教室に居場所がないまま卒業を迎えて…。朝井リョウ原作、高校を2年で終えた中井友望が知った青春の切なさ
卒業式までの2日間、廃校となる校舎で、それぞれの“恋”に別れを告げようとする4人の少女たち……。朝井リョウの連作短編小説を映画化した『少女は卒業しない』が公開される。クラスに馴染めず、図書室に通いながら先生に密かな想いを寄せる役を中井友望が演じている。中学で不登校、高校は退学した自身と近い役に、去来する想いがあったという。
私も教室まで来て、そのまま帰ってました
――『シノノメ色の週末』での取材では、演技の発声のためにボイストレーニングに通っているというお話でした。もう身に付いた感じですか?
中井 身に付いたというほどではないですけど、“こうしたら声がよく出る”というのは以前よりだいぶわかってきたと思います。
――その後の作品で活きました?
中井 舞台では稽古中もボイストレーニングに行って、相談してました。今回の『少女は卒業しない』は声を張る役ではないですけど、小さい声で話すところでも伝わるようになった気がします。
――クラスに馴染めない作田詩織役は、友望さん自身と重なるところが多かったようですね。
中井 はい。冒頭に教室の扉まで来て入らずに戻っていくシーンがありますけど、私も実際そういうことはしました。作田にとっての図書室みたいな場所がなかったので、そのまま家に帰っていて。
――保健室に行くわけでもなく?
中井 最初は保健室で受け入れてくれました。「教室がイヤなら、ここにいていいよ」って。それで頻繁に行っていたら「来すぎ」と言われたんです(笑)。私にも作田みたいな居場所があれば、卒業できていたのかなと思います。
ただ先生がいてくれるのが心地良かったのかな
――作田が「話せる人がほとんどいない」と言っていたのも、同じでした?
中井 私は普通に友だちはいたんですけど、馴染めないというか。教室で孤立していたわけではないけど、何か居心地が悪くて。
――中学時代は不登校でも、部活だけは行っていたんですよね?
中井 そうです。バスケ部はずっと続けていました。
――選手として活躍していて?
中井 活躍というほどではないですけど、いちおう試合に出るくらいの感じでした。
――劇中で図書室を管理する坂口先生みたいな人はいませんでした?
中井 いなかったです。坂口先生はやさしいけど、そんなに先生らしくなくて、ただ図書室にいるだけ。それが作田には心地良くて、通っていたと思うんです。私の場合、めっちゃ先生っぽくしてくる先生が多くて。
――友望さんをクラスに馴染ませようとしたんでしょうけど。
中井 熱血まではいかなくても、「生徒に寄り添っているでしょう?」という感じで来られるから、「うるさい!」みたいな(笑)。今思えば、私が思春期でひねくれていたんですけど、そういう先生は苦手でした。
監督をガッカリさせたらダメだと思いました
――では、演技的には作田はやりやすかったと?
中井 すごく演じやすかったし、監督が演じやすいようにしてくれました。会話のテンポとか空気感とか、作田のキャラクターについても、どうして欲しいとか一切言われず「中井さんのままでいいよ」ということでした。
――中川駿監督は友望さんについて、「想定より台詞回しがゆっくりでしたが、それも味なので、そのまま使わせてもらいました」とコメントされています。
中井 そうなんです。オーディションも緊張しますけど、今回は役に決めていただいた後で初めて監督とお会いして、もう代わるわけにはいきませんから。ガッカリさせたらダメだと思っていました。
――先生だけに向ける笑顔やはにかみも自然に出たものですか?
中井 そうだと思います。特に「こうしよう」と意識はしてなかったので。先生役の藤原季節さんに、お芝居でもそれ以外の面でも助けてもらいました。
――合間にもコミュニケーションを取っていたり?
中井 図書室の先生と生徒という役どころで、最初に好きな本の話をしました。私が以前のインタビューで挙げた宮本輝さんの『錦繍』を、藤原さんもたまたま読んでらっしゃって。「中井さんも好きなんでしょう? すごく良いよね」って、作田と先生っぽくお話しできました。
学校の外で先生と会ったシーンで好きなんだろうなと
――公式HPで作田は先生に「密かな想いを寄せる」とありますが、どんな想いか掘り下げたりもしました?
