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北朝鮮の町内会「美人妻2人」処刑の衝撃場面

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮の公開裁判(デイリーNK)

 韓国のテレビ放送は、2012年末を持ってすべてデジタル放送に切り替わったが、KBS第1テレビに限ってはアナログ放送を続けている。それも、韓国で従来から使われていたNTSCではなく、北朝鮮で使われているPALを使っている。北朝鮮の人々に外部世界の情報を届ける目的からだ。

 これに対して北朝鮮当局は、2つの方法で対応している。ひとつは妨害電波だ。ただ、こちらは電力不足によりあまり発信できていないと言われている。もうひとつは、すべてのテレビ受像機のチャンネルをはんだ付けして、国内メディア以外の電波を受信できないように固定する方法だ。

 最近、それを剥がして韓国のテレビを見ていた農村の女性らが処刑される事件があったと、黄海南道(ファンヘナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

 事件が起きたのは黄海南道の青丹(チョンダン)郡。黄海を隔てて韓国からは至近距離にある地域だ。地域の協同農場で働く女性2人が昨年12月、保衛部(秘密警察)に逮捕された。容疑は、チャンネルのはんだを剥がして韓国のテレビ放送を受信し、映画、ニュースなどを密かに見ていた容疑だ。

 同じ人民班(町内会)に住む隣人だったAさんとBさんの2人は、非常に仲がよかった。

 そして、その様子に嫉妬心を抱いた別の女性が、同じ人民班にいた。この女性は、Bさんが子どもに留守番をさせて家をいつも留守にしているのを不審に思い、Aさん宅に上がり込み、テレビのはんだが剥がされているのを発見した。そして2人が、皆が寝静まった時間に韓国の映像を見ていることを子どもを通じて確認した上で、保衛部に通報した。

 2人の家に乗り込んだ保衛部は、はんだが剥がされていることを確認した上で、子どもから証言を確保し、虚偽の通報でないことを確認した上で、2人を逮捕した。

 2人は昨年12月から今月までの半年に渡って、予審(起訴前の証拠固めの段階)を受けた。激しい暴言、拷問を受けたことは想像に難くない。

 そして、今月中旬、2人は動員された住民が見守る中で、公開闘争会議にかけられた。自ら反省の弁を述べ、代わる代わる様々な人から批判されるという「吊し上げ」だ。その場では、「2人が急速に接近したきっかけは、南朝鮮(韓国)と外部社会への好奇心を話す過程で、変質した思想を共有した」と、犯行動機が述べられた。

 従来なら、労働鍛錬隊(軽犯罪者を収容する刑務所)送りにされたり、罪状が「悪質」と見なされた場合でも、懲役3〜5年の処分を受け教化所(刑務所)送りにされるのが一般的だ。しかし保衛部は「情勢が複雑な最近、思想的に変質した行為が目に見えて表れており、気を引き締めさせよとのいうのが中央の意図」だとして、2人をその場で銃殺刑にした。予想外かつ残酷な展開に、見守る人民班の人々は衝撃を受けたという。

 執行後に保衛部は「(同じことをすれば)また続けて処刑があるだろう」と警告し、地元住民を震え上がらせた。2人は運悪くバレてしまい悲惨な最期を遂げたが、地元住民の中に、韓国のテレビやラジオに接したことのない人はほとんどいないから、誰もが死刑の恐怖に怯えるのだ。

 しかし、その見せしめ効果もどれくらい続くかは未知数だ。

 はんだを剥がして、韓国のテレビやラジオを楽しんだ後、もとに戻す手法は皆が知っている。また、生活が苦しい中でも、何らかの未登録の受信機を入手して、ナマの韓国を密かに楽しむ人もいる。2人を処刑した保衛部の要員とて、例外ではないだろう。北朝鮮当局がいくら人を処刑しても、人々の「外の世界を知りたい」という渇望を抑え込むことはできないのだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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