金正恩、北朝鮮版「ラブホ」を大々的に取り締まり
誰もが気軽に使えるホテルの類が存在しない北朝鮮では、市場、駅、バスターミナル周辺に住む住民が、自宅の一部を改造して営む「待機宿泊」と呼ばれる民泊が利用されている。
北朝鮮では、登録した居住地から離脱するには旅行証という国内用パスポートが必要で、宿泊先ではたとえ家族や親戚、友人宅であっても登録が必要だ。この登録を行わないため、待機宿泊は違法だ。
当局は光明星節(2月16日の故金正日総書記の生誕記念日)を控えて非常警備期間に入った7日から、待機宿泊の取り締まりに乗り出した。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
両江道(リャンガンド)の情報筋は、7日の午後8時半から各人民班(町内会)で宿泊検閲が行われたと述べた。登録なしに宿泊している者はいないかの検査を行うものだが、82連合指揮部と各地域の分駐所(交番)が抜き打ちで行った。
宿泊検閲は、金正恩総書記の生誕記念日の1月6日の前に行われたものに次ぎ、今年2回目で、表向きの目的は「反スパイ闘争」だが、実際のところは、売淫行為(性売買)の取り締まりにある。待機宿泊は「ラブホ」としても利用されているのである。
(参考記事:北朝鮮で「サウナ不倫」が流行、格差社会が浮き彫りに)
待機宿泊は、コロナ前に盛業していたが、コロナ禍で移動統制が強化されたため、姿を消していた。統制が緩和された今、またできるのを未然に防ぐために、検閲が行われたと、情報筋は説明した。
しかし、根絶は難しいだろうと情報筋は見ている。
「コロナ前にも非社会主義と売淫を助長する根源として、個人経営の宿に目をつけ、非常に強力に取り締まっていた。商売ができず、年取った人は、宿泊業以外に生計を立てる手段がないため、根絶されなかった」(情報筋)
当局は恵山周辺の待機宿泊が売春のみならず、脱北や人身売買の温床となっていると見ている。貿易都市、商業都市という性格上、流動人口が多いため、人々は見知らぬ人への警戒心が弱いためだ。
別の情報筋によると、待機宿泊は今も営業中だが、開店休業状態だという。現在、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)が冬季訓練を行っているが、その期間中に兵士には旅行証が発行されず、移動ができない。主な顧客である兵士が来ないとあっては、商売上がったりになるしかない。
儲かってもいないのに、多くの業者が摘発された。
客が道内に住む親戚であることが確認されれば無罪放免となるが、知人や他人の場合なら、罰金3000北朝鮮ウォン(約51年)の処分が下される。道外に住む者なら親戚、知人、赤の他人を問わず、旅行証を持っていても宿泊登録を行っていなければ、業者は30万北朝鮮ウォン(約5100円9の罰金刑が科される。
本来の量刑は上記の罰金に加え、労働教養隊(刑期の短い人が受刑する刑務所)3ヶ月の処分だが、初犯で今まで営業していたという確認ができないことから罰金だけで済まされた。とはいえ、この額はかなりのものだ。また、待機宿泊で売淫行為をした女性にも同様の処罰が下される。
ちなみに宿泊料金だが1泊4000北朝鮮ウォン(約68円)、食事と酒1本を付けた場合は1万5000北朝鮮ウォン(約255円)になる。
現在の北朝鮮は、市場経済化と輸入の抑制策を取っているため、中国から密輸された品物を別の地方に運ぶ拠点だった恵山から賑わいは消えているが、密輸が復活すれば人が増え、待機宿泊も自然と増えるだろう。ただ、そうなる保証はない。