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韓国での親善試合でC・ロナウドが欠場し大騒動 現場では何が起きていたのか

金明昱スポーツライター
試合に出場せず大騒動になっているC・ロナウド。共同取材エリアも無言で立ち去った

「ペーシン!(背信) ペーシン!(背信)」

 6万5000人が埋まったソウルワールドカップ競技場に集まった観客の歓声とどよめきは、徐々にある選手への怒号とブーイングに変わっていた。

 それが最後まで試合に出場せず、ベンチに座っていたユベントスのクリスティアーノ・ロナウドに向けられたものであることは、誰が見ても明らかだった。

 3-3で終わった26日のチームKリーグ対ユベントス戦は試合内容そのものよりも、話題になったのがユベントスの対応とC・ロナウドが出場しなかったことだった。

 本当にユベントスとC・ロナウドは韓国のサッカーファンを裏切ったのか。一体何が問題だったのか。事態は収束に向かうのか。大騒動となった一連の動きを追った。

「ロナウド選手は来ない」

 試合開始時間の20時になってもユベントスはスタジアムに現れなかった。

 選手の到着が遅れていることを知らせるアナウンスがあり、試合が始まったのは20時57分。約1時間遅れのキックオフで、現場はすでに混乱していた。

 筆者はユベントスが間に合わないことはすでに分かっていた。

 というのも、ソウル市内で開催されたユベントスのファンイベント取材にも行っていたのだが、そこで混乱が起こっていたからだった。

 15時からソウル市内のホテルでユベントスファン200人が集まり、選手たちとの交流、サイン会が行われる予定だった。

 だが、待てども姿を見せない。

 16時半になって選手たちはホテルに到着したが、スタッフたちの慌ただしい動きばかりが目立った。

ファンイベントに集まった人たちの前で、ロナウドが参加できなくなったことを謝罪する主催者のロビン・ジャン社長。ファンは落胆の表情を浮かべていた
ファンイベントに集まった人たちの前で、ロナウドが参加できなくなったことを謝罪する主催者のロビン・ジャン社長。ファンは落胆の表情を浮かべていた

 選手たちのの代わりに登場したのは、今回の試合を主催した広告代理店「thefasta(ザフェスタ)」のロビン・ジャン社長。

 約2時間も待たされたファンはそこで衝撃の言葉を聞くことになる。

「予定時刻にユベントスの選手を乗せた飛行機が到着せず、予定よりも2時間も遅れてしまいました。ロナウド選手はコンディション調整を優先するため、ファンイベントには参加できません。本当に迷惑をおかけして申し訳ございません」

 楽しみにしていたファンとしては、謝罪の言葉はとても受け入れがたく、ため息ばかりをついていた。

 試合は20時開始。時間は17時を過ぎており、イベント自体が中止になるかと思ったその時だった。

ロシアW杯では日本と対戦したポーランド代表のGKヴォイチェフ・シュチェスニーもファンイベントに姿を見せた
ロシアW杯では日本と対戦したポーランド代表のGKヴォイチェフ・シュチェスニーもファンイベントに姿を見せた

200人のファンを喜ばせたGKブッフォン

 元チェコ代表で現在はユベントスの副会長を務めるパベル・ネドベドが姿を現して、ファンを驚かせた。すると、次々と選手たちが会場に入ってきた。

 ファンイベントの時間は短縮されたが、数人の選手がファンのためにサインと写真撮影に応じたのだった。

 最も人気があったのは、元イタリア代表GKジャンルイジ・ブッフォン。丁寧なサービスはファンと関係者をとても喜ばせていた。

去年5月にユベントスを退団したが、今年7月に再び古巣に戻ってきた元イタリア代表GKジャンルイジ・ブッフォン。ユベントスの顔ともいうべき男は大人気だった
去年5月にユベントスを退団したが、今年7月に再び古巣に戻ってきた元イタリア代表GKジャンルイジ・ブッフォン。ユベントスの顔ともいうべき男は大人気だった

 ロナウドは主催者の説明通り、会場に姿を見せなかったが、何もネガティブな話ばかりではない。

 短い時間だったが、そこには確かにユベントスの選手と触れあい、恩恵を受けたファンの笑顔があった。

 時間がほとんどなかったとはいえ、集まったファンに申し訳なく思うユベントスの選手がたくさんいたことが、唯一の救いだったかもしれない。

 このニュースは、韓国ではほとんど報じられておらずかなり違和感があった。

 ただ、この時すでに18時30分。試合開始20時には間に合わないのは明らかだった。

ユベントスと代理店の間で交わされた「契約書」があった

 ユベントスの選手がスタジアムに向けて、ホテルを出発したと同時に、筆者も現場に向かった。

 選手がピッチに登場したのは、20時15分ごろ。試合が始まってもロナウドはベンチに座ったままだった。

 後半25分ごろ、徐々にスタジアムは異様な雰囲気に包まれていった。一向に出場の気配を見せないロナウドへ大ブーイングが起こったのだ。

 結局、最後までロナウドは出場せず、3-3で試合が終了。ブーイングを聞いてからなのか、ロナウドは明らかに怪訝な表情をしていた。

 ついにファンに手を振ることもなく、そのまま去っていった。

 試合後の共同取材エリアに姿を現したロナウドは、呼び止めの声に耳も貸さず、終始無言でバスに乗り込んだ。

 ユベントスのマウリツィオ・サッリ監督は試合後、ロナウドを出場させなかった理由について「筋肉の疲労によって100%の状態ではなかったから試合前に本人と相談し、休ませるのがベストだと考えた」と説明していたが、仮にそれが事実だとすれば、サブにも名前を入れないはずなのだが……。

