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世間が知らない「トラックが路上駐車をする理由」

橋本愛喜フリーライター
路上駐車をするトラックの列(読者提供)

これまでにも折に触れてトラックドライバーの「路上駐車問題」は取り上げてきたが、その度に世間からは「言い訳するな」「路駐を擁護するのか」という声が多く届く。

道路脇やゼブラゾーンなどに駐車しているトラックに、乗用車やバイクが追突する事故が相次ぐ昨今。そのニュースを目にするたび、底知れぬ憤りを感じる。

その矛先は、路上駐車していたトラックドライバーではない。トラックが路上駐車せねばならない現状を一向に変えようとしない国や荷主に対してだ。

「ウチの前で路駐なんてしないでよ」

誰もが一度は大きなトラックが路上駐車している光景を目にしたことがあるだろう。

まだ薄暗い明け方や、ラッシュが始まる早朝に長い列をなして停まっていることも多く、中にはハンドルに足を上げて居眠りしているドライバーまでいるため、その存在はより一層疎ましく感じるかもしれない。

長時間こうして路駐をしている多くが、BtoB輸送を担うトラックだ。

エンドユーザーが日常生活で接する機会のあるトラックといえば、宅配便などのBtoC輸送業者が主だが、スーパーの商品や、製造・建設資材の運搬などを担うのは、こうしたBtoB輸送のトラックで、規模で言えばむしろ彼らのほうが宅配便よりも我々の生活インフラを下支えしている存在だといえる。

筆者もかつてトラックに金型を載せ、全国各地を走っていた1人だ。

朝イチに来るように言われたある得意先工場の前の田舎道で仮眠を取りながらスタンバイしていると、突然ドアをコンコンと叩く音で飛び起きる。

エンジンの揺れや騒音では全く起きないのに、あのたった2回のノック音で瞬時に飛び起きるのは、「路駐している」という罪悪感があるからだ。

ノックしてきたのは、工場に出勤してきた作業員だった。

「ねえ、○○(筆者の工場)さんのとこの運転手さんでしょ。ウチの前で路駐なんてしないでよ」

ひと睨みした後、「おはよう」も「すみません」も言わさぬ間に去っていく後ろ姿に、筆者が抱いた感情は、正直なところ「申し訳なさ」ではなく、やはり「憤り」だった。

トラックドライバーの事情

トラックドライバーに「延着」(指定時間に遅れて到着すること)が許されないことはよく知られているが、「早着」(指定時間より早く入構すること)も許されていないということは、世間にはあまり意識されていない。

他業種においても、アポの時間ちょうどに向かうことは当然ではあるのだが、彼らトラックの場合、時間通りに着いた後、そこからさらに数時間、時には1日中、他のトラックの積み降ろしが終わるのを待たされることがあるのだ。

さらに問題なのが、その荷主の敷地内で待機させてもらえないことだ。そればかりか、先の筆者のように、「近所迷惑になるから」「混雑緩和のため」という理由で、荷主の敷地周辺ですら待機が禁止されるケースも少なくない。

こうした荷主都合主義が、トラックドライバーの「労働環境」と「路駐」に大きく影響しているのである。

今回、路上駐車をしないといけない事情をTwitterで募集したところ、多くの現役トラックドライバーからの悲痛な声が集まった。

「荷主への入庫予約は、携帯から3キロ圏内でないとできない。場内待機場所がないので場外待機。混雑防止と謳ってますが、3キロ圏内に待機できる場所などありません。これは路駐しろとやんわり言ってることと同じ」(30代食品系長距離)

「路駐はなくなりませんね。積み下ろしする倉庫はほとんどトラックの待機場がない。倉庫は5階建てでも、その分の待機場は少ない。最初から路駐前提で作ったのでは」(50代大型長距離)

「路駐は必須。向かう先は、物流センターなどが立ち並ぶ『埠頭』がほとんどなので、2~3車線は当たり前で車線も幅広い。そのため駐車禁止区域だが警察も黙認している」(30代大型平ボディダンプ)

「付近待機禁止。呼ばれたらすぐ入場。『○分目指して入ってください』と言われたら、もはや路駐しないと無理です」(40代精密機械長距離)

「そりゃできるもんなら路駐したくはないです。トイレ遠いしなんか申し訳ないし。『メールするからその辺で待ってろよ』と追い出されるとこもちょいちょいあったりします」(20代菓子輸送4t)

また、トラックドライバーには、世間に知られていない「守らねばならないルール」が多くあるのも、路駐の原因の1つになっている。

中でも、「4時間走ったら30分の休憩(通称『430』)」や、その日のうちに帰れない長距離トラックドライバーに課せられる「翌日勤務までの8時間以上の休息期間」などは、本来トラックドライバーに休憩を取らせるために国が定めた、運送企業への労基上のルールであるにもかかわらず、トラックの駐車場所がないがために、結果的にドライバーの首を絞めているという皮肉な状態になっているのだ。

