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アトピー性皮膚炎患者の3人に1人がアルコール依存症のリスクあり - 英国の研究結果を紹介

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:アフロ)

【炎症性皮膚疾患とアルコール依存症の関連性】

今回は少し古いですが、2017年の研究論文を紹介します。英国のニューカッスル大学を中心とした研究チームが、炎症性皮膚疾患患者とアルコール依存症の関連性について調査を行いました。その結果、アトピー性皮膚炎患者の33.3%、乾癬患者の30.6%にアルコール依存症の可能性があることが明らかになりました。これは、対照群である非炎症性皮膚疾患患者の14.3%と比べて非常に高い数値です。

アルコール依存症の有無は、世界保健機関(WHO)が開発したAUDIT(Alcohol Use Disorders Identification Test)というスクリーニングテストを用いて評価されました。AUDITは、過去1年間のアルコール消費量や頻度、アルコールに関連する問題などについて10項目の質問で構成されており、8点以上でアルコール依存症の可能性があるとされています。

乾癬とアルコールの関連性についてはこれまでも多くの報告がありましたが、アトピー性皮膚炎については十分な研究がなされていませんでした。今回の結果は、アトピー性皮膚炎患者に対してもアルコール消費について注意を払う必要があることを示唆しています。特に、全身性の免疫抑制剤を使用する場合には、アルコールによる副作用のリスクを考慮する必要があるでしょう。

【皮膚疾患がQOLに与える影響とアルコール依存症】

慢性の炎症性皮膚疾患は、患者のQOL(生活の質)に大きな影響を与えることが知られています。今回の研究でも、炎症性皮膚疾患患者は対照群と比べて、皮膚疾患がQOLに与える影響を測る指標であるDLQI(Dermatology Life Quality Index)のスコアが高いことが示されました。

特にアトピー性皮膚炎患者では、43.7%がDLQIスコア11点以上の「QOLへの深刻な影響あり」に該当しました。乾癬患者でも31.1%が同基準に該当しています。慢性のかゆみや見た目の変化は、患者の心理面に大きな影響を与えます。睡眠障害や仕事のパフォーマンス低下、社会生活の制限など、多方面に影響が及ぶことが知られています。

アルコール依存症は、このようなQOLの低下と関連している可能性があります。皮膚疾患による心理的ストレスが引き金となって、アルコールに頼ってしまう患者もいるかもしれません。逆に、アルコールの過剰摂取が皮膚の炎症を悪化させ、QOLをさらに低下させる悪循環に陥る可能性もあります。

【アルコールが皮膚に与える影響と今後の課題】

アルコールは炎症性サイトカインの産生を促進し、リンパ球の活性化や角質細胞の増殖を引き起こすことが知られています。つまり、アルコールが直接的に皮膚の炎症を悪化させる可能性があるのです。また、アルコールは肝臓での薬物代謝に影響を与えるため、全身性の治療を行う際には注意が必要です。

ただし、アルコールと皮膚疾患の因果関係についてはまだ不明な点が多く、さらなる研究が必要とされています。また、今回の研究は英国の単一施設で行われたものであり、結果を一般化するには注意が必要です。人種や文化によってアルコール消費の傾向は異なりますし、日本における状況は不明です。

今後は、日本を含む他の地域でも同様の研究を行い、炎症性皮膚疾患とアルコール依存症の関連性について多角的に調査していく必要があるでしょう。

参考文献:

Al-Jefri K, Newbury-Birch D, Muirhead CR, et al. High prevalence of alcohol use disorders in patients with inflammatory skin diseases. Br J Dermatol. 2017;177(3):837-844. doi:10.1111/bjd.15497

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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