中井 そこまで掘り下げませんでした。原作では作田は先生に「好き」と伝えてますけど、映画では直接的な言葉は何もなくて。観ていれば伝わるかもしれなくても、言ってはいない。だから、先生を好きだと意識しすぎるのは、何かイヤだなと思って。居場所と考えるだけでした。
――結婚指輪が目に入る描写はありつつ。
中井 先生と初めて撮ったシーンが学校ではなくて、あの本屋さんの前だったんです。先生が「送ります」って、自分の帰り道と逆に行こうとするのを見たとき、作田はこういうところも好きなんだろうなと、すごく思わせてくれました。そこで一歩、作田に近づけたので、最初があのシーンで良かったです。
――作田が制服でないシーンでもありました。
中井 学校の外で先生に会って、先生のことをすごく知っている気持ちになれました。3年間いろいろ積み重ねてきた先生の思い出があるはずなのを、カバーできた感覚でした。
――藤原季節さんの出演作は観たことありました?
中井 『佐々木、イン、マイマイン』と『空白』を観ていました。私の中では、熱くて生きるエネルギーがすごい役柄が多いイメージだったので、メガネで控えめな先生役というのは想像がつかなかったんです。でも、その本屋さんのシーンで「ああ、こんな先生か」と。確かに作田は好きになるなと思いました。
無理して頑張りたくはなかったんです
――卒業式の前日、作田が先生にアドバイスをもらって、クラスメイトに話し掛けたときのぎこちなさも、友望さん自身、覚えがあることでした?
中井 あります。話し掛けてはみたものの、返ってきた言葉にどうリアクションすれば? みたいな。一瞬、空気が止まる感じがしたこともあります。
――話そうと努力はしたんですか?
中井 私自身は作田みたいに頑張ろうとはしなかった気がします。「誰とも話したくない」と内にこもっていました。
――変わりたいと思ったこともないですか?
中井 この映画みたいに一歩踏み出すことは、学校でもその後も、してなかったかもしれません。そう言うと、向上心がないみたいでイヤですけど(笑)、無理して頑張りたくはないという感覚なんです。「この人と話したい」と思ったら話しにいくだけで、「話さないといけない」とはあまり考えませんでした。
卒業する気持ちを初めて味わえました
――高校を中退した友望さんは、卒業前の感覚は経験してないわけですよね?
中井 そうですね。中学の卒業式は出ましたけど、涙も何もなかったし、高校は卒業したいとも思わなかったので。
――退学するにせよ、最後に学校に行った日とかは覚えていませんか?
中井 それがなくて。高校は3年の初めでやめたんですけど、学校に行かなくなって、いつの間にかフェイドアウトした感じでした。
――映画の中では、卒業前の感傷も味わえました?
中井 初めて経験できて、いいものだなと思いました(笑)。他のみんなは「卒業したくない」と言っていたり、割り切れない気持ちがあって、「早く卒業したい」と言っていたのは作田だけなんですよね。その作田も「したくない」に変わって。先生にも、せっかく最後にうまくいったクラスメイトにも、もう会えないんだと思うと切なくなりました。
――最後の図書室のシーンでの涙も、自然に流れたんですか?
中井 何回か撮ったり、待ってくださったりしました。そういうところで藤原季節さんにすごく助けていただいて、最終的には良いシーンが撮れたと思います。自分がどうしたか細かく覚えてないくらい、必死に演じていました。
通学中に聴いてた音楽に勇気をもらってました
――こういう青春ものに出たり観たりして、どんなことを感じますか?
中井 すごく良いな、羨ましいなと思います。この映画では、美しくてはかないものを観ているように感じました。朝井リョウさんの小説は青春の風景や色や匂いが言葉から伝わってきますけど、それが映画にもちゃんと全部出ていて。
――自分もそういう青春を送りたかったと?
中井 そんな青春を過ごす自分もアリだったかなと。私にとって楽しくなかった学校をやめたのは、後悔していないんです。でも、こういう道もあったんだなと思います。
――作田が図書室で借りたままだった本のように、自分にとってのお守りになっていたものはありますか?
中井 音楽ですかね。高校の頃、めっちゃ聴いていたのがELLEGARDENです。もともと父が好きで、私も通学中に聴きながら「頑張ろう」と勇気をもらっていました。
――特にどんな曲で励まされました?
