夜の居場所を利用する若者たちの変化 392名への調査結果
(育て上げネット、READYFOR)夜、やれませんかね?
ひとりの職員の一言が夜の居場所を作るきっかけでした。
「夜、やれませんかね?」
若者への就労支援を行う認定特定非営利活動法人育て上げネットでは、ほとんどのプログラムが通所型対面形式でした。しかし、コロナ禍以降、若者たちのためにやれることが狭まっていくなか、電話やSNS、オンラインを活用して、非対面で若者たちとかろうじてつながっている状況でした。
ただ、少しずつ社会的にひととの交流ができるようになっていくなか、この職員が温めていたのが夜間帯に若者が集まれる居場所を作ることでした。現場の職員が聞き取った若者たちのニーズであり、切実さを感じたのでしょう。そこで2022年5月から試行的に始めたのが「夜のユースセンター(以下、夜ユース)」です。
夜ユースの開設にあたり、例えば、利用者数、相談者数、講座受講者数など目標を立てず、若者と出会い、信頼関係を作る場所と位置づけました。このような位置づけを保てるのは、寄付者によって運営させていただけているのが大きいです。
ゲーミングPCやボードゲーム、楽器などを揃え、地域の個店にお願いをしてお弁当を準備。必要な若者には持って帰れるように食糧を置きました。開設からしばらくは10名前後の若者が利用していましたが、2023年3月までの間に約1,000名の若者が夜ユースを訪れています。
みんなで語らい、ボードゲームなどに興じている若者たちもいれば、その傍らでは誰とも話さずゲームをしている若者もいます。お弁当は食べても、食べなくてもよく、ソファで横になっていたり、階段に座り込んで話していたり、利用者が30名、40名になると事務所はもう若者でいっぱいになります。
どこでもいい、家でなければ
夜ユースを開所しているなか、メディアでは「トー横」や「グリ下」と名付けられた夜の繁華街に集う若者たちの姿が流れています。夜間帯を含む若者たちの居場所の必要性が叫ばれるようになりました。
夜の繁華街にも足を運びながら、夜ユースにも来るような若者もちらほらいます。そのなかのひとり(10代)に、繁華街と夜ユースでは何が違い、どっちの方がよいのかを聴いてみたところ、以下の言葉をもらいました。
「繁華街でも、ここ(夜ユース)でも、どちらでもいい。家でなければ。」
若者たちにとっては、夜の繁華街も、NPOが作った居場所も、足を運ぶ理由になっていませんでした。その根底にあるのは、家にいられない、家にいたくない。家でなければどこでもいいというものだったのです。
夜の居場所を全国に
夜ユースの運営とは別に、育て上げネットではREADYFOR株式会社とともに休眠預金を活用して「若者の『望まない孤独』支援モデル形成事業-『時間・距離・敷居』の壁を越える-」を行いました(事業は終了)。
モデル事業として全国9都道府県・NPOなど10団体とともに夜間帯の居場所を開設し、若い世代を支援しました。その際、京都大学医学研究科社会健康医学系専攻の近藤尚己教授に、共通アンケート調査の監修を依頼しました。
実施団体ごとに異なりますが、週2日から5日程度、主に17時から22時まで開所され、利用者数は1,440名、のべ利用回数は20,120回となりました。それぞれの団体が地域性や対象となる若者たちのニーズを考えながら、夜の居場所が若者にとって安全で、安心な場になるよう、創意工夫を重ねました。
共通アンケートの実施タイミングは、①初めて活動に参加したとき(初回)、②中間、③事業終了時に依頼し、それぞれの回収数は①392名、②83名、③142名でした。対照群をおいていないため参考程度ではありますが、夜間帯の居場所における利用者の属性や利用動機、またいくつかの変化を確認することができました。
夜の居場所は、幅広い年代からの利用がありました。家庭の経済状況は、初回利用者の約6割が「答えたくない」「苦しい」「やや苦しい」と回答しています。
孤独・孤立感を聞く質問では、全国平均(令和3年度内閣府「子供・若者総合調査」)と比べて、全体的に「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」を選んでいる利用者が多く、平均の2倍から3倍となりました。利用者には孤独・孤立感を抱えた若者が少なくないことがわかりました。
過去の支援場所やサービスの利用経験については、約5割が「使ったことはない」「わからない」と回答しています。夜の居場所を通じて、これまでの行政や民間団体による支援が届かなかった若者とつながることができました。
初回利用の理由としては、「無料だから」が36%、「夜の時間に参加できるから」「安心できる居場所が欲しかったので」がともに29%でした。また、中間および事業終了時の結果を通じて、利用を継続することで、居場所に対する安心感が醸成されていくことも示唆されました。
改めて内閣府の調査と、夜の居場所利用者への調査を、孤独・孤立感の視点から全国平均比較をしてみると、特に「自分には話せる人がいないと感じる」項目で、その割合が大幅に減少し、全国平均を下回りました。結果として、無料で利用できる夜間帯の居場所は、若者の孤独・孤立感の改善に貢献し得ることがわかりました。
育て上げネットで「夜のユースセンター」を立ち上げて2年が経ちました。その間、多くのご視察もありました。若者のみならず、地域にたくさんの居場所が作られていく動きが出てきております。その一方、新たな事業としてのみ検討するのではなく、すでに存在する公共施設の時間を延長するなど、地域住民サービスのひとつとして時間や空間の拡充という方向も検討できるのではないでしょうか。
孤独・孤立感が和らぐことも大切ですが、困っている方々と公共がつながることや、自分には話せるひとがいると思えることが、地域社会にここかしこで当たり前になることを願います。