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遺伝子組み換えで食糧生産性の向上は幻想? ~米農務省の報告書より~

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

納豆や醤油、味噌などの大豆製品の原料欄に、「大豆(遺伝子組換えでない)」との表示を見たことはないだろうか。日本人は欧州と並んで遺伝子組み換え(GMO)農作物に対する拒否反応が強く、「遺伝子組み換えではない」というのが強力なセールスポイントになっている。このため、原料欄以外でも「遺伝子組み換え」の有無(実際には有りの表示はないが)の表記を頻繁に目にすることになる。

現実には、GMOの大豆やトウモロコシは食用油など加工品の形で食卓に上っていることが多く、もはやGMO農作物の摂取を完全に回避するのは難しい状況になっている。そもそも、海外で日本の需要をカバーできるだけの非GMO農作物が生産されているのかさえ疑問である。しかし、できる限りGMO農作物は避けたいとの国民心理があることは否めないだろう。

一般的には、世界の穀倉である米国ではGMO農作物に対する拒否反応は弱いと言われるが、当然に健康や環境面への影響を懸念する声も存在している。米農務省(USDA)は2月20日、こうした声に答える形で、GMO農作物について最新の調査報告を行った。USDAはあくまでも情報提供のためとしており、その是非については踏み込んだ評価は行っていない。ただ、今回の報告書の内容はGMO農作物の関連業者にとっては厳しい内容になっている。

まずは現状であるが、米国で生産される農作物は、ほぼ全てがGMOと言っても過言ではない状況になっている。農地面積ベースだと、トウモロコシの90%、大豆の93%でGMOが栽培されている。2000年時点では、トウモロコシが25%、大豆が54%だったため、2000年代の米農地で目に見えない大きな変化が生じていたことが確認できる。気が付いたら、米農地はGMO農作物で埋め尽くされていたのだ。

米農家にGMOの栽培を選択した理由を質問すると、最も多いのは「イールド向上」となっている。イールドとは一単位面積当たりの生産量のことであり、要するに生産性の向上が最大の理由になっている。トウモロコシだと71%、大豆だと60%がこの回答を行っている。二番目は農作物によって順位が異なるが、大豆の場合だと「殺虫剤コストの削減」が20%、次いで「時間短縮」が15%となっている。

この回答を見ると、当然にGMO採用でイールドの向上が実現していると思われるだろう。しかし実際の調査では、イールド向上効果は殆ど確認できていないという失望的な結果が報告されている。確かに綿花だとイールドの向上が確認できたとの報告が目立つが、トウモロコシと大豆は「同じ(same)」との回答が最も多く、逆に「若干悪化した」との調査報告さえも確認されている。報告書のまとめでも、「GMOの収穫量は普通の品種を下回ることもある」との意外な結果を記している。

要するに、米農家は生産性の向上を理由にGMOを採用しているが、実際には殆ど効果が上がっていないのだ。GMOによる生産性向上は幻想に過ぎない。

ただ、殺虫剤の使用量については「減少した」との報告が多く、1エーカー当たりだと1995年の0.21ポンドから2010年にはポンドまで、約10分の1の使用量に削減されている。虫害に対しては明確な効果が確認できよう。その反面、除草剤の使用量(トウモロコシの場合)は01年の1.5ポンドから10年には2.0ポンドまで逆に増えており、非GMOの農地で除草剤使用量がほぼ横ばいだったのと対照的な結果になっている。雑草が除草剤への耐性を強めてしまうため、思うような効果をあげられていない実態が判明している。

一方、種子価格は01年から10年までの間に約50%上昇しており、種子会社はGMOの普及で大きな恩恵を受けていることが確認できる。

結局の所、GMOは害虫による壊滅的な生産被害を回避することには効果があるものの、生産性の向上や除草関連の時間・費用削減には余り効果がないということである。その意味では、農家にとって夢の技術と言うよりも、高い種子を購入して極度の不作を避けるという、一種の保険的な効果を見出すのが妥当化もしれない。間違いのない勝者は種子会社であることだけは確かである。

マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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