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ブルース・ロックの血が駆け巡るギター・スリンガー。ランス・ロペスが新作アルバムで蘇る

山崎智之音楽ライター
Lance Lopez / courtesy Cleopatra Records

現代ブルース・ロック界をリードするギタリスト/ソングライター、ランス・ロペスがニュー・アルバム『Trouble Is Good』を海外で発表した。

30年を超えるキャリアを誇る百戦錬磨のランスだが、その切れ味鋭いギターのエッジは新作でも研ぎ澄まされている。オールド・ファンなら待ってました!と手を打って喜ぶだろうし、初めて彼の音に触れるリスナーならこんな凄いヤツがいたのか!と驚くだろう。

さらにランスが際立っているのは、その多彩なアプローチだ。ルイジアナに生まれ、テキサスやフロリダで育った彼にはアメリカ各地のブルースが染み込んでいる。彼はまた数々の伝説的ブルースメンからその精神を伝承、ロックも吸収しながら同世代の仲間たちとその影響を分かち合い、それを後続のミュージシャンに伝えてきた。

ランス・ロペスを聴くことで、ブルース・ロックが経てきた道と、これから向かう道が見えてくる。彼の談話に耳を傾けてみよう。

Lance Lopez『Trouble Is Good』ジャケット(Cleopatra Records/現在発売中)
Lance Lopez『Trouble Is Good』ジャケット(Cleopatra Records/現在発売中)

<トラブルは悪いことばかりではない。立ち向かうことで強くなることが出来る>

●新作『Trouble Is Good』は世界中のファン待望のニュー・アルバムですね。

有り難う。まず第一に俺はブルース・ギタリストであり、ブルース・シンガーなんだ。テキサスやシカゴ、ニューオリンズでプレイしてきて、ブルースの血が全身を流れている。ただ、コロナ禍の最中にアルバムを作ったことで、さまざまなチャレンジをすることになった。体調が良くない時期もあって、ツアーを出来なかったりしたけど、そのおかげで腰を落ち着けてアルバム作りに取り組むことが出来た。それでタイトルを『Trouble Is Good』としたんだ。トラブルは悪いことばかりではない。立ち向かうことで我々は強くなることが出来る。そんなポジティヴなメッセージを伝えたかった。プロデューサーでソングライティング・パートナーのジョーイ・サイクスとピッタリ呼吸が合って、良いアルバムになったよ。

●アルバムの音楽性はどんなものですか?

俺が愛するブルースやロックの影響はもちろん、あらゆる要素を込めているよ。ヘヴィなブルース・ロックもあるし、「Voyager」みたいなコズミックでプログレッシヴな曲もある。「Jam With Me」ではグレッグ・ビソネットが強烈なドラムスを聴かせているし、「Uncivil War」はアルバムを作ったときの世界情勢を描いている。ただ、根底にはブルースのスピリットがある。決してトラディショナルなブルース・アルバムではないかも知れないけど、全編ブルースの精神を込めた作品だよ。

●『Trouble Is Good』は5年ぶりのニュー・アルバムですが、前作を発表してからどんな活動をしてきたのですか?

『Tell The Truth』(2018)が出てからツアーをして、それから自分の進むべき道を考えるためしばらく活動を休んでいたんだ。ちょっとした健康の問題もあった。鎮痛剤の副作用でね。腰痛が酷かったんだ。それに追い打ちをかけるようにコロナに2回感染した。しっかりワクチン接種していたのにね(溜息)。活動を再開しようというときにコロナ禍が起こったんで、ナッシュヴィルの自宅で曲を書き始めたんだ。それでロサンゼルスにいる共作者のジョーイ・サイクスとトラックをやり取りして、アルバムを作っていった。去年(2022年)の東海岸ツアーでは出発する直前、体調が悪くなったんだ。主治医からドクターストップがかかった。でも徐々に体調も良くなってきたし、今ではベスト・コンディションだ。ナッシュヴィルでは健康管理をしてくれるチームがいるし、テネシーやカリフォルニアでライヴを再開しているよ。“ジ・アンダードッグ”や“ロードサイド”のようなナッシュヴィルのクラブはもう“庭”なんだ。ニュー・アルバムに合わせてもっと広範囲でライヴをやって、世界中のお客さんの前で演奏したいね。

●日本初インタビューということで、あなたのブルースの原点を教えて下さい。

生まれてからブルースにどっぷり浸かってきたんだ。1977年、ルイジアナ州シュリーヴポートに生まれて、テキサス州ダラスとルイジアナ州ニューオリンズに育ったんだからね。初めてブルースに触れたのはルイジアナの幼年時代、父親が運転する自動車に乗っていて、赤信号で止まったとき、家の前でアコースティック・ギターを弾く老人を見たときだった。「あれは何?」と訊いて、ブルースという音楽だと教えてもらったんだ。それからテキサスに引っ越して、ブルースやR&Bを積極的に聴くようになった。あらゆる音楽を吸収して、ギターを独学で始めて、今の俺のスタイルが形成された。それが俺の原点だ。

●1977年生まれということは、MTVを見て育った世代でしょうか?

