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「もう食べるものがない」金正恩の足下で響き渡る悲鳴

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(板門店写真共同取材団)

 農繁期を迎えた北朝鮮の農村。本来なら、稲の種を蒔いて苗を準備するなど、大忙しのはずだが、案外閑散としているという。半分ほどの農民が農場に出てこれないからだ。

 北朝鮮の協同農場の現状を、デイリーNKの内部情報筋が伝えた。

 平安南道(ピョンアンナムド)当局は、農繁期を控えて協同農場の出勤率の調査を行った。その結果、文徳(ムンドク)郡内の協同農場の場合、わずか57%だったという。

 農場に出てこられないのは、単純に食べ物がないからだ。

 元々この時期は、前年の収穫が底をつく春窮期ではあるが、今年はいっそう深刻だ。昨秋にこの時期まで持ちこたえるために食糧を備蓄できていたのは、全体の3割にもならないと情報筋は証言した。

(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為

 北朝鮮が誇る大穀倉地帯「十二三千里平野」のど真ん中に位置する文徳でこの状況なのだから、他の地域がいかなる惨状にあるかは想像に難くない。

 やはり穀倉地帯である黄海南道(ファンヘナムド)の甕津(オンジン)のある農場では、半数が絶糧世帯に陥ったと、米政府系ラジオ・フリー・アジア(RFA)が現地の情報筋の話として伝えている。

 また、山がちで農地の少ない両江道(リャンガンド)はより状況が深刻だ。

 現地のデイリーNK内部情報筋は、「道内の農村では平均して10世帯のうち1〜2世帯が絶糧世帯で、食べるものがない状態だ。さらに4〜7世帯は1日1食を食べるので精一杯だ」と伝えた。一方で都市部では、市場での商売で現金収入が得られるため、絶糧世帯は多くないとのことだ。

 国や軍からの強制的な買上げで倉庫がすっからかんになっていることも影響している。

「頑張って農作業を行って収穫した穀物で、一度たりとも腹いっぱい食うこともできず、軍糧米として捧げている。農場に出勤しようとしない人が増えるのも当然だ」(情報筋)

 絶糧世帯は都市部でも広がり、中朝貿易で北朝鮮国内では豊かな方だった新義州(シニジュ)でも餓死者が発生するほどの状況となっている。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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