ピッチコムを上手に使ってプレイオフに勝利。ピッチコムは投手と捕手のサイン交換だけの機器ではない
プレイオフのワイルドカード・シリーズ第2戦。
4回裏にミネソタ・ツインズのカルロス・コレラが、トロント・ブルージェイズの菊池雄星から適時打を放って1点を先制。なおも無死満塁と大量得点のチャンスを迎えていた。だが、この場面で代打として打席に立ったウィリ・カストロは菊池が投じたチェンジアップを引っ掛け、ショートゴロのダブルプレー。併殺打の間に三塁ランナーが生還して2点目を入れたが、菊池は次打者のライアン・ジェファーズもショートゴロに打ち取り、ピンチを切り抜けた。
そのすぐ後、ブルージェイズは5回表の攻撃で、2死ながら走者2、3塁のチャンスを迎える。巧打の4番打者、ボー・ビシェットが打席に入り、ヒットが出れば試合は同点となる。
この場面で、ツインズの投手・ソニー・グレイは、二塁のベースカバーに入った遊撃手・コレラに牽制球を投げて、二塁走者のブラディミール・ゲレーロ・ジュニアをアウトにして、無失点でピンチを切り抜けた。
5回表を無失点で抑えたツインズは、2対0でこの試合を勝利。この牽制が勝者と敗者を分けたキー・プレーだった。
試合後にこの場面を振り返ったグレーは、「1回が終わってベンチに戻ってきたときに、カルロス・コレラが『三塁コーチが「バック!」と叫んでも、(ファンの歓声がうるさいので)走者には聞こえてない』と言ってきた。『牽制で二塁走者を刺すチャンスが来るぞ』とね。で、5回2死フルカウントでのあの場面だ。ピッチコムから『二塁で刺せる』と聞こえてきたので、二塁に牽制球を投げた」とピッチコムを使ったプレーだったと打ち明けた。
ピッチコムとは?
ピッチコムは2022年からMLBに導入された新しい電気機器で、主に投手と捕手のサイン交換のために使われる。
発信機にはボタンが9つ付いており、ボタンを短く押して球種を選んだ後に、ボタンを長押ししてコースを選ぶ。
帽子の中に入れるタイプの受信機にはスピーカーが付いていて、音声で球種とコースを教えてくれる。
15秒(走者がいるときは20秒)以内に投球しないとならないピッチクロックが導入された今季からは、捕手だけでなく、投手も発信機を持つことができ、投手が球種とコースを選ぶことができる。
発信機は2台(投手と捕手)、受信機は5台までフィールド上で使用可能で、受信機は投手、捕手、二塁手、遊撃手、中堅手のセンターラインを守る選手が着けるケースが多い。ベンチなどフィールドの外から発信機を使用することは禁じられている。また、受信機は英語だけでなく、スペイン語や日本語などの多言語に対応しており、装着する選手がそれぞれ好きな言語を選ぶことができる。
サイン交換以外の使用方法
今回のツインズのケースでは、あらかじめピッチコムに「二塁で刺せる」と二塁に牽制を投げる指示をプログラムしていた。
牽制の指示をプログラムするのはツインズだけでなく、多くのチームが導入しており、昨年6月にヤンキー・スタジアムで行われた試合で大谷翔平が一塁で牽制死したときも、ピッチコムからの指示だった。
ピッチコムは9x9の81通りの指示が出せるので、各チームは趣向を凝らした使い方をしている。