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【鋸南町】ホップを育てる東大生と醸造所がコラボ。地域の農産物を副原料にした秋のクラフトビールづくり

鍋田ゆかり安房暮らしライター(館山市・富津市・いすみ市 など)
「相川ふるさとエール」 写真提供:東大むら塾

鋸山(のこぎりやま)の南に位置する鋸南町(きょなんまち)で、地域で採れる農産物をいかしたクラフトビールを醸造・販売している「鋸南麦酒」。秋につくられる季節限定ビールの一つは、東大生が育てたホップと米を使用した「相川ふるさとエール」です。なぜ東大生が米やホップを育てているのか、それらを使ってビールをつくることになった経緯など、鋸南麦酒取締役の國井祐太郎さんに話をうかがいました。

鋸南麦酒と東大むら塾の親和性

鋸南麦酒には、この地域で採れたレモンやショウガを使って醸造したビールが並んでいます。クラフトビールを販売しているお店にしか見えませんが、実は店舗の裏に醸造所が。少量の醸造に適した「石見式」醸造法を採用し、撹拌や火力調整、瓶詰めなど全て手作業で行っています。

鋸南麦酒での醸造の様子
鋸南麦酒での醸造の様子

ビールづくりに欠かせない原料の一つに、ホップがあります。そのホップを鋸南町の隣にある富津市で栽培しているのが、「東大むら塾」です。東京大学の学生が、「農業×地域おこしでむらの未来を変える」をコンセプトに活動。多岐にわたる活動のなかに、富津市相川・梨沢地区での米やホップの栽培があり、収穫した米とホップの有効活用先として白羽の矢が立ったのが、鋸南麦酒でした。

東大むら塾のホップ畑 写真提供:東大むら塾
東大むら塾のホップ畑 写真提供:東大むら塾

鋸南麦酒は、自分たちのビールではなく、地域のクラフトビールだと言ってもらえることを目指して、地域の農家から副原料を仕入れてビールづくりに励んでいます。

一本一本手作業で瓶詰め作業を行う國井さん
一本一本手作業で瓶詰め作業を行う國井さん

國井さん「地域を少しでも盛り上げたいですし、クラフトビールを通して全国や海外の人たちが南房総に興味をもってくれて、ファンになってくれたらと思っています。東大むら塾も、同じエリアで地域の活性化を目指して取り組んでいるプロジェクトだったので、手段は違えど目的やベクトルが同じで、組む意味があると思いました」

相川へのエールを込めて「相川ふるさとエール」が誕生

東大むら塾が手がけた相川ブランド第一弾は、地元の人と一緒に、地元のこだわりを大切にして育てたお米です。手植えや天日干しなど、昔ながらの農法で育てて収穫したお米に、「てとて」と名付けました。多くの人たちと、手と手を取り合って作り上げたお米です。

刈った稲を天日干しにするため、竹を組む学生たち 写真提供:東大むら塾
刈った稲を天日干しにするため、竹を組む学生たち 写真提供:東大むら塾

「てとて」に続く相川ブランド第二弾として選んだのは、千葉県での栽培実績がほとんど無く、希少性が高いホップでした。

私たちはブランド戦略や広報戦略などについてとことん話し合い、相川の魅力を伝える方法を模索してきました。そして誕生したのがこの「相川ふるさとエール」です。この名前には、エールビールの「エール(Ale)」と、ふるさとへの「エール(Yell)」、ふたつの想いが込められています。

引用:東大むら塾webサイトより

写真提供:東大むら塾
写真提供:東大むら塾

相川ふるさとエールには、ホップはもちろんお米の「てとて」も使われています。ホップは、ビールに独特の苦味や香りを与え、お米もまた米独特の香りと、スッキリした味を出します。フレッシュホップの働きをいかすには、鮮度が重要です。学生たちは午前中のうちにホップを収穫し、検品後醸造所へ納品。その日の午後に、フレッシュホップを使った醸造がはじまります。これは、醸造所と畑が近い距離でないとできない早業であり、地域の活性化を目指している二つの団体が協力し合っているからこそできることです。

鋸南麦酒指導のもと、ビールづくりにも積極的に参加する学生たち 写真提供:東大むら塾
鋸南麦酒指導のもと、ビールづくりにも積極的に参加する学生たち 写真提供:東大むら塾

できあがった相川ふるさとエールを、仲間とともに飲んでみました。「濃い!」という第一声が上がったあと、「苦味がすごくうまい」とか「フルーティーで、飲み込むと深い味が感じられる」とか、それぞれ感想を述べあいました。濃いのが好きな人はこのままで、苦手な人は、「白ブドウジュースで割って飲みたい」という人もいて、いろいろな飲み方を楽しめそうです。

農家も醸造所も“多品種少量生産”

一回の仕込みで出来上がるのは、330mlの瓶200~300本程度です。

國井さん「南房総は多品種少量生産の農家さんが多く、うちも同じです。東大むら塾みたいに、ほかの農家の方々ももっとフィーチャーしていきたい。店に来てくれたお客さんには、実際につくっているところを見学してもらって、仕込んでるときだったら麦汁をその場で飲んでもらったり、そういう体験をして楽しんでもらいたい。大きい工場だと予約が必要だったりするので、小さいからこそできること。ふらっときて、気軽に体験してもらえたらいいですね」

販売店と醸造所が一緒になっている鋸南麦酒の入口
販売店と醸造所が一緒になっている鋸南麦酒の入口

地域のクラフトビールとして、地域とともに成長したいと考えている國井さん。私も麦汁を飲ませてもらいましたが、甘酒のようにすごく甘くてびっくりしました。ちなみに、当日納豆やヨーグルトを食べた人は醸造所に入れないので、ぜひとも見学したいという方はお気をつけください。

※仕込んでいない日もあります

相川ふるさとエールは、生産をはじめてから今年で4年目を迎え、栽培面積も当初の2倍に増えました。それでもまだまだ収量は限られているので、数に限りがある貴重な商品。学生たちは栽培だけでなく販促活動も行い、金谷にある「ザ・フィッシュ」や「東京湾フェリー金谷港」、富津市にあるスーパー「吉田屋湊店」、鋸南町にある「道の駅保田小学校」、鋸南町にあるスーパー「おどや鋸南店」、「房の駅」で取り扱われています。5種類の定番や、その時期だけの季節限定商品に出会えるかもしれないので、南房総にお越しの際はぜひチェックしてみてください。もちろん鋸南麦酒でも販売しているので、醸造の様子を見学しつつ、お買い求めいただければと思います。

通年扱っている定番商品 写真提供:鋸南麦酒
通年扱っている定番商品 写真提供:鋸南麦酒

取材協力:鋸南麦酒、東大むら塾(公式サイトInstagram

【店舗情報】

鋸南麦酒
住所:千葉県安房郡鋸南町吉浜517-1鋸南町観光物産センター内
営業時間:11:00~17:00
URL:公式サイト
Instagram

安房暮らしライター(館山市・富津市・いすみ市 など)

館山市・富津市・いすみ市・南房総市・鴨川市・安房郡担当。バックパッカーで世界を旅して漂着したのは、千葉県房総半島の安房(あわ)。ボロボロ古民家を仲間と改修しながら、犬猫ヤギと暮らしはじめる。現在は親子犬2匹と安房の自然にどっぷり浸かりながら、シュノーケリング、サイクリング、ハイキング、シーカヤック、キャンプ、野点、自転車旅を通してその魅力を発信中。

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