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【全豪テニス】考えた末に“考えすぎること”をやめた大坂なおみ。窮地切り抜け2年連続4回戦へ

内田暁フリーランスライター
(写真:ロイター/アフロ)

■全豪OP3回戦 大坂なおみ 5-7, 6-4, 6-1 H・スーウェイ■

 そのとき彼女は、確かに笑みをこぼしました。

 第1セットを落とし、第2セットもゲームカウント2-4とリードされて迎えた、相手のサービスゲーム。大坂が打った緩く高い軌道の球は、相手にあっけなく叩き込まれ、ウイナーを奪われてしまいます。

 スコアは、敗戦まであと5ポイントと追い込まれる40-0に――。

 この絶体絶命の局面で、彼女は半ば呆れたような、もしくは何かが吹っ切れたような笑いを、ふっと吐き出したのです。勝手にセリフをつけるなら、「まったく何やってんのよ、私」……、そんな感じでしょうか。

 その笑みの背後にあった思いを、後に彼女は明かしました。

「私は今、グランドスラムに居るのよ。素晴らしい選手相手にプレーしているのに、なんで哀しい思いをしなくちゃいけないの? プレーを、そしてこの時間を楽しもう。全てのボールに、持てる全てのエネルギーを注ごう……、そう思ったことが、私があの時に笑った理由だと思う」。

 

 3回戦で大坂が対戦したシェイ・スーウェイは、スライスやドロップショットを得意とし、予測不能なショットで相手を苛立たせるツアー随一の試合巧者。蟻地獄のような彼女のテニスには、過去にも世界1位のシモーネ・ハレップら多くのトッププレーヤーがハマり、餌食となってきました。

 その独特な空間に引き込まれ、第1セットの終盤頃から、大坂のミスがかさみます。第2セットに入ると、ならばこっちも揺さぶりをかけようと緩いボールやフォアのスライスを打ちますが、それらは「全く自分らしくない、練習すらしたことのないショット」。むしろ「ポイントの無駄だった」と後に悔いました。

 その「らしくない」ボールを相手に叩かれた時、笑みと共に、彼女は我に返ったのでしょう。絶体絶命の局面でフォアハンドを振り切って、奪った2連続ポイント。続く相手のミスでブレークの危機を脱すると、さらに2本連続で、快音響かせフォアの強打を叩き込みます。「らしさ」に徹し自身の武器を振るった大坂が、相手の手から主導権を引き剥がしました。

 一方、淡々と自らのプレーに徹していたかに見えた33歳のベテランの頭にも、この時、種々の思いが渦巻いていたと言います。

「リードしている! もう少しで勝てる!……そう思ったら……」

 件の場面を振り返るシェイは、自分の首を締めるジェスチャーをしました。サービス時にも「もっとコーナーを狙おうか」などの迷いに襲われたと言います。大坂の強烈なリターンを恐れ、セカンドサービスでいつも以上に攻めたためダブルフォルトが多くなっていたことも、彼女の逡巡の根底にありました。すると、サービス時に目に入る太陽の光も何もかもが、彼女のリズムを狂わせます。

「考えすぎてしまった」

 主導権を手放した種々の要因を、シェイは、端的なこの一言に込めました。

 対して、考えた末に“考えすぎること”をやめて勝利を得た大坂は、「このような勝ち方は、大きな自信になる」と言います。

 4回戦で当たるのは、シェイと似たタイプのセバストワ。その難敵を破る上でも、この日の勝利は、大きな経験となったはずです。

※テニス専門誌『スマッシュ』のFacebookより転載

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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