新型ウイルスに対して、君は何ができるか
このところ、2週間程度、在宅テレワークで取材・執筆している。8日には、スタッフ全員在宅から、ウェビナー(ウェブベースのセミナー)を開催した(図 1)。その時の内容や背景などを記事(参考資料1)にしたが、このウェビナーのテーマは「新型コロナウイルスに対して、半導体企業は何ができるか」である。
なぜこのテーマにしたか。対象読者が半導体業界の人たちだからである。ただ、内容的には半導体に限らず、半導体のユーザであるIT業界も含めている。半導体とITとは切っても切れないくらい深い関係があるからだ。彼らを対象読者と想定し、「新型コロナウイルスに対して、半導体企業は何ができるか」についてこれまで取材した材料を元にお話した。ポジティブなフィードバックをいただき、開催して良かったと思った。
なぜこのテーマを選んだか。その背景には実は10年前に取材で訪れたベルギーの半導体研究所IMECでの研究に衝撃を受けたという事実に基づいている。まだAIがブームになっていないこの当時、IMECでは半導体チップの上に細胞を乗せて、電気配線とつなぐという操作を行っていた。半導体と細胞などの生物とは関係ないのに、なぜこのような研究を行っているのか、CEO(最高経営責任者)のLuc Van den Hove氏に聞いてみた。その答えは「半導体技術で、ガン治療を目指す」ということだった。
このことは、「ガン治療」を「社会問題解決」という言葉に置き換えると、もっとわかりやすい、とその時思った。つまり、半導体技術で社会問題を解決する、という意識が新たな技術開発につながる。社会のニーズを知ることができるという訳だ。最近では、IT企業も、ITで社会問題を解決する、という言葉を標語に掲げる所も増えている。
かつて、面白いかもしれないが何の役に立つのかわからない、と言いながら研究を続けるエンジニアや研究者が少なくなかった。特に大学関係者には象牙の塔に閉じこもった研究者や教授たちが多かったが、浮世離れしていて、世間の常識が通用しない人たちという印象が強かった。最近は、もっと社会の役に立ち、世の中を変えよう、という意識を持つ人たちが増え、望ましい傾向にはなっている。
新型コロナウイルスにはITや半導体は関係ないな、ということは決してない。むしろ海外のITサービス業者や半導体メーカーは、自分たちで協力できることはないか、という目で新型コロナに対処している。例えばA-Dコンバータが得意なアナログ・デバイセズ社は、同じA-Dコンバータでも医療向けを最優先して出荷することを表明している。また、医療従事者向けに使い捨ての白衣やマスクなどを寄付するところもある。
さらに、半導体のMEMS技術でマイクロ流路を作製しMEMSクロマトグラフィや、あるいは多層膜を利用して小型のPCR検査に使うデバイスを作製したという企業や大学もある。3~4日かかる検査結果を、小型化することにより数時間で結果を知ることができるようになる。また、半導体製造のクリーンルームではウイルスも通さないほど効果の高いフィルタを使っており、しかも不純物は100万分の1どころか、ppbという10億分の1の非常に高い純度が要求される。これを利用して、半導体グレードの洗浄方法でマスクを洗う、あるいは除菌する、などの技術を転用する手もある。半導体製造技術者は、新型コロナウイルスの退治に大きく貢献できるはずだ。
新型コロナウイルスの同定に使うDNA解析などにHPC(高性能コンピュータ)を提供するという動きが米国にある。「Covid-19 High Performance Computing Consortium」と名付けたコンソーシアムが誕生し、IBMやAWS、Nvidiaなどの企業だけではなく、DoE(エネルギー省)所属のSandia国立研究所やLaurence Livermore研究所などの6研究所、そしてMIT(マサチューセッツ工科大学)やCMU(カーネギー・メロン大学)などの9大学などが参加し、医療向けのデータ解析を優先する。
新型コロナウイルスを退治するためには、とにかく感染しないように人から距離を置くことしかない。最初に感染が広まった武漢市の場合、1人が接触すると平均2.6人に移り、2.6のn乗で感染者数が増えていった。新型コロナウイルスの感染力は、これまでのSARS(サーズ)の80倍とも200倍とも言われている。一般の消費者ができることはやはり、人と離れていることしかない。もし1人が接触する人数が1人未満となれば、そのn乗だから感染はどんどん減少しゼロに近づく。だから隔離が絶対に必要なのである。
参考資料