その通り、スティーヴィ・レイ・ヴォーンのミュージック・ビデオを見たのを覚えているよ。自分がライヴをやるようになったのは1990年代初めだった。メタリカの『ブラック・アルバム』がリリースされて、グランジが始まって...ニルヴァーナやパール・ジャムが大人気だった頃だ。まだロックがメインストリームだった時代だよ。俺は学校の仲間たちとカヴァー・バンドをやっていたけど、それと並行して、そのルーツに惹かれるようになったんだ。ミーターズやネヴィル・ブラザース、プロフェッサー・ロングヘア、アラン・トゥーサン、ドクター・ジョン...俺はニューオリンズ・ミュージックを生で体感した最後の世代だと思う。その後フレンチ・クォーターは観光地化して、トップ40ヒットのカヴァー・バンドやカラオケ・バーが主流になっていった。フランス系の人々が住む郊外のメテリーという地域では伝統的なニューオリンズ・ミュージックが演奏され続けているけどね。俺も若手時代、ブルースやファンク、R&Bのライヴをやっていた。オールナイトで、一晩3回のショーだったよ。帰宅して2時間ぐらい寝てから学校に行って、放課後また酒場やライヴでライヴをやって...それがキャリアの始まりだったんだ。

●あなたのライヴ告知ポスターに“タフなテキサス・ギター・スリンガー”とあるのを見ましたが、それはどの程度正確な表現でしょうか?

うーん、俺のスタイルにはテキサス・ブルースの要素があるけど、それは全体の一部に過ぎない。ロックもあればソウルやR&B、シカゴ・ブルースからの影響もあるから、正確とは言えないな。そういうポスターのキャッチフレーズはバンドでなく。プロモーターだったりエージェントが付けるんだよ(苦笑)。

Lance Lopez / courtesy Cleopatra Records
Lance Lopez / courtesy Cleopatra Records

<ロック・ギタリストからの影響とブルース・R&Bが一体化したのが俺のスタイル>

●あなたの音楽とギターはトラディショナルなブルースやR&Bに加えてロックのエッジも感じられますが、ロックの要素はどこから来たのでしょうか?

俺は1980年代に育ったんだ。TVシリーズ『ストレンジャー・シングス』の少年たちと同世代だよ(笑)。当時はいろんなアリーナ・ロック・バンドがいた。俺が育ったルイジアナ州シュリーヴポートには“ハーシュ・メモリアル・コリシアム”があって、ヴァン・ヘイレンやAC/DC、KISSのライヴを見ることが出来た。ジューダス・プリースト、モトリー・クルー、ホワイトスネイクとかね。自宅の寝室で彼らのステージ・アクションを真似したものだ。みんなエディ・ヴァン・ヘイレンやイングヴェイ・マルムスティーン、スティーヴ・ヴァイみたいなギター・ヒーローに夢中で、俺自身もそうだったけど、それより前の世代の音楽にも遡っていった。レスリー・ウェスト、ジミー・ペイジ、アルヴィン・リー、エリック・クラプトン、ジェフ・ベック、そしてもちろんジミ・ヘンドリックスね。ジミを初めて聴いたとき、すべてが吹き飛んでしまったよ。1980年代、最も多くの回数ライヴで見たことがあるギタリストはアンガス・ヤングとエディ・ヴァン・ヘイレンだった。そんなロック・ギタリスト達からの影響とブルースやR&Bが一体化したのが俺のスタイルなんだ。

●2023年にブルースの“新曲”を書くのは、どんな行為でしょうか?既に100年以上の歴史があって、まだ歌われていないこと、プレイされていないことは少ないし、困難を伴うのではないですか?

確かにブルースは過去100年にわたって喜びと悲しみ、出会いと別れなど普遍的なテーマを歌ってきた。でもそれは同時に、パーソナルな題材でもある。いつの時代であっても生きていれば、その瞬間ならではのブルースを感じるものだ。 さらに他のソングライターと共作することで、新鮮な化学反応が生まれる。決して古びたり陳腐になってしまうことがないんだよ。

●ブルース/ブルース・ロックを基調としながら、ラスト「Voyager」はサイケデリックでプログレッシヴな曲調で異彩を放っています。この曲はどのようなところからインスピレーションを得たのですか?

