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日中会談を中国はどう扱ったのか?

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

11月1日にソウルで行われた日中首脳会談を、中国はどういう形で報道したのか?それを正確に考察することによって、日本の今後の対中政策に関して心得ておくべきことが見えてくることを期待する。

◆日中首脳会談が行われた夜のニュース

11月1日夜7時(日本時間夜8時)、中国の中央テレビ局CCTVは、その日の午後に開催された日中首脳会談に関して、ただのひとことも触れなかった。まるで、何も起きなかったかのような扱いだ。

この時間帯のニュースは、一日で最も大きな位置づけがなされており、全国一律にCCTVのニュースを報道しなければならないことになっている。そのため「新聞聯播」という名前が付いているくらいだ。では、「新聞聯播」で何を報道したかを簡単に触れたい。

1. まず冒頭に報道されたのは、李克強首相が韓国の鄭義和(チョン・ウィファ)韓国国会議長と会談したことだった。李克強首相は、「中韓両国政府が、国政運営や経済発展、国民生活の改善など各分野での交流と協力を強化し、同時に年内に中韓自由貿易協定FTAの国内での立法化を目指す意向を示した」と報道した。それ以外は昨日の本コラム<日中韓首脳会談――中国こそ「歴史直視」を>でも触れた韓国の企業家による歓迎レセプションと李克強首相のスピーチ、そしてソウルで開催された「中国観光年」の閉幕式と、来年、北京で開催する「韓国観光年」への期待などが報道された。

2. 8時10分頃からは五中全会の公報に移り、来年3月から始まる中国の第13次五カ年計画の中のイノベーション(創新)に関する報道をした。

3. 8時18分あたりからは、中国の刑法第9次改正案に関する細かな報道をした。替え玉受験が刑法処罰対象になることなどが解説された。

おおむね、このような感じで、後は地方ニュースと天気予報に映り、「新聞聯報」は終わった。つまり、最後まで、李克強首相と安倍首相との会談は、報道されなかったということである。日中韓首脳会談と中韓首脳会談に関しては、10月31日にすでに報道している。

2.ネット報道では

11月1日のニュースとして中国大陸のネットで大きく扱われたのは、やはり韓国の国会議長との会見だった。中国政府の通信社・新華社の日本語版ウェブサイトがあるので、写真だけではあるが、「李克強総理は鄭義和韓国国会議長と会見」をご覧いただきたい。写真は全部で6枚ある。パククネ大統領との会見同様、李克強首相はにこやかな笑みを浮かべている。

安倍首相と李克強との日中首脳会談に関しての写真と見比べて頂こうか。全部で9枚あるので、李克強首相の表情に注目しながら見ていただきたい。写真の下に書いてある「下一頁」は「次の頁」という意味である。

◆新華社の論評

安倍首相が李克強首相と会見したことに関して、新華社が発した原稿が、中国大陸のすべての情報として使われている。主として李克強首相が安倍首相に言ったとされる内容が中心だ。

その一つが新浪(sina.com)ニュースに出ているので、以下、要約してご紹介する。

李克強首相が安倍首相に言った言葉:

1. 中日両国が正常な発展の道に戻るには、なお解決しなければならない敏感な問題が多く、道は遠い。

2. 中日両国はアジアと世界に重要な影響をもたらす国家だ。しかし過去数年にわたる回り道の原因がどこにあるかは、日本自身がよく分かっているだろう。この教訓を総括しなければならない。

3. 中国は日本に「中日、四つの政治原則」を守るように言ってきた。大局を見失わないようにしてほしい。(筆者注:「四つの政治原則」とは1972年、1978年、1998年および2008年に発表した日中共同声明のこと)

4. 歴史を鑑(かがみ)として、未来に向かって戦略的互恵関係を推進すべきだ。

5. 敏感な問題に対して適切に管理善処しなければならない。歴史問題は日中関係の基礎で、13億人民の感情と関係している。日本側が十分にこの敏感性を認識し、こんにちまでに承諾してきたことを順守し、歴史を正視し、歴史を反省し、責任ある姿勢で関連問題を処理してほしい。

6. 互いの信頼関係を培い、互いに威嚇を行なわず、平和発展の道を歩んでほしい。軍事的な安全保障の領域において、アジアの隣国との関係を配慮し、地域の平和に貢献する道を歩むべきだ。

7. 実務的交流を深めたい。中日はそれぞれ世界第二および第三の経済大国だ。経済的には協力すべきだ。

これに対して安倍首相が次のように回答したと、新華社は続ける。

一、日中両国は地域と世界の平和安定および世界経済の発展に責任がある。私は喜んで必ず「日中、四つの政治原則」を順守し、戦略的な中日互恵関係に沿って日中関係を改善し発展させていきたい。

二、日本は第二次世界大戦への深い反省のもとに、平和発展への道を歩む覚悟で、断固、「専守防衛」という政策を守っていく。

三、中国の経済発展は世界が注目しているが、それは日本の経済発展にとっても重要である。日本は両国が金融や節エネ、環境問題などの領域で協力できることを根が言っている。日本は日中韓の経済一体化を願っており、中国とともに一日も早い三か国のハイレベル自由貿易協定の成立を願っている。

概略ではあるが、おおむね以上だ。

安倍首相の言葉が、中国流に焼き直されているのではないかと思うが、これは日本政府の公式見解を待つしかない。特に「二」に関して、こういう表現をしたのか否か、後日、チェックしたい。

安倍首相が言ったとされる、歴史認識や南シナ海問題に関する日本の主張に関しては「互いに公表しない」と約束したということだ。それは中国にとって、都合の悪い事実だったのであろうと想像される。日本政府も約束を守って公表しないだろうから、こうした全体の流れから、真相を推測する以外にない。そのために、周辺情報の第二弾をご紹介した。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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