に向かうにつれて、チャーリーくん任せになってしまったウッズだが、それでも戦うことを選んだワケは、チャーリーくんの戦意や努力を損なわせたくないというウッズの親心だった。

 もしもチャーリーくんがいなかったら、ウッズが交通事故からわずか10か月後の今、無理を押して実戦に復帰することは、きっと無かったはずである。

【戦いの意義】

  昨年大会で優勝したのは、ジャスティン・トーマスと父親マイクの父子ペアだった。

 トーマスはフロリダ州ジュピターに住むウッズ家の「ご近所さん」で、大の仲良しだ。

 そして、トーマス父子は昨年のPNCチャンピオンシップで勝ち取った極太の赤いチャンピオンズベルトを、これ見よがしに腰に締めた出で立ちで昨年のウッズ家のクリスマス・パーティーに現れ、それを見たチャーリーくんの闘争心は一気にメラメラと燃え上がったそうだ。

「来年は、僕らが勝つ!」

 以後、チャーリーくんはゴルフの練習に精を出し、鍛錬と努力を続けてきた。ウッズも熱心に指導していた。

 だが、今年2月の交通事故が起こったとき、ウッズもチャーリーくんも、今年のPNCチャンピオンシップに挑むという大きな目標を諦めざるを得なくなった。

 もちろん、ウッズもチャーリーくんも、ウッズが命を取りとめ、右足があることに感謝し、立てるようになったこと、歩けるようになったこと、チップ&パットからショットへと前進していることに感謝していたが、それでもやっぱりチャーリーくんの胸の底には、PNCチャンピオンシップに今年も出たいという想いがあることを、父親ウッズは感じ取り、だからこそ、無理を押してでもエントリーしようと決めたのだろう。

 これまで受けてきた膝や腰の合計10回の手術後の復帰と比べれば、「今回の復帰は、それらとは比較にならないほど格段にハードだ」とウッズは言う。それでも頑張り、試合の場へスピード復帰できたワケは、息子チャーリーくんがいてくれるからに他ならない。

 ウッズが手にしたテーラーメイドの新ドライバーやブリヂストンの新ボールが大きな話題になり、それらをいきなり試したウッズの飛距離が320ヤード超にも達したことは、それはそれで明るいニュースだった。

 しかし、ウッズとチャーリーくんが今年のPNCチャンピオンシップに挑み、戦い抜いた最大の意義は、ウッズ父子が絆を確認し合い、深め合い、強め合い、その姿を目にした世界中の人々が親子や家族の大切さをあらためて確認できたことではないだろうか。

 そして何より、ネバー・ギブアップ――。

「今年の始まりは、決してグッド・スタートではなかったけど、今は、いい形で今年を終えることができる」

 どんなときも決して諦めず、前へ進み続けるウッズ父子の勇気と元気が、世界への温かいエールになり、最高のクリスマス・プレゼントになった。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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