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アナリスト泣かせのプラチナ相場 ~皆が強気予想でも下げる相場~

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

国際商品市況では原油相場の乱高下が注目されがちになっているが、この大きな動きの影に隠れる形で、自動車の排ガス触媒や宝飾品に使用されるプラチナ(白金)価格が急落していることは余り話題になっていない。国際指標となるNYMEXプラチナ先物相場は、昨年7月6日の1オンス=1,523.80ドルをピークに断続的な値下がり対応を迫られており、2月17日の取引では一時1,168.30ドルまで、最大で23.3%もの下落率を記録している。これは、2009年7月以来の安値更新となる。

実はこのプラチナ、専門家の間では強気見通し一色とも言える相場である。例えばロイター通信集計のアナリスト調査だと、今年のプラチナ平均価格は1,309ドル、来年には更に1,480ドルまでの上昇予想が予想されている。

プラチナは総生産の7~8割が南アフリカ1カ国で生産されているが、その南アフリカでは昨年1~6月期に過去最大規模の鉱山ストライキが発生した影響が未だ解消されておらず、需要を満たす供給量を確保できないとの懸念の声が強いためだ。プラチナ鉱山会社の2014年12月期決算をみても、生産回復の遅れと収益環境の悪化が報告されており、プラチナ価格低迷が続く中ではどうしても大規模な生産を行うための設備投資を確保できない状況になっている。

プラチナ需給を分析している者にとって、昨年後半から続くプラチナ相場低迷に対して、強い違和感と警戒感が抱かれるとのは当然である。例えば貴金属調査会社GFMSは2015年のプラチナ需給について、年間764.59万オンスの需要が想定されるのに対して、鉱山生産とスクラップ供給を合計した総供給は699.97万オンスに留まることで、64.62万オンスもの供給不足が発生するとの見通しを示している。これは、年間鉱山生産の12%に相当する規模であり、プラチナ価格を押し上げて需要を抑制すると同時に、鉱山での増産、リサイクル供給の拡大を促す必要があると考えるのは、極めてロジカルな分析である。

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■教科書通りにはいかない難しさ&面白さ

しかし現実には、プラチナ価格は上昇すると狼少年のように言われ続けながらも、逆に下落する専門家にとっては不幸な相場展開が続いている。おそらく、多くの金融機関の貴金属アナリストは、最近のプラチナ相場低迷に苦虫をかんでいることだろう。

少し専門的な話をすると、最近の分析では、地上在庫と言われる退蔵プラチナが供給不足を穴埋めした可能性が高いと言われている。プラチナは、食糧やエネルギーなどとは違い、統計上は消費されても、地上からその存在が消滅してしまう訳ではないため、地上在庫が改めて供給項目に組み込まれたことで、供給不足が解消されたという訳だ。このため、一応は需給分析的にもプラチナ価格の低迷を正当化する余地はある。また、急激なドル高・ランド安(※ランドは南アフリカ通貨)はドル建てベースでの採算コストを引き下げることで、従来よりも鉱山会社の安値対応力が強化されている影響もある。

ただ、需要と供給とのバランスが歪んでいる以上、どこかでプラチナ価格の上昇が必要なことは間違いない。問題は、その前には地上在庫還流の勢いが途絶えなくても弱まる必要があることであり、最近のプラチナ相場の展開は、未だプラチナ供給は一向に不足していないことを示唆している。

現実問題としては、プラチナ相場は金相場と極めて強い相関関係を保っているため、金価格が上昇すればプラチナ価格も上昇、金価格が下落すればプラチナ価格も下落という、極めて単純な相場ロジックに支配されている。リスクオフの局面でプラチナ価格は上昇し、リスクオンの局面でプラチナ価格は下落し、教科書的にはプラチナ価格分析ではなく金価格分析の解説の方が当てはまる状況にある。このため、真剣にプラチナ需給を分析している専門家ほど、プラチナ価格の分析を誤り、頭を抱えてしまうことになる。

地上在庫が需要と供給バランスの歪みを埋め合わせる動きが終わり、金価格との連動性を断ち切ることができるまでは、貴金属アナリストは悩ましい時間帯が続くことになりそうだ。

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マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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