ナッシュヴィルに引っ越してきてから精神世界に関する本を読んできたし、物語を描きたかった。自分を導いてくれる存在...守護天使かも知れないし、神かも知れない。さまざまなものから触発を受けたんだ。最初の“夜明け”のパートは旅の始まりで、俺がウード、レーナード・スキナードのピーター・キーズがシンセサイザーを弾いている。本編の「Voyager」ではボビー・ロンディネリがドラムスを叩いているんだ。彼はレインボーでコージー・パウエルの後任を務めて、ブラック・サバスやブルー・オイスター・カルトにもいたことがある。そんなダイナミックな要素を取り入れたかったんだ。さらにブルー・オイスター・カルトのダニー・ミランダがベースを弾いている。ギター・ソロではマイケル・ランダウ・モデルのストラトキャスターを弾いたけど、リッチー・ブラックモアを意識したソロなんだ。レインボーへの一種のトリビュートだよ。ロニー・ジェイムズ・ディオに歌ってもらえないのが残念だ。そして最後のセクションはほとんどジェフ・ベックへのトリビュートだった。自分のキャリアにおいて最大のチャレンジのひとつだよ。

●あなたは“グルーヴヤード”や“クレオパトラ・ブルース”などのレーベルから作品を発表し、ウェス・ジーンズやアリー・ヴェナブルをプロデュース、逆にエリック・ゲイルズがあなたの『Wall Of Soul』(2003)をプロデュースしたり、オールスター・プロジェクト“スーパーソニック・ブルース・マシーン”にも参加するなど、一大ブルース・コミュニティを形成してきました。あなたはコミュニティとどのように関わっていますか?

彼らとは何年も前から友達だし、お互いのレコーディングに参加したり、一緒にツアーしたりしてきた。お互いを高め合うライバル関係なんだ。エゴはないし、相手を陥れようとはしない。ポジティヴな方向に向かっているよ。特にエリックやウェスは何十年も前、プロになる前からの友達だ。エリックとは一緒に世界各地をツアーしたこともある。旅の仲間だよ。ウェスはあまりツアーに出ないけど、地元テキサスで頻繁にライヴをやっている。2023年9月30日、ルイジアナ州シュリーヴポートで行われる“レッド・リヴァー・レヴェル・ミュージック・フェスティバル”にはエリック、ウェス、俺が出演するんだ。盛大なジャムをやるつもりだよ。楽しみだね!

●近年クリストーン“キングフィッシュ”イングラム、マーカス・キング、ゲイリー・クラーク・ジュニアなど新しいブルース・スターが登場してきましたが、あなたはブルース界の現状をどう見ていますか?

すごく良い状態だと思う。Instagramなんかで見ると、毎日のように若いブルース・ギタリストが自分の演奏を発表している。名前すら知らないけど、すごい腕前の若者がスマホに向かってプレイしているのに驚かされるよ。しかもどんどん低年齢化しているんだ。

スティーヴ・ルカサーが言っていたけど、いずれ お母さんのお腹の中でギターを始める子供も現れるだろう(笑)。B.B.キングやジョニー・ウィンターが俺たちの世代にバトンを渡してくれたように、俺たちもいずれ誰かにバトンを渡すことになる。まだ音楽を楽しんでいるし、しばらく止める気はないけどね。それよりも若いミュージシャン達とジャムをして、彼らからいろんなものを吸収したい。俺たちはみんなブルースを愛しているし、ブルースの火を絶やさないようにしているんだ。

●我々が注目すべき新世代ブルース・アーティストはいますか?

直接知っているしヒイキ目もあるんだろうけど、アリー・ヴェナブルは素晴らしい。それから俺のショーで何度かオープニング・アクトを務めてくれるショー・デイヴィスも良い。彼はきっとブルース界で知られるようになるギタリストだよ。シュガーレイ・レイフォードのバンドでギターを弾いているダニー・アヴィラも凄腕だ。彼は俺がカリフォルニアでライヴをやるときバンドでベースを弾いている。みんな2030年代、2040年代のブルースを担っていく才能に溢れているよ。

●どんなギターを弾いていますか?

ギブソンのカスタム・ショップの“メイド・トゥ・メジャー”というセミ・オーダーで作ってもらったファイアバードとレスポール2本、それからエクスプローラーを弾いているよ。ストックのファイアバードはネックが細いからレスポールのネックを付けたりしているし、メインのレスポールはビリー・ギボンズの“パーリー・ゲイツ”とジミー・ペイジの“#1”のスペックを合体させた感じだ。“ザ・クリーパー”というニックネームを付けている。スタジオでもステージでも最高の音が出る、頼りになるギターなんだ。

●ぜひそれらのギターを持って、日本のステージも立って下さい。

うん、ぜひ日本に招いて欲しいね!日本の音楽ファンは俺のブルース&ロックをハートで感じ取ってくれると信じている。いつかプレイするのが夢なんだ。

【新作アルバム】

ランス・ロペス

『Trouble Is Good』

Cleopatra Records

Bandcamp: https://cleopatrarecords.bandcamp.com/album/trouble-is-good

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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