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赤外線画像がカラーで見られる!

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

図1は光のない、真っ暗なところで写した写真である。しかも普通のCMOSイメージセンサを使ったカメラで撮った。決して高感度カメラではない。実は赤外線カメラで撮ったカラー画像である。あれっ?赤外線画像は白黒のはずではなかったか?

図1 真っ暗闇で撮った赤外線カラー画像 出典:ナノルクス
図1 真っ暗闇で撮った赤外線カラー画像 出典:ナノルクス

これまで、赤外線画像は白黒、が常識だった。カラー画像は、赤(R)、緑(G)、青(B)の三原色でできており、それぞれの波長は700nm、546nm、436nmであり、赤外光はおよそ800nm以上の波長であり、目には見えなかった。同じ画像を従来の赤外線カメラで撮ったのが図2の左、今回の新技術のカラーで撮ったのが図2右の写真である。暗闇で写真を撮るためには、これまではカメラの感度を上げるしかなかった。しかし画像は荒れてしまい、細かい画像のノイズが目立っていた(図3)。

図2 従来の赤外線画像(左)と今回のカラー画像(右) 出典:ナノルクス
図2 従来の赤外線画像(左)と今回のカラー画像(右) 出典:ナノルクス
図3 暗闇を高感度カメラで撮るとノイズだらけになる(左) 赤外線カラー画像は情報量が多い 出典:ナノルクス
図3 暗闇を高感度カメラで撮るとノイズだらけになる(左) 赤外線カラー画像は情報量が多い 出典:ナノルクス

この赤外線カラーカメラを発明・商用化したのは、「株式会社ナノルクス」という日本のベンチャーである。文字通り「ナノ」は、「微小な」という意味で使われる、10億分の1という単位だ。ミクロンが百万分の1であるから、その1000分の1という小さな単位だ。「ルクス」は明るさを表す単位だから、ナノルクスという名称は小さな光、小さな明るさという意味である。まさに暗闇でも写真や映像を撮れる小型赤外線カメラを世に問おうとしている会社だ。

この常識を覆したのは、実は茨城県つくば市にある産業技術総合研究所という国立の研究所の研究者で現在ナノルクスの創業者であり取締役でもある永宗靖氏だ。永宗氏は、赤外線スペクトルの中で、可視光の3原色であるR(赤)・G(緑)・B(青)に対応する波長帯を見つけた。この技術の特許の独占使用権を得たのがナノルクスという訳だ。この6月には、サムスンのVC子会社であるサムスンベンチャー投資社や日本ベンチャー投資などから200万ドル(約2億2000万円)の投資を受けた。

実際にベンチャーを起業するといっても、国立研究所の研究者だけではとても難しい。起業するには、技術のほかに人、モノ、金が不可欠。特に、人はビジネス経験がなくてはできない。モノの試作はできても量産する、あるいは量産を依頼する能力がなくてはできない。もちろん金がなければ給料さえ払えない。基礎技術は産総研からナノルクスにきたが、製品技術には元ソニーやTSMCなど、エレクトロニクス業界などの経験者がナノルクスに集まってきた。もちろん、マーケティングやフィールドエンジニアもいる。まるで、シリコンバレーにあるベンチャーのようだ。

ナノルクスが創業したのは、2010年だが、ベンチャー企業として実際に活動し始めたのは、2015年秋に祖父江基史氏(図4)が社長に就任してから。特に2017年4月に台湾ASUSに彼が乗り込み、この技術をプレゼンしたときに、董事長(社長)のJohnny Shih氏が1億円の出資を決めた。これが実質的な創業になる。その後、メンバーを募り産業界の経験者が参加、開発を進めてきた。6月の出資により、製品の量産化へ着手する。

図4 ナノルクス代表取締役社長の祖父江基史氏 CMOSカメラと照射する赤外光イルミネータを両手に持っている
図4 ナノルクス代表取締役社長の祖父江基史氏 CMOSカメラと照射する赤外光イルミネータを両手に持っている

これまで白黒しかできなかった赤外線画像をカラー化できたのはなぜか。大元の産総研にいた永宗氏は、可視光のR・G・Bに相当する色の赤外光の波長が存在することを見つけた。図5の赤外線波長とR、G、Bがそれぞれ対応しているのだ。つまり、R・G・Bに相当する赤外線を当てた画像を映し出せばよい。

図5 可視光のR・G・Bに相当する赤外線領域が3つある 出典:ナノルクス
図5 可視光のR・G・Bに相当する赤外線領域が3つある 出典:ナノルクス

この赤外線カメラで祖父江氏は、まず監視カメラ市場への応用を狙う。特に夜間や薄暗い所での犯罪防止に役立つ。また夜間の道路でのスピード違反の取り締まりにも有効である。白黒では判明しない画像が、カラーになると極めて見やすくなるからだ。実際、NEXCOで実証実験を行った。高速道路で速度違反や犯罪行為などを見分けやすくなる。実際に効果があったようだ。ナノルクスは、この赤外線カラーカメラを実際に体験してもらうためのキットも用意している。

図6 シングルセンサに向けたロードマップ 出典:ナノルクス
図6 シングルセンサに向けたロードマップ 出典:ナノルクス

今のところ、赤外のR・G・Bに相当する波長に合わせた3板式のカメラで画像を得る第1世代の赤外カメラを試作している(図6)が、CMOSイメージセンサが3個必要なため、カメラは大きくなってしまう。そこで、一般の商用化にはやはりカラーフィルタを使い、CMOSセンサ1個の小型カメラを世に問いたい。幸いシリコンのpn接合フォトダイオードは赤外線も吸収できるため、市販のCMOSイメージセンサをそのまま使えるというメリットもある。

このカラーフィルタ方式のCMOSセンサカメラを開発・量産するため、出資を募ったのである。これまでのプリズム利用のRGB波長相当から始まり、2018年中には本命のカメラをリリースする予定だ。

                                                       (2018/07/08)

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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