落語家・円楽も出演! 『ENGEIグランドスラム』はなぜ芸人たちを惹きつけるのか
9月17日、ナインティナインと松岡茉優が司会を務めるネタ番組『ENGEIグランドスラム』(フジテレビ)の第6弾が放送される。
今回はこれまでで最長となる250分(19:00~23:10)にわたり放送され、爆笑問題、キャイ~ン、博多華丸・大吉、中川家、バイきんぐ、村上ショージ、オリエンタルラジオ、吉本新喜劇ユニットら漫才からコント、歌ネタまで多種多様な芸人たちが登場する(OAタイムテーブルはこちら)。
果ては、大トリとして落語家の三遊亭円楽の出演まで発表された。こうしたゴールデンのネタ番組に落語家で、しかも大御所の出演は異例のこと。円楽は次のようにコメントしている。
番組の演出を務める藪木健太郎は、『爆笑レッドカーペット』、『爆笑レッドシアター』や『うつけもん』、そして『THE MANZAI』など“ネタ番組冬の時代”といわれた時期もずっと様々な工夫をして時代に合わせながら、ネタ番組を作り続けてきた。そして現在継続しているのが『ENGEIグランドスラム』なのだ。前回の第5弾では14.2%という高視聴率を獲得した。彼は今回の放送にあたってこのように語っている。
もちろん、ゴールデンで思う存分ネタをやれる機会はそうそうないから、芸人たちに気合が入るのは当然なのかもしれない。
だが、それだけでは片付けられない“熱”を『ENGEIグランドスラム』からは感じる。それは一体何なのだろうか。
オリラジ中田を驚愕させたセット
オリエンタルラジオが「RADIO FISH」として登場し披露した「PERFECT HUMAN」が大ブレイクしたのはこの番組がきっかけだった(※それ以前に『検索ちゃん』でも披露したがその時は一部の間での話題にとどまっていた)。
そのオリエンタルラジオの中田敦彦は、『ENGEIグランドスラム』のスタジオに足を踏み入れた瞬間、
「なんてことだ……」
と思ったという(「オリエンタルラジオトークライブ」16年2月27日)。
ここに理想的な会場がある。そう思ったというのだ。
芸人にはやりやすい会場と、やりにくい会場がもちろんある。
言ってみればウケやすい会場と、ウケにくい会場だ。
中田によればその大きなポイントとなるのが「1列目」だ。
この1列目の「目線の位置」が重要だという。演者よりも下の目線でなければならない。つまり観客が見上げる形でなければならないのだ。
また、席の位置も演者に近ければ近いほうがいいという。
だが、このような会場は特にテレビ収録の場合、難しい。なぜならカメラがあるからだ。カメラでの撮りやすさが優先されるため観客の位置が高いか、離れている場合が多い。けれど、『ENGEIグランドスラム』は見事にその条件を満たしていた。
さらに音の伝わり方やパーソナルスペースの関係で、会場の横幅はそこそこ広くても構わないが、奥行はあまりないほうがいいという。
奥行が広いと、遠くで話している感じになってしまうからだ。
その点でも『ENGEIグランドスラム』の会場は完璧だった。
中田が思い描いていた理想的な演芸場が具現化されていたのだ。
実際、演出の藪木は、芸人がやりやすい会場を作るため様々な演芸場を回って研究したという。
こうしたこだわりが実現できたのも、実は藪木が20代の頃技術スタッフとして経験を積んだという経歴があるからだろう。
芸人にとって最高の舞台でやれるからこそ、前述のような「この番組のために新ネタを作った」、「このネタはどうしてもENGEI~でやりたくて取っておいたネタだ」といった芸人たちの熱に繋がっていく。
そして最高の環境で最高のモチベーションで披露されたからこそ、会場も爆発し、「PERFECT HUMAN」ブレイクにも繋がったのだ。
番組と爆笑問題の執念
前回の『ENGEIグランドスラム』には爆笑問題が登場した。
実は、爆笑問題は当初、スケジュールNGだった。だが、1日だけ空きがあるということで、爆笑問題一組だけのためにセットを組み直し、客を入れるという手間とコストをかけて出演させたのだ。
それには爆笑問題にどうしても出て欲しいある理由があった。
前々回の爆笑問題の漫才に対し、ある弁護士のライターが「練られていない漫才」などとネット上で批判したのだ。それに対し、太田光は自身のラジオ番組『爆笑問題カーボーイ』で応戦していた。またそのライターの父親である、かつて『オレたちひょうきん族』でも作家を務めていた放送作家は『ENGEIグランドスラム』自体を「志がない番組」と批判した。そのことに対しても太田は真っ向から反論した。
そうしたタイミングで、スケジュールNGとはいえ、次の回に出ないとなると何を言われるか分からない。
息子の漫才批判は言いがかりとも言えるようなものだったが、それに対するアンサーをするならば、同じ番組でしなければ意味がない。
だから、藪木は、無理矢理にでも爆笑問題を出演させたのだ。
その思いに応えて、爆笑問題はこれまでの彼らがテレビでやってきたスタイルとは明らかに違う漫才を披露した。それはどんな相手に対しても笑ってもらいたいという爆笑問題の“執念”を垣間見る漫才だった。
芸人たちの思いを最高の舞台で見せたい――。
ネタ番組を作り続けてきた藪木健太郎のそんな“執念”が、番組に熱を生み、芸人たちと視聴者を惹きつけているのだ。