【全米オープン】 コートの内と外で“らしさ”を発揮し、 尾崎、日比野、奈良が揃って初戦を突破!
○尾崎 63,67(5),7-6(5) D・ラオ(アメリカ)
○日比野 63,46,75 C・ベリス(アメリカ)
○奈良 61,62 S・ソリベストロモ(スペイン)
「ファイナルセットはかなり競ってしまったけれど、マッチポイントを5本凌いで勝てたのは、私らしい」
はにかんだ笑みを浮かべ、尾崎里紗は“グランドスラム初勝利”を振り返ります。
試合時間3時間2分。第2セットは、2-5から追い上げ逆転しながらもタイブレークの末に失い、第3セットでは4-5の相手サーブで面した5本のマッチポイント――。転倒し足をケイレンしかけながらも2本目の危機を脱し、3本目のマッチポイントは27本の長い長いラリーで凌ぎ……、その「泥臭い」展開こそが、彼女の言う「私らしいプレー」の精髄。
「プレーの質も大切ですが、前哨戦で負けが続いていた。勝利は気持ちの面でも大事だと思ったので、泥臭くやりました……今日は」
トリッキーで頭脳的なプレーを見せる予選上がりの相手から、勝利という結果をもぎ取ったその事実を、彼女は素直に喜びました。
尾崎に初白星をもたらした「私らしさ」は、この日勝利を手にした日本女子3選手に通底する、一つの命題だったかもしれません。
その真価を誰より強く噛み締めたのは、グランドスラム8度目の挑戦で、悲願の初勝利をつかんだ日比野菜緒だったでしょう。
過去のグランドスラムではことごとく、初戦でシード選手と当る「引きの強さ」を発揮してきた日比野。今回の相手もシードこそついていないものの、この1年でランキングを100位以上あげている18歳のシシ・ベリス。現在の勢いや成長速度を加味すれば、36位という紙上の数字より、実際の力が勝っているのは間違いないでしょう。
しかし試合に挑む日比野にとり、相手が誰であるかは、さして大きな意味を持たなかったようです。コートに向かう彼女が胸に期したのは、あくまで「自分のテニスに徹する」こと。
「自分のプレーを最後までやりきりなさいというのは、(コーチの竹内)映ニさんから、うるさいと言いたくなるくらいしつこく言われていて……」
深い信頼関係を感じさせる諧謔的な言い回しで、日比野がコーチの言葉を明かしました。その助言どおりベリス戦では、相手のサービングフォーザマッチまで追い詰められても、「ダメだと思う瞬間が無かった」と言います。改善に取り組んできたリターンとサービスを信じて剣ヶ峰で追いつき、最後は強烈なリターンを叩き込んで手にした勝利――。それは2人で歩んできた道の、正しさの証明でもあったでしょう。
なお試合後に竹内コーチに勝因を伺うと、「今日のテーマは、水です」と禅問答的な言葉を残してニヤリ。
その言葉の意味するところを、日比野が以下のように述懐します。
「水は、そのままで美味しい。わたしのテニスは上達しているのだから、今の自分の持てる力を出せれば必ず勝てる。『菜緒は、そのままで良いんだよ』……そう言われた気がして、力が出せました」
それら日比野と尾崎の若い2人が勝利を手にした良い流れを、ピシリとしめたのは先輩格の奈良くるみです。
対戦相手はスピンをかけた重いフォアを多用しますが、奈良はそれを「自分がボールを打つ時間的余裕が持てる」とプラスに捕らえました。コート内に踏み込み、早いタイミングでボールを捕らえては左右に散らし、「攻め急がず、狙えるボールを絞って」打つことでゲームを支配。 相手の時間を奪う“奈良らしいテニス”で、1時間1分のスピード勝利を手にしました。
その奈良、この日の試合前に自分のロッカーに行くと、そこにはキットカットが挟んであったと言います。それは「きっと勝つ」のゲンを込めた、日比野からのプレゼント。そのお礼に奈良が日比野のロッカーに返したのは、「祝 初勝利」と祝辞を書いたバナナ……。
このようにオフコートでもそれぞれの「らしさ」を発揮しているのも、勝利を呼び寄せた要因なのかもしれません。
※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookより転載