住民や労働者が次々に逃げ出す酷寒の「恐怖写真」現場
北朝鮮国営の朝鮮中央通信は10月30日、金正恩党委員長が中国との国境に近い三池淵(サムジヨン)郡を視察したと伝えた。金正恩氏が同郡を視察するのは、今年3回目だ。
三池淵郡は北朝鮮で「革命の聖地」として知られるとともに、風光明媚な景勝地でもある。金正恩氏は東海岸の「元山葛朝(ウォンサンカルマ)海岸観光地区」と並び、同郡の観光開発プロジェクトを最重視していると見られる。
しかし、三池淵郡の建設現場の安全対策は劣悪で、実際に事故も発生。北朝鮮が公開した写真の中にも「恐怖写真」レベルのものがある。
(参考記事:金正恩氏の背後に「死亡事故を予感」させる恐怖写真)
しかも、三池淵郡は北朝鮮の最高峰・白頭山(ペクトゥサン)を擁する高原地帯だ。厳冬期の気温はマイナス30℃を下回る。10月から雪が降って地面が凍り、風も強く、屋外での作業環境は極めて過酷だ。それにも関わらず、金正恩氏からハッパをかけられた当局は、現場に対し8、9月と同水準の工事進捗を求めているという。
北朝鮮では、過酷な工期設定のために大量死亡事故が繰り返し起きているが、三池淵でも今後、何が起きるかわからない。実際、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋はデイリーNKに対し「道内の工場、企業所から三池淵地区の建設現場に動員された労働者が次々に離脱し、工場幹部たちが道の朝鮮労働党委員会から責任を追及される事態になっている」という。
(参考記事:【再現ルポ】北朝鮮、橋崩壊で「500人死亡」現場の地獄絵図)
労働者たちも「命がいくつあっても足りない」と感じてのことだろう。
冒頭で触れた視察で金正恩氏が下した指示も、不安を増幅させる。金正恩氏は現地で「内閣と三池淵郡建設指揮部は三池淵郡内の全ての重要建設を2021年まで4段階に分けて行うと計画しているが、党の意図とは異なる」と述べ、朝鮮労働党創立75周年を迎える2020年10月までに完成させるよう厳命したという。
北朝鮮では、最高指導者がひとたびこのような指示を下せば、それは命に代えてでも守るべき「掟」となる。現場はムリを重ねるようになり、事故が起きやすくなるのだ。