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日本女子ゴルフ界に“第2のイ・ボミ”は必要なし?…日本ツアーは予選会への門戸を開放すべきか

金明昱スポーツライター
イ・ボミのような選手の登場は日本ツアーにもう必要ない?(写真・KLPGA)

 2024年の日本女子プロゴルフツアーはネタに事欠かない1年だったように思う。今季8勝の竹田麗央が国内女子ツアーで年間女王に輝いたほか、「TOTOジャパンクラシック」優勝で得た権利で、来季から米女子ツアーに参戦。さらに初優勝者は7人も誕生した。ほかにも米女子ツアー最終予選には山下美夢有、岩井明愛、岩井千怜、吉田優利、馬場咲希の5人が突破するなど、明るい話題が多かった。

 それに2022年と2023年も国内ツアーの初優勝者は、それぞれ9人と近年は若手の台頭が著しく、ツアー人気は衰えることを知らない。

 一方で、日本ツアーでは、外国人選手の姿はあまり見られなくなった。来季のフルシード権が付与される「メルセデス・ランキング」50位以内には外国人選手は、イ・ミニョン、ペ・ソンウ、リ・ハナ、全美貞の韓国選手4人とウー・チャイエンの台湾選手1人の計5人。

 ちなみに10年前の2014年、アン・ソンジュが賞金女王になった年のシード選手は、外国人選手が16人(そのうち、韓国選手が12人)もいた。イ・ボミが賞金女王になった2015年と2016年、外国人のシード選手はそれぞれ12人。常に10人前後の安定した力を持った外国人選手がシード権を持っていたわけだが、ここに割って入るほど力のある若手もそう多くはなかったように思う。

QT受験資格の変更で外国人選手は日本に来づらい?

 確かに近年は、日本ツアーに参戦する外国人選手が減り続けている。歯止めがかかった要因の一つと言えるのが、2019年に日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)が変更した予選会(QT)の受験資格だろう。2018年まではJLPGA非会員でもQTを受験できたが、2019年からプロテスト合格などで正会員になることが条件となった。

 日本ツアーで4度の賞金女王となったアン・ソンジュ、同年代で人気を誇ったイ・ボミやキム・ハヌルなどの韓国選手は、すべてQTを突破して日本ツアー参戦を決めている。

 制度が変わったことにより、自国のツアーを欠場し、プロテストを受験するスケジュールを確保してまで日本ツアーに参戦を目指す韓国人選手はほぼいなくなった、というのが現実だ。今も「日本ツアーに行きたくても、行けない」という韓国ツアー選手は多いと聞く。

 しかし、例外もある。毎年20人しか受からない狭き門と言われる日本のプロテストに合格して正会員となり、QTを受験して日本ツアーに参戦した韓国人選手にはアン・シネとジョン・ジユがいるが、これは稀なケースだ。

 プロテストに合格していない日本選手がQTに参戦できないのは、外国人選手と同条件ではある。しかし、すでにプロツアーで実績がある海外ツアーの選手が日本に簡単に来られなくなったことで、新たな韓国選手は日本ではほぼ見られない状況になったと言い切っていいだろう。

「日本行きを模索していた」というキム・ヒョージュ

 韓国女子(KLPGA)ツアーには、日本で結果を残して、比較的人気が出そうな“予備軍”が控えている。今季の日本女子ツアー「ワールドレディスチャンピオンシップサロンパス」で3位になった2023年KLPGA大賞(年間女王)のイ・イェウォン、今年日本ツアーに2試合に推薦で出場した2022年KLPGA大賞のキム・スジといった実力者のほか、韓国ツアーでアイドル的な人気を誇るツアー通算7勝の24歳、パク・ヒョンギョンという選手も日本ツアーへの興味を持っていることでも知られている。

 現在、米ツアーを主戦場にしているキム・ヒョージュも一時は日本ツアー参戦を考えていたというが、制度変更のタイミングで断念したと聞いたことがある。実際、数年前に韓国のゴルフ担当記者から「(キム・)ヒョージュの日本現地マネジメントができないか?」と相談されたことがあった。もちろん畑違いの仕事はできないと断ったのだが…。

日本女子ツアーにはスター選手の登場が待たれる?

 いずれにしても次々と現れる若手の争い、新たなヒロイン誕生は確かに新鮮で、話題にことかかない。米ツアーに出ていく選手が多いとはいえ“空洞化”は起こらず、人気はこれからも持続していくような雰囲気さえある。

 それでも、かつての宮里藍や現在は米ツアーが主戦場の渋野日向子のようにスター性を持った選手の登場も待たれる。もちろんこの先、どうなるかは分からないが、そういう意味でも改めて非会員の外国人選手へのQT受験の門戸開放も一つの手ではないだろうか。強い選手が来ることで、さらにツアー全体のレベルも上がり、さらに盛り上がると考えるべきか、日本の若手の“職場”を奪われるから必要ないと考えるのか――。

 日本ツアーが強化され、米ツアーに挑戦する日本選手が増えたことや途切れることのない人気を考えれば、“韓国から新たな刺客”と騒ぎ立てるような“第2のイ・ボミ”はもう必要ないのかもしれない。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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