『ティファニーで朝食を』のリブートが訴訟問題に発展。名作映画は蘇るのか?
名作映画は常にリブートされる運命にある。主な原因はハリウッドのコンテンツ不足だが、オリジナルが製作された時代の空気感をどう現代に移し替え、今観るに足る魅力を書き加え、それを誰が演じるかが課題だ。加えて、版権問題が絡んで訴訟にまで発展している作品がある。オードリー・ヘプバーンの代表作『ティファニーで朝食を』(61)だ。
映画会社と原作者側が一歩も譲らず訴訟問題に
事の起こりは昨年の初頭。オリジナルを製作したパラマウントと、『ティファニー~』の原作者、トルーマン・カポーティの法定相続人である弁護士、アラン・シュワルツの両者が、同作のTVシリーズ化に向けて同意に至る。ところが同年5月、パラマウントのCEO、ジム・ジャノプロスがTVシリーズとは別に長編映画化を決定したために事態は急変する。シュワルツがパラマウントを相手取り著作権法違反の裁判を起こしたのだ。ここで問題になるのがその著作権法だ。カポーティの原作は1958年に発刊され、1961年にパラマウントによって映画化された。その後、1984年にカポーティは他界するが、1909年に作家の財産を保護するために施行された著作権法が依然有効であることが、1990年の最高裁判所で認められる。そのため、翌1991年、パラマウントはカポーティ側と新たな契約を結び、向こう3年間の間にリブートする権利を30万ドルで購入している。もしも、その間にパラマウントが権利を行使しなければ、著作権はカポーティ側に戻るという条件付きで。
しかし、映画ファンはご存知のように、いまだに『ティファニーで朝食を』が再映画化された気配はない。この半世紀以上の間に、オードリーが演じたホリー・ゴライトリーを模した映像やファッション・フォトは溢れ返ったけれど。そのために、シュワルツ側は1990年の最高裁判決を持ち出して、パラマウントは権利の活用を遅らせすぎたためにもはや版権を失ったと主張しているのだ。一方、パラマウントは1909年の著作権法では扱われなかったアメリカ国外での権利を盾に、徹底抗戦の構えだ。また、”The Hollywood Reporter”に因ると、パラマウントは1991年にカポーティ側と交わした契約には、3年以内という期限が明確には記されていなかったことも主張するのではないかと伝えている。
シュワルツがパラマウントに求めている著作権請求額は当初2000万ドルだったが、著作権侵害による損失を回復するために、さらに請求額を上積みする方向だとか。また、TVシリーズのストリーミングを希望する買い手から、すでにシュワルツ側に高額のオファーが届いているという噂もあり、この訴訟は長引くことが予想されている。
そもそもオードリー映画のリブートは危険すぎる
いち映画ファンとして言わせて貰うなら、そもそも、オードリー映画のリブートは、確かに観たいけれどリスキーすぎるアイディアだ。『ローマの休日』(53)の舞台を現代のローマに置き換えた『新・ローマの休日』(87)は主演のキャサリン・オクセンバーグに魅力がなく(imdbの評価は10点満点で5.1)、『麗しのサブリナ』(53)をジュリア・オーモンドのサブリナ、ハリソン・フォードとグレッグ・キニアのララビー兄弟でリメイクした『サブリナ』(95)も同じ理由で不発(imdbで6.3)、ロマンチック・サスペンスの傑作『シャレード』(63)をタンディ・ニュートンとマーク・ウォールバーグで再映画化した『シャレード』(02)も同じく(imdbで4.7)であった。『いつも2人で』(67)をメグ・ライアン主演で立ち上げようとした企画はどうやら頓挫した模様だ。
では、『ティファニーで朝食を』はどうか。パラマウントとシュワルツが一旦同意したTVシリーズの脚本も、パラマウントが独自に進めようとしている映画版の脚本も、その内容は不明だ。だが、物語の土台になる1960年代のニューヨークのパーティシーンを、いかに今のニューヨークのそれに置き換えるか、ホリー・ゴライトリーというユニークなキャラクターの魅力を、いかに損なうことなく今に移し替えるか、そして、最大の難問であるヒロインを誰に演じさせるか、等々、課題は多すぎる。今回の訴訟問題が解決した時に、いったいどんな作品が作られるのか。楽しみだけれど、ファンの心配は尽きないのだ。
『ティファニーで朝食を』には特別なアドバンテージが
反面、リブート版には希望もある。同作はジュエリーやファッション界のみならず、コミックやポップカルチャーにも多大な影響を与えていて、例えば、アメコミアーティストでイラストレーターでもあるアダム・ヒューズは、DCコミックに登場するキャットウーマンをオードリーに擬えて描いている。『ダークナイト・ライジング』(12)でキャットウーマンを演じたアン・ハサウェイが着る黒いドレスと大きなつばの帽子は、ホリー・ゴライトリーが木曜日にシンシン刑務所を訪問するシーンでのファッションをモロに意識しているし、そもそも、ホリーこそが名もない猫と共に孤独なアパート暮らしを続けるキャットウーマンだという見方もある。つまり、ホリー・ゴライトリーは今も様々な形でコピーされている不朽のアイコンであり、もしかして、今、誰が演じようがある程度の説得力を持つかもしれないのだ。
そして、傷つきやすいホリーが安らぎの場所としてこよなく愛したニューヨーク5番街の高級ジュエラー”Tiffany’s”が、作品のPR担当として今なお存在し続けていることも大きい。同店は、昨年1月、全面改装のために店舗機能を隣接する期間限定の旗艦店、”ザ・ティファニー・フラッグシップ・ネクストドア”に移転。以前、”ナイキ”が入っていたビルの4フロアをぶち抜いた店内では、ジュエリー専門のスタイリストが顧客の来店を待っている。ゴージャスな映画のイメージを損なわないためにも、今回の訴訟問題が1日も早く解決することを願うばかりだ。