電光掲示板にC・ロナウドの姿が映し出されるたびに大歓声が起こっていた。最初は笑顔で手を振るシーンもあったのだが…
電光掲示板にC・ロナウドの姿が映し出されるたびに大歓声が起こっていた。最初は笑顔で手を振るシーンもあったのだが…

 試合後、ユベントスはその足で空港に向かい、午前2時過ぎの飛行機でイタリアへ帰国した。

 ファンの怒りの矛先は、出場しなかったロナウドだけでなく、主催者と韓国プロサッカー連盟に向けられた。

 試合後の騒動は、「ロナウドがファンイベントと試合に45分以上出場する」と交わされた「契約問題」に発展する。

 すでに一部、韓国でのニュースが日本でも報じられているが、主催者とユベントス、主催者と韓国プロサッカー連盟との間で、契約書が交わされていたことは、現場で確認できた。

「1日ですべて終えられる」引き受けたユベントスも問題?

 契約内容に関する公式の説明と謝罪文が、主催した「thefasta(ザフェスタ)」からメールが送られてきた。

 要約した内容はこうだ。

チームKリーグ対ユベントス戦のスターティングリスト。右側のユベントスのリストに7番でロナウドの名前は入っていた。途中交代で出場するものと思っていたのだが……
チームKリーグ対ユベントス戦のスターティングリスト。右側のユベントスのリストに7番でロナウドの名前は入っていた。途中交代で出場するものと思っていたのだが……

「今回の試合を準備した主催者として、ユベントスの契約不履行に対して対処できなかったことについて、深く謝罪を申し上げます。今回の親善試合は、私たちにとって、想像できないほどの大きな失望でした。まず主催者である我々『ザフェスタ』とユベントスの間で締結された契約書には、ロナウド選手が最低45分以上出場することが正確に明記されていたことをはっきりと申し上げます。出場しないケースの例外の条項は、ウォーミングアップ時の負傷、試合中の負傷で45分プレーできない場合に限られています。そもそも、ユベントスから、出場選手のエントリーシートを受け取った時点で、ロナウド選手のケガや特定事由で出場できないという事前の通達を受けていない状態で、後半戦にロナウド選手の出場が不透明になったあと、何度もクラブ関係者に出場を要請しましたが、『(45分以上出場義務条項について)監督も選手も知っている。選手が疲れていると言って、出場できない』と答えるだけでした」

 これを見る限り、契約を守らなかったユベントス側に問題がある。

 しかし、ここで疑問が生じる。

 そもそも、0泊2日という強行日程は最初から無理だったのではないか。

 なぜ主催者と韓国プロサッカー連盟は、この親善試合を受け入れたのか。

 それについても主催者側はこう説明している。

「24日のインテルとのインターナショナル・チャンピオンズ・カップを終えて、26日に韓国に入国した場合、ロナウドのほかユベントス選手たちの疲労は十分に理解できる。しかし、ユベントスが26日の日程に同意し、疲れている選手のために予定していた2泊3日の日程を2日短くしてほしいと要請があったからです」

 つまり、ユベントス側が1日ですべてのイベントを消化できると伝えてきたのだから、主催者側の言い分では、原因はクラブ側にあると言える。

試合前日に行われたサッカークリニックのイベント。元フランス代表のトレゼゲが登場すると会場は大興奮。子どもたちのプレーを見ながら楽しんでいた
試合前日に行われたサッカークリニックのイベント。元フランス代表のトレゼゲが登場すると会場は大興奮。子どもたちのプレーを見ながら楽しんでいた

騒動の裏ではダービッツとトレゼゲがサッカークリニック開催

 今回の一件で、ユベントスが韓国のサッカーファンに悪いイメージを残してしまった感は否めない。

 だが、悪い話ばかりではない。

 試合が行われた26日の前日に、ユベントスでプレーした元オランダ代表のエドガー・ダービッツと元フランス代表のダビド・トレゼゲが、韓国のサッカー少年を対象にサッカークリニックを開催した。

 あいにくの雨にもかかわらず、ダービッツとトレゼゲは子どもたちの1対1のプレーを見て、簡単な基本技術を教えた。最後にはサイン会もこなし、約1時間のイベントを無事に終えた。

雨の中、ダービッツも子どもたちの元気な姿に終始笑顔だった。このあと自身も一緒にプレーして、熱心に指導していた
雨の中、ダービッツも子どもたちの元気な姿に終始笑顔だった。このあと自身も一緒にプレーして、熱心に指導していた

 共同インタビューに応じたダービッツはこう言った。

「子どもたちと共にする時間はとても楽しい。今日は簡単な技術だけ教えたけれど、子どもたちにはこれからも練習を怠らないようにと伝えた」

 現役を退いたとはいえ、世界トップレベルの選手たちの技術に触れた子どもたちの目は輝いていた。それこそ、少年たちにとっては夢のような時間だったに違いない。

 ただ残念なのは、こうした話がほとんど語られないこと。

 今回の親善試合は、ロナウドで始まり、ロナウドで終わった。

 ただ、その陰で韓国ファンのために尽力したユベントスの選手や関係者が存在し、Kリーグの選手たちもベストを尽くして試合を盛り上げた。

 本来はこうしたサッカーの楽しさや現場の声が、もっと多く語られるべきなのではないかと私は思う。

(※写真はすべて筆者撮影)

【この記事は、Yahoo!ニュース個人の企画支援記事です。オーサーが発案した企画について、編集部が一定の基準に基づく審査の上、取材費などを一部負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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