日本でも「夫婦別姓」の時があった!~選択的夫婦別姓制度を考えるヒント
内閣府は今月2月10日に「家族の法制に関する世論調査」の結果を発表しました。
この中で、選択的夫婦別姓制度の導入に向けて民法を改正すべきかを問うと「改めて(改正して)も構わない」とする賛成派が過去最高の42.5%を記録しました。詳しくは「選択的夫婦別姓制度に賛成?反対?~賛成が過去最高42%」をご覧ください。
この調査で、改めて選択的夫婦別姓制度の関心の高さが明らかになりました。
そこで、私が選択的夫婦別姓制度について調べたところ、興味深いことを見つけたのでご紹介したいと思います。
実は、過去日本で「夫婦別姓制度」を採用したときがあったのです。以下に日本の「姓の制度の変遷」をご紹介します。選択的夫婦別姓制度を考える上でご参考にしてください。
●徳川時代
江戸時代は、一般に、農民・町民には苗字(姓)の使用は許されませんでした。
●平民に姓の使用が許される
明治3年(1870年)9月の太政官布告(注)によって、一般に平民に姓の使用が許されるようになりました。
(注)太政官布告:明治時代初期に最高官庁として設置された太政官によって公布された法令の形式のこと。
●姓の使用が義務化される
明治8年(1875年)2月の太政官布告によって姓の使用が義務化されました。これは、兵籍取調べの必要上、軍から要求されたものといわれています。
ちなみに、明治6年(1873年)1月に国民の義務として国民皆兵を目指す「徴兵令」が施行されています。そして、明治10年(1877年)に、西郷隆盛を盟主とした西南戦争が勃発しています。
●夫婦別姓~妻は結婚しても姓は変わらず!
明治9年(1876年)3月の太政官指令によって、妻の氏は「所生ノ氏」(実家の氏)を用いることとされました。つまり、妻は結婚しても姓は変わらなかったのです。
明治政府は、妻の姓に関して実家の氏を名乗らせることとし、「夫婦別姓」を国民すべてに適用することとしました。しかし、上記指令にもかかわらず、妻が夫の姓を称することが慣習化していったといわれています。
思うに、当時は男性社会でした。そのため、結婚していっしょに暮らす夫婦の姓が異なることに違和感を覚えた者が多かったからではないでしょうか。
●「夫婦同姓」のはじまり
今を去ること120年前の明治31年(1898年)6月に民法(旧法)が成立します。
そこでは、夫婦は、「家」を同じくすることにより,同じ姓を称することとされました(夫婦同姓制)。
旧民法は「家」の制度を導入し、夫婦の姓について現行の民法とは違い直接規定を置くことはしませんでした。夫婦ともに「家」の氏を称することを通じて同姓になるという考え方を採用したのです(旧民法788条1項)。
(婚姻ノ効力)
旧民法788条1項
妻ハ婚姻ニ因リテ夫ノ家ニ入ル
結婚式で「山田家」「田中家」といった具合に「家」の概念を持ち込むのは、この旧民法の名残とも考えられます。結婚式の祝辞でも「両家の皆さまおめでとうございます」とよく言いますね。
このように、原則的に妻は結婚すると夫の姓になることになりました。しかし、例外的に結婚しても妻が姓を変えなくてもよいケースが2つありました(旧民法788条2項)。
旧民法788条2項
入夫及ヒ壻養子ハ妻ノ家ニ入ル
「入夫」(にゅうふ)とは、夫が女戸主の妻と婚姻することをいいます(戸主は原則長男とされていました)。その場合は、夫がその家に入ることになるため女性は姓を変えることはありませんでした。
また、「壻(婿)養子」(むこようし)とは、結婚と同時に夫が「妻の親」と養子縁組することをいいます。よく、妻の姓を選択すると「婿に入ったの?」と聞かれるのは、この婿養子が背景にあると考えられます。
●「選択式夫婦同姓」の開始意
戦後の昭和22年(1947年)に改正民法が成立して現在の「夫婦同姓制」となりました(民法750条)。今から約70年前のことです。
(夫婦の氏)
民法750条
夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。
改正民法は、旧民法以来の夫婦同姓制の原則を維持しました。しかし、憲法14条が掲げる男女平等の理念に沿って、夫婦は、その合意により、夫又は妻の「いずれかの姓」を称することができるとしましました(以上参考、法務省ホームページ)。
いかがでしょうか。姓の制度は時代背景によって変遷してきたことがお分かりいただけたと思います。
現在議論が活発になっている選択的夫婦別姓制度も「女性の社会進出」という時代背景を考えれば自然の流れと捉えることができます。
一方、ご覧いただいたように夫婦同姓は長い歴史があります。そのため、選択的夫婦別姓制度の導入は、婚姻制度や家族の在り方など国民生活及び国民の文化と密接に関係する重要な問題です。
時代背景と国民生活・文化の調和が、選択的夫婦別姓制度を考える上のカギの一つとなるのではないでしょうか。