中井 『The Autumn Song』です。歌詞が全部英語ですけど、初めて聴いた瞬間からリズムやメロディがすごく好きで。自分で全部和訳してノートに書きました。
いつの間にか人と話せるようになってました
――劇中で作田が「私も先生みたいに話せるようになれますか?」と聞く場面がありました。友望さんもなんだかんだと、今は普通に会話ができていますよね。自然にそうなったんですか?
中井 いつの間にか……かもしれないです。今も別に、頑張って話そうとしているわけではないので。
――現場でも、すぐ他のキャストと馴染めるように?
中井 それはちょっと難しいです(笑)。今回は藤原さんと2人のシーンが多くて、他の方とはあまり話してなくて。女の子4人で会ったのは、東京国際映画祭のときが初めてに近い感じで、今日のイベント(特別上映会)は2回目だから、少し話せました。
――同世代との群像劇で刺激も受けました?
中井 映画が出来上がって初めて、他のパートで「こんなことがあったんだ」と知りました。自分の出ている作品を1本の映画として客観的に観られて、めっちゃ面白かったです。
――それぞれ重なる場面はほとんどない中で、作田は河合優実さんが演じた山城まなみが卒業式の答辞を読むことになって、自分も変わりたいと思ったと話していました。
中井 私も河合さんだけ、一度お会いしたことがあったんです。だからイメージしやすくて、良かったかもしれません。
マーベル作品を一気に29本観ました
――最近、自分ではどんな映画を観ていますか?
中井 配信でも観るし、映画館にもよく行っていて、『ギフテッド』がすごく良かったです。
――天才的な数学の才能を持つ幼い姪と暮らす、独身男の話ですね。
中井 あと、観たことがなかったマーベル作品を、お正月から観始めて、29作品観ました(笑)。めちゃくちゃハマってしまって。それで、キャプテン・アメリカ役の俳優さん(クリス・エバンス)が主役の『ギフテッド』を観たんです。当たり前ですけど、アメコミのヒーローの役と叔父さんの役で全然違っていて、すごいなと思いました。
――でも、以前の友望さんは、そういうエンタメ大作は観ないという話でしたよね。なぜ急にマーベルを?
中井 お正月だし、観てなかったものを観ようと。確かに、私はジブリとか『ハリー・ポッター』とか王道な作品をあまり観たことがなかったんです。そういうのを知らないままなのもイヤだなと思ったのがきっかけです。観始めたら、やっぱり有名な作品は面白いですね。
きれいに陳列されてるとたくさん買ってしまって(笑)
――『少女は卒業しない』の特別上映会では、「卒業できないこと」というお題に友望さんは「陳列に弱い」と書いていました。
中井 お店できれいに並んでいるものを見ると、別に欲しくなくても買ってしまうんです。パンを食べきれないほど、本を一気に読めないほど、いっぱい買ってしまったり。飲み物も「絶対こんなに飲まない」というくらい、いろんな種類を買います。まんまと購買意欲をそそられてしまって(笑)。
――春は卒業はなくても、気分が新たになったりはしますか?
中井 私にとって、春はワクワクするより、何かが終わるイメージです。色でいうとピンクより水色。何となく切なくて、悲しい空気を感じます。
――暖かくなると、楽しみなこともないですか?
中井 季節でいうと夏が好きなんです。暑いだけで元気が出るので。逆に冬は嫌いで、寒いとイライラしちゃいます。だから、春が楽しみというより、冬が終わるのは嬉しいです(笑)。
撮影/松下茜
Profile
中井友望(なかい・とも)
2000年1月6日生まれ、大阪府出身。
「ミスiD2019」でグランプリ。2020年にドラマ『やめるときも、すこやかなるときも』で女優デビュー。主な出演作は映画『かそけきサンカヨウ』、『シノノメ色の週末』、『ずっと独身でいるつもり?』、舞台『アルプススタンドのはしの方 高校演劇ver.』など。3月24日公開の映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』、今年公開予定の『炎上する君』に出演。秋公開の『サーチライト-遊星散歩-』に初主演。
『少女は卒業しない』
監督・脚本/中川駿 原作/朝井リョウ 出演/河合優実、小野莉奈、小宮山莉渚、中井友望ほか
2月23日より新宿シネマカリテ、渋谷シネクイントほか全国公開