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ヌスラ戦線がスペイン人ジャーナリスト3人解放、カタールが仲介、安田さんでもかぎを握る?

川上泰徳中東ジャーナリスト
ジャーナリスト3人の解放を伝えるスペインのエル・パイス紙のインターネットサイト

シリア北部に支配地域を持つシリア反体制のイスラム武装組織「ヌスラ戦線」に拘束されていたスペイン人ジャーナリスト3人が7日、解放されたことが明らかになった。ヌスラ戦線はアルカイダ系組織で、ジャーナリストの安田純平さん(42)も拘束しているとされる。スペイン人3人の解放交渉ではトルコとカタールが仲介したとされ、今後の安田さんの解放交渉でも両国がかぎを握りそうだ。

スペインのエル・パイス紙によると、同政府筋は7日、昨年7月からシリア北部でヌスラ戦線に拘束されていたジャーナリスト3人が解放され、トルコで無事に保護されていると明らかにした。スペイン政府では副大統領直轄の中央情報センター(CNI)が解放交渉にあたったという。同政府筋は「多くの政府職員の働きと同盟国や友好国の協力によって」解放が実現したとし、最後は主にトルコとカタールの協力によると明らかにした。

エル・パイス紙によると、ヌスラ戦線は人質の解放と引き換えに高額の身代金を課すことが知られているが、スペイン政府筋は、3人の解放のために身代金が払われたかどうかは明らかにしていないという。3人については、この数か月、ヌスラ戦線からそれぞれのビデオがインターネットに公表され、健康状態は良好に見えたという。

一方、カタール国営通信は7日、同国外務省はスペインのイバニェス外務長官から「シリアで拘束されていたスペイン人3人の解放につてのカタールの努力を感謝する」との電話を受けたと報じた。

安田さんはスペイン人ジャーナリストが拘束されるより一か月前の昨年6月にシリア北部で行方不明になった。スペインでは政府と民間が一緒に救済委員会を作って、ヌスラ戦線の代理人と交渉をしているとされてきた。スペイン人ジャーナリストの動画は2月にインターネットで公開されたとされるが、拘束されている安田さんの動画も3月、公開されている。

スペイン人ジャーナリストの解放の詳細は明らかになっていないが、ヌスラ戦線は直接は人質解放交渉は行わず、表に出ているのはトルコにいる「代理人」である。この点は、安田さんの動画を公開した人物も「ヌスラ戦線の代理人」を名乗っている。

ただし、今回のスペイン人ジャーナリストでもトルコとカタールの助力が特別に言及されているのは、交渉は「代理人」とだけで行われているのではなく、トルコやカタールという反体制勢力に影響力を持つ国が、ヌスラ戦線本体に働きかけていることがうかがわれる。反体制地域との連絡や通交は、国境線で接しているトルコの協力がなければできないが、実際の交渉ではカタールの存在が重要とみられる。

ヌスラ戦線からの人質解放でカタールの名前が出てきたのは、2014年8月、米国人フリージャーナリストがヌスラ戦線に2年間拘束された後、無事に解放された時にもあった。この時、カタールの衛星テレビ局アルジャジーラが「カタール政府が仲介した」と報じた。

この事件で、米国政府は身代金の支払いを否定しているが、米衛星テレビのCNNは捜査当局者の話として「米国は解放の交渉には関わっていないが、解放が無事行われるよう民間の動きを支援した」と報じている。

この時、ケリー国務長官は声明を出し、「2年間、米国政府は彼の解放を実現し、さらにシリアで人質になっているすべての米国人の解放を支援してくれる力になってくれる者、影響力を持っている者、手段を有するかもしれない者たちに緊急の助力を求めて20カ国以上の国々と連絡をとった」と明らかにした。

ヌスラ戦線は昨年12月に国連安全保障理事会がシリア内戦終結を求める決議を採択した時に、「イスラム国(IS)」と共にテロ組織として認定された。ただし、ヌスラ戦線はこれまで人質を殺害したことはなく、アサド政権との間で最も激しく戦う反体制組織としてシリア北部の反体制地域で強い影響力を持っている。

さらに、反体制地域で活動する「シリア人権ネットワーク(SNHR)」の集計によると、2015年の民間人の死者21179人のうち、アサド政権軍の攻撃による死者が12044人(73.3%)、ISによるものが1366人(8.3%)に比べて、ヌスラ戦線による死者は89人(0・5%)と極めて少ない。これは米国が率いる有志連合による空爆による巻き添えや誤爆による民間人死者271人の3分の1に過ぎない。ヌスラ戦線は地域住民の支持を得るために、民間人を戦闘に巻き込まないという方針をとっているためとされる。

今年1月末からアサド政権と反体制勢力の間で始まったシリア和平交渉や停戦交渉では、ISとヌスラ戦線は除外されているが、カタールは、ヌスラ戦線に対して、アルカイダと絶縁して、和平交渉や停戦に参加するように働きかけたという報道も出ていた。アルカイダとの絶縁は実現しなかったが、ヌスラ戦線側には極端な排他主義のISとは異なり、地域や国際社会による認知を受けようとする意図があるとの見方がある。

安田さんの解放についても、自称「ヌスラ戦線の代理人」との関係だけでなく、カタールやトルコを通じてのヌスラ戦線への働きかけが重要な鍵となる。そのためには、日本政府が主導的に動く必要があり、日本の外交力や交渉力が問われることになる。

中東ジャーナリスト

元朝日新聞記者。カイロ、エルサレム、バグダッドなどに駐在し、パレスチナ紛争、イラク戦争、「アラブの春」などを現地取材。中東報道で2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。2015年からフリーランス。フリーになってベイルートのパレスチナ難民キャンプに通って取材したパレスチナ人のヒューマンストーリーを「シャティーラの記憶 パレスチナ難民キャンプの70年」(岩波書店)として刊行。他に「中東の現場を歩く」(合同出版)、「『イスラム国』はテロの元凶ではない」(集英社新書)、「戦争・革命・テロの連鎖 中東危機を読む」(彩流社)など。◇連絡先:kawakami.yasunori2016@gmail.com

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