意外と知られていない「肋骨は何本ある?」「打撲していないのに肋骨になぜヒビが?」
さて、みなさんは肋骨が何本あるかご存知でしょうか。意外と即答できない人が多いと思います。近年、肋骨にヒビが入ったとおっしゃる患者さんが増えていますが、この理由と対策について解説したいと思います。
肋骨は何本?
「1、2、サンマの尻尾、ゴリラの息子・・・」という数え歌があります。私の幼少期は「ゴリラの肋骨」だったせいか、私が生まれ育った地域では、肋骨が6本と勘違いしている子どもが多かったです。
さて、人間の肋骨は左右にそれぞれ12本ずつ、合計24本あります。男女とも同じ本数です。背骨の左右から生えていて、グルっと回って胸の前のほうまで回り込んでいます(図1)。チクワのような骨が上から順番に合計12対あるというわけです。
肋骨は外部からの衝撃を緩和するための役割もありますが、複雑な動きをすることで呼吸筋群とともに呼吸運動を補助する役割があります。
折れやすい肋骨
外部からの衝撃を緩和する矢面に立っているため、肋骨は骨折しやすい骨として知られています。
格闘漫画で、胸部を強く殴打され「グハッ!あばらを3本もっていかれたぜ!」みたいなセリフを聞いたことがあるかもしれません。医学界では「あばら」は死語ですが、肋骨のことを指します。
打撲していないにもかかわらず、肋骨は疲労骨折することがあります。ゴルフやボートといった腕を使うスポーツだけでなく、マラソンでさえ折れることがあります(1)。中には、咳やくしゃみだけでも肋骨骨折してしまう患者さんもいます(2)。個人的には、ハバネロが入った液体を飲んで激しくムセ込み、肋骨骨折した患者さんを診たことがあります。
肋骨は女性の場合40代後半以降、男性の場合50代以降で骨折リスクが高くなります(3)。女性の場合、閉経して女性ホルモンが減少するタイミングが要注意です。気になる方は、人間ドックなどで一度骨密度を測定してもよいかもしれません。
肋骨の「ヒビ」は診断困難
「テーブルの角に胸をぶつけた」などのピンポイントの受傷でなければ、通常2~3本まとめて骨折することが多いです(4)。
明らかにボッキリ折れているものでない限り、胸部単純X線写真における肋骨骨折の発見は容易ではありません。一方、胸部CT検査であれば、肋骨を1本1本確認することで、ヒビが入っているかどうか判断できます(図2)。
肋骨骨折の治療
よほど大きく骨がずれていない場合、ヒビが入った程度なら特別な治療は不要です。完治までに1か月くらいかかるので、無理な運動は控えていただき、痛みがある場合は鎮痛薬を飲みます。
バストバンドといって痛みをおさえるためにコルセットのようなものを胸の周りに巻くことがあります。しかし、胸の動きが制限されて、呼吸がしんどくなったり肺炎を起こしたりすることもあるので(5)、必要の有無については主治医に確認しましょう。
折れた肋骨によって肺が傷ついている「血胸」や「気胸」の場合、「胸腔ドレナージ」という管を胸に挿入する処置をおこなうことがあります。疲労骨折でそのような事態になることはなく、交通事故や転落事故といった激しい外傷以外でしか私も目にしたことがありません。
疲労骨折を予防するためには
日本の骨粗しょう症の患者さんは1,300万人を超えるといわれています。外来でも肋骨の疲労骨折を診療する頻度が高くなってきました。
個人的な経験上、運動している割に筋肉がつかないやせ型の人に、肋骨の疲労骨折が多いように感じます。無理な運動でやせようとする場合、リスクが高くなるので注意です。
慣れない運動負荷を急激にかけることで、筋にかかる力価のバランスが不均一になり、肋骨への負担が大きくなります。そのため、運動前後や日頃からのストレッチで柔軟性を養っておくこと、日常生活の中で身体をよく動かしておくことも有効な予防策になります。
(参考)
(1) 内山英司. 臨床スポーツ医学. 2003; 20: 92-8.
(2) De Maeseneer M, et al. Am J Emerg Med. 2000; 18(2): 194-7.
(3) 石成泰隆, 他. 自動車技術会論文集. 2022; 53(6): 1081-7.
(4) 福井哲矢, 他. 日呼外会誌. 2020; 34(6): 572-7.
(5) Lazcano A, et al. Am J Emerg Med. 1989; 7: 97-100.