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『彼女はキレイだった』で好演 ひたむきな俳優・小芝風花の魅力

中村裕一エンターテイメントジャーナリスト
写真提供:関西テレビ

小芝風花は“ひたむきな”俳優である。

現在放送中の主演ドラマ『彼女はキレイだった』(フジテレビ系列にて毎週火曜夜9時〜)で彼女が演じているのは、出版社で働く主人公・佐藤愛。同じくW主演の中島健人演じるドSのファッション雑誌の敏腕副編集長・長谷部宗介に毎週振り回されながら、笑い顔、泣き顔、怒り顔、驚き顔、戸惑い顔、さまざまな表情を全力で見せてくれている。

実は愛と宗介は小学校時代に互いに惹かれ合っていたが、何もかもうまくいかない現状と自分の容姿に愛はコンプレックスを抱えていた。そこで、せっかく訪れた再会のチャンスに親友の桐山梨沙(佐久間由衣)と入れ替わってもらい正体を隠し続けていた。しかし、本日放送の第6話ではついに宗介が梨沙の態度に疑念を抱く。愛が本当の初恋相手だと気づいた時、宗介はどんな行動を取るのか、愛はそれをどう受け止めるのか。ドラマは終盤に向け大きな転換点を迎えようとしている。

ファンなら既知だと思うが、小芝は俳優を目指す前、小さい頃から母親と共にフィギュアスケート選手を目指していた。トレーニング生活の中で培ったアスリートスピリットにも通じるひたむきさが、俳優としての彼女の持ち味であることは間違いない。本作でも初恋の相手に正体を隠しながら一緒に働くという難易度の高い役どころを違和感なく演じ、作品世界を成立させている。

■俳優としての原点『ふたりのキャンバス』

では、俳優・小芝風花の原点はどこにあるのか。

知名度的にスクリーンデビュー作である映画『魔女の宅急便』(2014年)、もしくはヒロインの娘を演じた朝の連続テレビ小説『あさが来た』(2016年)とするのが妥当かもしれないが、自分はぜひ2017年の夏に放送されたスペシャルドラマ『ふたりのキャンバス』を挙げたい。

彼女にとって初の主演ドラマとなる本作は、『あさが来た』の演出を務めた熊野律時監督からのオファーによって実現したという背景を持つ。このドラマで彼女は、広島に住む被爆者である82歳の老人(近藤正臣)と「原爆の絵」を通じて交流する高校生・柳井里保役を演じ、みずみずしい演技と共に俳優・小芝風花の存在を印象づけた。風化する戦争の記憶について考えさせられる、まさにこの時期にふさわしい作品と言える。

ほどなくして彼女は志尊淳がトランスジェンダーを演じたドラマ『女子的生活』(2018年)にゲスト出演、2本目の主演作となる『トクサツガガガ』(2019年)でブレイクを果たす。

その後も『ラッパーに噛まれたらラッパーになるドラマ』(2019年)、『べしゃり暮らし』(2019年)、『美食探偵 明智五郎』(2020年)、『妖怪シェアハウス』(2020年)、『書類を男にしただけで』(2020年)、『モコミ~彼女ちょっとヘンだけど~』(2021年)と立て続けに話題作に出演し、さまざまな役に意欲的にチャレンジ。着実に演技の幅を広げている。

■コメディエンヌから本格派俳優へ

そんな彼女を「コメディエンヌ」と評する向きもある。実際、自分もインタビュー記事にそう書いたこともあった。しかし近年の活躍を見る限り、その認識は確実に変化してきている。

彼女の場合、わざわざ見る人を笑わせようとしているのではない。どの作品でもその“真面目さ”からにじみ出る“面白さ”が抜群なのである。何事にも全力でまっすぐに取り組む姿勢から生まれる微笑ましさ、可笑しさは誰も傷つけないし、荒んだ心を和らげてくれる。彼女は演技を通じ、それぞれのドラマに絶妙かつ他にはない魅力を加えているのだ。

幸いにもこれまで何度かインタビューをする機会があったが、そのたびに「ピーマンが苦手」と朗らかに笑う姿がとても印象的だった。週刊誌のグラビアで大人の表情を見せる機会も増え、これから先キャリアを重ねるにつれて洗練されていくと思うが、願わくはいつまでもピーマンが苦手であり続けて欲しい。

改めて小芝風花は“ひたむきな”俳優である。これからも役にまっすぐに向き合うその姿を多くの人が見守り、心から応援するだろう。

エンターテイメントジャーナリスト

テレビドラマをはじめ俳優などエンタメ関連のインタビューや記事を手がける。主な執筆媒体はマイナビニュース、週刊SPA!、日刊SPA!、AERA dot.など。

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