「430の休憩時間が迫っているのに、駐車場が見つからなければ、必然的に路駐せざるを得ない。駐車できる場所が見つからないという精神的負担は大きい」(30代機械系大型)

「路駐だったら、最悪でも警察に点数引かれるだけだけど、430や8時間休息を守らなかった場合、会社から処分を受けることになる。どちらがいいかは人次第かもしれないけど、クビが掛かってたら誰だってどちらを選ぶかは明らかでしょう」(60代長距離)

トラックには大きく社名と連絡先が書いてあることが多い。こうした「路駐せざるを得ない事情」を知らない周辺住民や道路使用者からは、「社員が路駐している。教育がなってない」、「これだからトラックドライバーは」といった辛辣なクレームが運送業者に入る。

「指定時間を守る為に近場で仕方なく路駐することがありますが、トラックの荷台部分にデカデカと社の看板が描かれてるので周囲の目が気になって仕方ないです。大手はクレームのターゲットになりやすいので」(20代大手路線会社セールスドライバー)

「理不尽ですよ。待機場所がないと荷主にクレームを入れたいのはこっちのほうなのに」(関西地方中小運送経営者)

建設仮設資材の返却に並ぶトラック(読者提供)
建設仮設資材の返却に並ぶトラック(読者提供)

トラックだって路駐なんてしたくない

こうした事情を説明してもなお、一部からは「言い訳するな」と言われるのだが、1つ声を大にして言いたいのは、「トラックドライバーとて路上駐車したくてしているわけではない」ということだ。

路駐するところにはトイレもないし、いつ追突されるかという恐怖も常にある。何より、先の筆者の例の通り、路駐をするとその後ろめたさゆえにとにかく気が休まらず、道路上での待機ほど落ち着かないものはない。

特に昨今、路駐のトラックが非難される理由の1つには、相次いだ「路駐トラックへの追突事故」がある。

ゼブラゾーンに駐車しているトラックに、乗用車やバイクなどが追突。ドライバーやライダーが亡くなる事故は、一向になくなる気配はなく、そのニュースが報じられるたびに路駐していたトラックドライバーに非難の声が集まる。

その中でも多く聞こえてくるのは、「ハザードの無灯火」だ。

「駐車場所の悪さは言うまでもなく、さらにはハザードもつけずに停まっているのは、トラックが100%悪い」

無論、対策を講じないトラックに非がないわけではない。

しかし、このハザードの点滅そのものが周囲からのクレームになることもあるのに加え、長時間使用すると、クルマのバッテリーが上がる恐れもあり、「途中で消してしまう」とするドライバーも少なくない。

だからといって、エンジンを掛けたままハザードをつけ続ければ、今度は「エンジンの掛けっぱなし」を指摘されるため、トラックドライバーはもはや何をしても非難される「八方ふさがり」の状態となってしまっている。

停める場所もないのに「停まれ」の理不尽

こうした追突事故を起こさぬよう、彼らもそれぞれに対策をしている。

「基本、無灯火で大丈夫な安全な場所に止めます。無理な時は、会社の方針でクルマの後部に反射材がたっぷり貼ってあるので、それ頼りです。あとは、工事現場とかでも使われている太陽電池で点滅する保安灯をリアバンパーにくっ付けてあります」(27年目中距離)

「待機の場合はハザードを付つけますが、5分以上の場合消灯。仮眠の場合はハザード、スモール消灯。電力消費が怖い。寒い時はエンジンかけたままです。また、トレーラーの台車の後部が右にはみ出したままの長時間路駐をするのは迷惑ですね」(2年目近距離30代大型)

「ハザードつけっぱなしにしたりスモールだけ点灯させたりして『停まってます』のアピールをする。万が一、追突された時のために、頭を歩道側にして寝台に入ります」(29年目長距離4トン)

停める場所もないのに、法律は「停まれ」という。

「時間通りに来い」という荷主は、「呼ばれるまで外で待っていろ」「でも遠くにいるな」ともいう。

事情を知らぬ世間からは「邪魔だ」と煙たがられるも、それでも後ろめたさを抱きながら路駐で浅い睡眠を繰り返すトラックドライバー。荷台には、そんな世間の”生活”をたんまり載せている皮肉。

こうした、彼らではどうすることもできない状態がこれまで長いこと続いてきているのだが、荷主に「トラック待機場」を設けているところはごくわずか。対策を講じない国にも、現場からは不満の声が上がる。

「高速道路の車線を増やすのも結構だが、走らせる道より停める場所を作ってほしい」(40代関東地方配車係)

場所を選ばず路駐をするトラックにも非はあるが、路駐をさせてしまっている国や荷主には、果たして責任はないのか。

トラックドライバーが道路上で仮眠を取らずに済む日は、やってくるのだろうか。

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フリーライター

フリーライター。大阪府生まれ。元工場経営者、トラックドライバー、日本語教師。ブルーカラーの労働環境、災害対策、文化差異、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆・講演などを行っている。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)。メディア研究

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