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公選法の「ボランティア選挙の原則」の下で貢献度が大きい旧統一教会の選挙応援

郷原信郎郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士
(写真:つのだよしお/アフロ)

安倍晋三元首相の銃撃事件をきっかけに、国会議員が、選挙の際に、「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」側から支援応援を受けたことが問題視されている。

信者からの高額献金などをめぐるトラブルを今も抱える教団と、国会議員が関係を持ち、そのイベントに参加したり、メッセージを送ったりすることで、そのような宗教団体に「お墨付き」を与えることになり、信者に入信の勧誘や献金の要請をやりやすくなる。その見返りとして行われるのが、教団の信者による国会議員の選挙の応援だ。

旧統一教会の日本での信者数は、数万人と言われており、全信者が投票してくれたとしても、参議院比例区での一人の当選に貢献できるかどうかという程度であり、信者の投票だけでみると、当選に向けての効果は限られている。

しかし、選挙運動に対する貢献という面で考えると、話は全く違ってくる。

公選法上、投票依頼だけではなく、選挙運動に関する金銭の供与も禁止されており、選挙運動は基本的にボランティアで行わなければならない。そのため、信者による無償の選挙応援は、国会議員、候補者が行う選挙運動にとって大変大きなメリットがある。

公職選挙法第197条の2で、ウグイス嬢(車上運動員)、手話通訳者と要約筆記者に、例外的に報酬を支払うことができるとされており、選挙運動に関する事務に従事する人(選挙事務員)にも報酬を支払うことができるが、行えるのは事務作業だけであり、選挙期間中に行われる街頭宣伝活動や電話がけの手伝いなどの選挙運動に直接関わることはできない。また、報酬を支給できる人員の数も制限されている。

国政選挙ともなると、選挙運動に相当多くの人数とその労力が必要となるが、それをボランティアで行ってくれる人間を確保するのは容易ではない。

河井克行元法務大臣の多額現金買収事件の現金供与先は、県議会議員・市町議会議員・首長ら44名に、合計62回、現金合計2140万円、河井氏の後援会の「三矢会」メンバー50名に対して合計385万円、選挙事務所のスタッフ6名に対して合計約377万円だった。

地方議員、首長に対する多額現金供与が注目されたが、実際には、後援会関係者や事務所スタッフ等に「選挙運動」の対価として金銭を供与したことも、公選法違反として起訴されている。

それは、後援会関係者、選挙事務所スタッフも、純粋ボランティアではなく、選挙運動の報酬を受け取っていたということであり、それが、公選法違反に問われたのだ。

私の検察時代の経験から言えば、かつては、選挙運動の摘発は、大部分は、有権者に対して投票依頼の対価を支払う「投票買収」だったが、小選挙区制が導入された1990年代末頃から、それまでのような投票買収が警察に摘発されることは少なくなり、それに代わって、選挙運動員に対する報酬を支払った「運動買収」の摘発が大部分になっていった。

そうなると、選挙運動員に対して報酬を支払うことは公選法違反での摘発のリスクがある。しかし、全く無報酬のボランティアで選挙運動に加わってくれる人を確保するのは容易ではない。宗教団体が、そういう無償応援をしてくれる人を出してくれると非常に有難い、ということになる。

霊感商法・合同結婚式・多額の献金等が社会問題化した旧統一教会側の活動に国会議員が関わっていたのは、その見返りとして信者が無償で選挙運動をやってくれることがボランティア選挙の原則の下で、当選するために大変大きな貢献になっていたからだろう。それは、「信者自身の投票」とは比較にならないほど大きなメリットだったはずだ。

そういう意味で、信者による無償の選挙応援が、候補者側にとって非常に大きなメリットがあるというのは、宗教団体と公職選挙に関する一般的な問題とも言える。

しかし、旧統一教会と自民党等の国会議員との関係は、それとは性格が異なる面がある。公明党の母体である創価学会や、政治活動・選挙での候補者の推薦等を公表して行っている立正佼成会などの場合は、宗教団体による選挙応援の事実が公開されているので、有権者としても、それを認識した上で投票することができる。しかし、過去に霊感商法等の問題を起こし、名称を変えた後も多額の献金をめぐるトラブルが発生している(カルト的)宗教団体である旧統一教会の場合、候補者が選挙応援を受けていることが、有権者に公開されていない。議員の側で、あえて隠していたとも言われているところに問題がある。

自民党福田達夫総務会長は、党本部での記者会見という公式の場で、旧統一教会と政治との関係について、

「何が問題か正直分からない」

「わが党が組織的にある団体から強い影響を受けて政治を動かしているのであれば問題かもしれないが、そういうことが一切ない」

と発言して、批判を受けた。

問題なのは、旧統一教会が自民党の政策に影響を与えているかどうかではなく、自民党議員の対応で「お墨付き」が与えられることが旧統一教会の信者勧誘や献金に与える影響であり、それが、表にも出せないような不透明な選挙応援、しかも、ボランティア選挙の原則の下で候補者にとって誠にありがたい応援の「見返り」として行われていることだ。

そういう当然のことが「理解できない人間」が、総務部門を取り仕切っていて、自民党は、本当に大丈夫なのだろうか。

郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士

1955年、島根県生まれ。東京大学理学部卒。東京地検特捜部、長崎地検次席検事、法務省法務総合研究所総括研究官などを経て、2006年に弁護士登録。08年、郷原総合コンプライアンス法律事務所開設。これまで、名城大学教授、関西大学客員教授、総務省顧問、日本郵政ガバナンス検証委員会委員長、総務省年金業務監視委員会委員長などを歴任。著書に『歪んだ法に壊される日本』(KADOKAWA)『単純化という病』(朝日新書)『告発の正義』『検察の正義』(ちくま新書)、『「法令遵守」が日本を滅ぼす』(新潮新書)、『思考停止社会─「遵守」に蝕まれる日本』(講談社現代新書)など多数。

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